出会いから学ぶ、働くを考える。 〜仙川POSTOに「Polaris自由七科」を訪ねて
きみトリプロジェクトの舟之川聖子です。
7月初旬、調布市仙川にある、POSTOというスペースに『きみトリ』共著者の高橋ライチと訪問しました。
ここを知ったきっかけは、ライチと20年近い交流のある市川望美さん(非営利型株式会社Polaris ファウンダー)のツイッター投稿です。
写真を見てすぐ、ぜひここに行ってみたい!と思いました。そして、「自由七科BOOKS」って何ですか? どうして『きみトリ』を置いてくださったんですか? とお聞きしたくなり、市川さんとPOSTOでお会いすることになりました。
市川さんから事前に教えていただいたページによると、仙川POSTOは、「子どもも大人も誰でも、目的がなくても居ていい場所」をコンセプトに、クラウドファンディングで資金を集め、2021年3月にオープンしたコミュニティカフェなのだそう。
京王線仙川駅から歩いて3分ほどの好立地。明るいクリームイエローの壁が目を引きます。カフェ?なんだろう?とパッと見ではわからない感じです。
POSTOに入ってからエントランスを振り返ったところの写真。「ここから先はスマホもWiFiも禁止」の貼り紙あり!
何もない広いスペースが中央に確保され(まさに広場)、一角にはこんな場所も。ここはどんなふうに使うのかな?といろいろ想像がふくらみます。
本棚はどこかな?と見回すと......ありました!「自由七科BOOKS」の看板。本と一緒に置かれている「自由帳」には、さっそく『きみトリ』を読んだ方のご感想が書かれていました。うれしいです。
この日駆けつけてくださったのは、Polarisの市川望美さんと山本弥和さん、PolarisとPOSTOのつなぎ役である草野七瀬さん、POSTOの常連のはちみつさん。はちみつさんが焼いて来てくださったシフォンケーキをいただきながら、お話しました。(写真を撮り忘れましたが、ふわふわでおいしかったです!)
未来の選択肢を増やしたい
非営利型株式会社Polarisは、市川望美さん、山本弥和さんと、大槻昌美さんの3人で10年前に立ち上げた会社です。【「心地よく暮らし、心地よくはたらく」ことが選択できる社会へ】をビジョンに掲げて、手を挙げれば誰でも働くことができる、ワークシェアの仕組みをつくってきました。
Polaris公式ウェブサイト https://polaris-npc.com/
山本さん:「会社を立ち上げたのは、自分たちの子どもが大人になったときの、未来の選択肢を増やしたいと思ったのがきっかけです。"スキルがあるから" "恵まれてるから" 選択肢が多いのではなく、その子がどんな場所にいても、どんな状況になっても、生き方や働き方を自分で選べるように。そのための選択肢をわたしたちの世代で増やしておきたいと思ったんです。」
心地よく暮らし働くためには、社会の環境が大切と考え、働く仕組み作りを考えてきたPolaris。でも、いくら仕組みが整っていても、いろんな固定概念や社会通念に縛られて、思い切って踏み出せない時期もあります。だから、自分の思いに気付けるような、個人向けの講座なども開催し、仕組みづくりと自分づくりの両面にアプローチして活動してきたそうです。
本棚を通じて出会う
山本さん:「会社を設立して10年を迎えた今年、これまで培って来た個人の学びの機会づくりや、学び合いの場づくりに 『自由七科』と名付けて、3月に事業化しました。今回の本棚も、その事業の一環として設置したものです。一人ひとりの心にふれる瞬間を、本を通してお届けできたらと思っています。」
そこでつなぎ役になったのが、七瀬さん。「わたし自身がPolarisとの接点を探していたときに、出入りしているPOSTOに本棚を置いたらどうかと思いつきました。本棚を通じて、Polarisや自由七科が持っている価値観にふれられる機会があるといいなと思って。」
そして、その本棚をPOSTOに通っているはちみつさんが見つけ、『きみトリ』とも出会いました。はちみつさんは、POSTOの掲示板に、撮影の広告を出したり、お誕生日会を企画するなど、場所と人、人と人とをつないでいる人です。
