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「育て直し」はできませんが、 「学び直し」はできます

 タイトルは、横芝敬愛高等学校長の白鳥秀幸先生の言葉です。

 とある雑誌の編集を手伝っておりまして、その関係で、学校も訪問させて頂き、お話もうかがいました。

 白鳥先生は、「学び」を通して、困難校と言われる学校を立て直してこられました。それが冒頭の言葉に表れています。教育に関しては、誰もが名言を言えますが、白鳥先生は、それを机上ではなく、具体的に実践し、驚くほどの成果をだされてきました。今は私立高校の校長ですが、それ以前は、県立高校長や市原市の教育長として実績を残された方です。

 その取組の一つが、小学校からの学習内容を学び直す「マルチベーシック」への取組です。小学校のたし算やかけ算、漢字などの初歩的な内容から中学の学習内容まで、基本・標準・応用の3ステップの膨大なプリントが用意され、それを英数国は週一時間、社理は隔週で取り組みます。取り組んだ結果を「学習診断カルテ」に記録し、教師も生徒自身も、学んで成果、苦手なところなどを確認できるようになります。
(タイトル写真は、膨大に用意されたマルチベーシックのプリントです)

 その取組は、非常に評価されて、ベネッセの学びのトレーニング「マナトレ」やNHK「高校講座 ベーシック10 高校通信講座」も、この「マルチベーシック」のプログラムを元に企画されました(HP等に明記されています)。

 小学校の学習内容を「学び直す」ことに抵抗はないのだろうか、と私も疑問に思いましたが、「学校に来る児童生徒は、誰もが勉強ができるようになりたいのです」と、みな積極的に取り組んでいるそうです。それはどの学校でもそうでした。

 こうした「学び直し」は、生活面へもよい影響を与えました。「学び直し」以外でも生徒指導への取組もありましたが、県立高校のときには、3年で遅刻数が3分の1に減り、性行不良等での指導も60%減ったそうです。

 そうしたところから、県立高校での取組には、全国の320校からの視察がありました。

 詳細については、次の書籍をご参照下さい(何冊もありますが、現在入手可能なものです)。
 『「学び直し」が学校を変える!―教育困難校から見えた義務教育の課題』

 また、先日、その雑誌のインタビューで、国立教育政策研究所所長の浅田和伸先生のお話もうかがいました。浅田先生は、文部科学省の官僚でありながら、東京都の区立中学校の校長を3年間務められました。

 浅田先生は「学校は、セーフティネットでもある」と言われます。そして「公教育は単なる物知りではなく『人』を育てるものです」とも言われました。家庭に困難がある子どももたくさんいます。そうした子どもにできるかぎりのことを身につけさせてやること、それがその子の幸せにつながると。それがセーフティネットということです。 

 浅田先生の中学校の校長時代の取組については、次の書籍をご参照下さい。
 『教育は現場が命だ 文科省出身の中学校長日誌』

 SNS等で、教師の「それは家庭がやることで学校がすべきではない」という発言をよく見ます。それはもちろんそうだとも思いますが、浅田先生は、学校でできること、できないことをわきまえた上で、

「目の前で溺れかけている子どもがいるのに『親が助けるべきだ』と言って手をこまねいていられますか」

と言われます。

 SNSである教師が「困難校に行くくらいなら、中卒で働いたほうがよい」と発言していましたが、元教育長が「学び直し」で困難校でも学力を立て直し、文科省官僚が「学校はセーフティネット」だと、家庭に困難を抱えた子どもに目を向けます。

 教育現場には、様々な困難があることを理解しているつもりです。ただ、その中でもできることもあるはずです。ぜひ、こうした取組にも目を向けていただきたいと思うのです。

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