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(過去記事)【開催レポート】BOOK CLUB 『オラクル・ナイト』

今回は現代アメリカ文学を代表する作家ポール・オースターの『オラクル・ナイト』が課題本でした。海外文学ということで、参加者が集まるか不安でしたが、無事定員の5名集まりました。

参加者は主催者含め、男性3名、女性2名でした。年代、住んでいる所、読書会歴もばらばらで、共通点は海外文学が好きという点でした。

(これより先は『オラクル・ナイト』のネタバレがあります。)

まず、ざっくりとした感想を伺いました。「運命、偶然の力を感じた」「とてもリーダブル」という意見や、オースターの初期の作品を読んだことのある参加者は、「初期の作品よりも、現実的な話になった」と言っていました。また、物語に出てくる色の描写が気になったという意見が上がりました。

その後、疑問や語りたいことを出し合いました。「物語として、様々な話が並行してあり、一貫していないが、それについてどう思うか」「言霊の力について」「シドはいつからグレースとジョンが通じていることを予感していたのか」「最後のシドの幸福感とは何に対しての幸福感か」などが出されました。

それぞれの疑問に対する、参加者の意見の抜粋です。

「最後のシドの幸福感に対して」

過去ではなく未来を大切にして生きようと思えたからではないか。シドが書いた物語は、どれも過去にこだわっている。ニック・ボウエンは過去を捨てる物語であり、過去の集積である歴史保存局も登場する。物語内物語である『オラクル・ナイト』は未来を透視できることに苦しむ男の話である。また、タイムマシンの翻案脚本は、過去を変えようとする物語である。

このように、シドは過去にこだわっていたが(ここではグレースとジョンの関係の疑念)その疑念を言葉にして、受け入れることで、過去を乗り越えたと考えられるのではないか。

「シドはいつからグレースとジョンが通じていることを予感していたのか」

物語の最初の方から予感していたのではないか。あるいは、ジョンが「私たちは時に物事が起きる前からそれがわかっていたりする。かならずしもその自覚はなくてものね。」と言うように、シドは自覚こそしていなかったが、無意識的には、ジョンとグレースの関係に気付いていたのではないか。そして、その事実を受け入れるために物語を書いたのではないか。

「物語として、様々な話が並行してあり、一貫していない、それについてどう思うか」

解説で柴田元幸氏が「誰の頭のなかでも、いろんな考えや疑い、確信や妄想、期待や不安などが、ごちゃごちゃに錯綜して刻々展開されているはず」と言っています。僕らも家庭での自分、仕事場での自分、友人と会うときの自分、と複数の自分、言い換えれば複数の物語を生きています。だから様々な話が並行してあるのは、むしろ当然のことであるのではないか。

というようなことを話しているうちに予定の時間になってしまいました。1時間半という時間は、この重層的な物語を語るには短すぎました。(次回からは2時間枠でやります。)

『オラクル・ナイト』は、前回の『海辺のカフカ』以上に、人によって解釈の分かれる小説でした。ですが、主催としては、参加者の方々と語り合うことで、新しい解釈に気付き、よりこの作品が好きになりました。

参加者の方々、ありがとうございました。

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