一人ひとりの小さな思いや働きかけが、POSTOという場所を動かしていることを感じます。
はたらくをアートする自由七科(じゆうしちか)
https://polaris-npc.com/service/jiyushichika/
「自由七科」とは、「リベラルアーツ」の日本語訳。リベラルアーツがもともとは7つの学問を指していたことから。
自由七科で共有したい「学び」
市川さん:「さっきも話題に出ましたが、働き方の方法論だけを新しくしても、自分の頭の中の価値観が、"正規雇用フルタイムが正しい働き方" と固定されている限りは、小さな仕事をしてすごくうれしくても、どこかで、 "これしか稼いでいない" と否定してしまうことがある。せっかくの喜ばしい一歩が色褪せてしまったり、やっと灯った小さなともし火が消えちゃいそうになるのがすごく残念で。やっぱり新しいことに向き合うときには、"学ぶ"ことが大事なんだと思います。」
Polarisで使っている「学び」とは、いわゆる資格取得のための勉強や、即時に役に立つスキルのことではありません。「自分とは違う、いろんな人の考え方や感じ方に触れて、自分についての意外な発見をすること」と市川さん。あるいは、誰かに言われてモヤっとした経験の中にヒントを見出すようなことでもあります。これも学びのプロセスだと知っていると、「そんなモヤモヤしちゃいけないんだ」と自分を責めたり、相手に"反撃"するような振る舞いをしなくて済みます。
市川さん:「"はたらくをアートする"と自由七科では言っています。例えば、"気がつくと心が動く"ようなことからも、学びが起こってくるのではないかと思います。そして、自分がほんとうにどうしたいのか、何がしたくないのかに気づくこと。自分の中に起きた心の動きを理解しようと努めるには、思考体力も必要です。自分を切り開いていくとか、自分を信じるとか、他人と関係性をつくる上でも。」
人との関わりを通じて自分を発見していくこと。開示すること。こすれ合うこと。それは時に勇気のいることでもあるけれど、その先には楽しい世界が待っている。自分の選択に、より信頼と自信を持つこともできる。実体のない自分の頭の中の誰かや何かと比べなくても、幸せな人生が送れる。このことを大人たちと共有したいし、子どもたちにも手渡していきたい......。お話を聞きながら、わたしたちが『きみトリ』を書いた動機とも通じると感じました。
わたしたちが10代の人たちに向けて本を書いたのは、わたしたちが考えたトリセツ通りに歩んでしてほしいからではなく、あくまでも「あなたにとっての」社会のトリセツをつくってほしいからです。自分が何に関心があり、何を大切にしているのかを「トリセツをつくる」という形で確認する。
「あとがき」で書いたように、「わたしたちがつくったトリセツに違和感を持ったら、それが自分のトリセツづくりのはじまり」です。「わたしにとってこのテーマは、今こんな感じなんだけど、あなたはどう?」と語りかける本でありたい。人と会うこと、本物に出会うことが難しい今ですが、どうにかして人と出会い、関わって学び、自分を発見していく。それはわくわくの冒険なんだよと、本を通して子どもたちに伝えていきたいです。
POSTOに『きみトリ』を
市川さん:「今回、ここPOSTOに、わたしたちがそっと置いたものを受け取ってくれる人に出会えたらいいなと思って本棚をつくって、何か他の人と共有するきっかけができたらと思い、本の感想を書き込める『自由帳』も置きました。そこに『きみトリ』を並べたのは、Polaris界隈だと子育て中のお母さんが多いけれど、POSTOにはもっといろんな人が来るし、子どもも来ているので、きっとふさわしいと思ったからです。」
ちょうど本棚の話をしていた頃に『きみトリ』がクラウドファンディングのリターンとして届いたそうです。そんな偶然もうれしいです。
山本さん:「どんなに"恵まれた"環境にいても、ちょっとした瞬間で、スポッと落とし穴に落ちてしまうことは誰にでもある。例えば、お酒を飲みすぎてして事件を起こしてしまうこととか。私自身も奇跡みたいなところを渡り歩いて今があると思います。学校教育などでみんなに学び合える機会があるといいのかもしれないけど、こういう本も学ぶ機会の一つですよね。3人の著者で書いたことで、テーマとしてはまぁまぁ網羅されているのではないでしょうか。思春期の年代の人が読んでもいいし、大人のわたしが読んでも、自分の人生をふりかえることができます。」
そうそう、子どもと関わる大人にもぜひ読んでいただきたいのです。『きみトリ』をきっかけに10代の頃に感じていたこと、考えていたことを思い出すことで、自然と接し方や使う言葉が変わってくるといいなと思っています。「10代のことがよくわからない」と思っている人も、実は忘れているだけだったりします。忘れないと生き抜けなかった時間も含めて、自分の人生をやさしく抱きしめられるといいなと思います。
本と映画だから伝わる
山本さんに、『きみトリ』の好きなところを教えてもらいました。
「章と章の間の『◯章にまつわる本と映画』のパートがすごくいいです。知らない作品が7割ぐらいあって、次観てみよう、次読もうとチェックしています。人から聞くより、本や映画のほうが腑に落ちることもありますよね。答えが体にしみるというか。『きみトリ』に書いてあることが、物語の形でも追体験できて、より自分のものになる感じがします。直接は言っていないことのほうが、伝わるかもしれない。」
感受性豊かな10代のときに、本や映画を通していろんな作品に出会ってほしいです。ここがいいねと言ってくださる大人の人は、子どもの頃にきっといい出会いがあったんだろうと想像します。
学びをひらく、届ける
もともと『きみトリ』は、「学びのシェア会」という、個人の学びを仲間にちょっとシェアしてみる、持ち寄る学び合いの場から生まれた本です。一人ひとりの経験や知見を大切にし、その人の存在ごと学び、学び合いから学ぶ、という営みを重ねてきました。回を重ねるうちに、だんだんと個別に学んでいるのでもなく、仲間内に留めておくのでもなく、もう一段階ひらいてみたいと考えるようになりました。そして、人生でわたしたちが学んだものを次の世代の人たちに手渡せたらいいな、という思いが強くなって、出したのがこの本でした。
今回Polarisの方々とお話させていただいて、若い人たちのために考え、行動している仲間や、先人たちが既にいることを心強く思いました。「学び」を持ち寄る、シェアするというメッセージにも共感しました。
また、本にすれば、すぐに読めなくても、いつかタイミングが訪れたときにいつでも手に取れる。持ち運べる。POSTOのような場で活用してもらうこともできる。やはり紙の本という「物」を作って、本当によかったなとも実感しました。
これからPOSTOでいろんな人に読んでもらえますように。
その他にも、ライチが関わっていた『沈没家族』と子育てシェア、高齢者の学びほぐし、ライフストーリー(自分について語ること)とウェルビーイング(よい状態であること)、自己責任ではなく場で受け止める話、自分へのラベリングを拒否する話など、話題は尽きず、あっという間に時間が経っていました。「著者と話すって、こんなにおもしろいものなんですね」とも言っていただけて、うれしかったです。
わたしたちが話している間にも、ベンチでおしゃべりをしている人たちがいたり、工作に熱中している子どもがいたり、コーヒーを飲みながらスタッフさんと話している人がいたり、いろんな方が思い思いにくつろいでいる様子が見られました。
仙川にお住まいの方、お近くの方は、自由にいられるみんなのスペース「POSTO」を訪ねてみてください。そして本棚の『きみトリ』を見つけてくださいね。
▼皆さんで記念撮影。ここはベンチだったみたいです。わたし(前列左)は『きみトリ』で紹介した本を寄贈させていただきました。
▼掲示板では、「教えます」「こんなことできる方いますか」など、この場を利用する人同士のやり取りができます。
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