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レミゼは歌詞も凄い。

以前、どこかのメディアで、
確かレミゼの邦訳などを手掛けられた岩谷時子さんの言葉だったと思うのですが、
海外のミュージカルを邦訳するときの難しさとして、
「使える音数の少なさ」が上げられていました。

英語詞だと「一音に一単語」が基本なのに対して、
それを邦訳しようとすると、日本語詞では基本的に「一音に一文字」しか載せられないので、
伝えられる情報が英語詞よりもかなり限られる、
その中で曲のテーマをどう伝えるかが難しい、のだと。


具体的に言うと、たとえば「I dreamed a dream」の冒頭部分、

I dreamed a dream in time gone by
When hope was high and life worth living
(過ぎ去りし遠い日に、私は、ある夢を抱いていた
 希望に満ち溢れ、生き甲斐を感じていたあの頃)

これが岩谷さんの邦訳になると

夢を見ていたわ
望み高く生きて

確かに、「I dreamed a dream in time gone by」という7単語のところに、
「ゆめをみていたわ」と7文字がぴったりハマってるんですよね。

しかも、これだけ情報を削ぎ落としているにもかかわらず、
その意味合いや情感が、ほとんど失われていない。

これこそまさに「不朽の名作」たるゆえんなのだろうなあ、と思います。


そして、全体を通して英語詞と邦訳を比較していくと、
かなり意訳が加えられているところもあれば、
英語詞の特徴的なキーワードがしっかりと織り込まれているところと、
かなりメリハリがついているんですよね。

たとえば、歌番組とかだと飛ばされてしまうことも多いBメロなんかは、
相当な意訳がされている特徴的な箇所で。

Then I was young and unafraid
And dreams were made and used and wasted
There was no ransom to be paid
No song unsung, no wine untasted
(あの頃、私は若くて恐れを知らなかった
 夢を抱いては捨てて、無駄にしていった
 何の代償も払わずに
 歌も歌い尽くし、ワインも飲み尽くした)

という英語詞が、邦訳になると

若く勇気溢れ
夢は輝いてた
自由にはばたき
歓び追いかけた

「若い」「夢」といったキーワードは出てきますが、
「歌」「ワイン」といった単語は、登場すらしない。
でも、何の恐れもなく自由を謳歌していた、若きファンテーヌの姿は
この邦訳でも十分に伝わってきますよね。

全体的に情報量を削減しながら、
歌全体のメッセージを損なわないようにしようとすると、
具体的な情報(先ほどの例でいうと「歌」や「ワイン」)を削って、
抽象的な表現で、英語詞が表した具体的情景を補完せざるを得ない。

そんな中で、特徴的な表現として、どのキーワードを残すか。
そのチョイスが素晴らしすぎるのに加えて、
「一音一文字」の原則が守られているから、曲のリズム感も失われない。

他にもこの曲だと、
中盤で、原曲には「tiger」という単語が出てくる部分が、
邦訳だと「狼」に言い換えられていたりなど、
興味深い訳し方が、歌詞全体を通じて見られたりもして。
本当にすごい作品、すごい曲たちなんだなあ、とつくづく思います。


そして、この難しさというのは、私も最初は「まあそうでしょうねー」ぐらいの感じだったのですが、
他の作品を見て、その凄さをより実感するようになったんですよね。

たとえば、「一音一文字」の原則が崩れたときに感じる違和感というのは、
個人的にはこの曲が象徴的だと思っています。

こちらも名作「RENT」の代表曲「Seasons of Love」。
作品としては大好きだし「Seasons of Love」という曲も大好きなのですが、
どうしても日本語版の歌を聴いたとき、違和感をぬぐえなくて。

冒頭、日本語になっている部分の英語詞を見ると、
英語版でもまあまあ単語がみっちり詰め込まれているのですが、

Five hund-red twen-ty-five thou-sand mo-ments so dear

と、単語数は7つ、音節の数だと12個。
ここに

ご/じゅ/う/に/ま/ん/ご/せ/ん/ろ/っ/ぴゃ/く/の/こ/の/と/き/を

と、19音が入ってるので、だいぶ詰めたなあ、という感じで。

かつ、前半の「five hundred」の3音節に「ごじゅうにまん」の6音、
中程の「twenty-five thousand」の5音節に「ごせんろっぴゃくの」という8音が入ってる一方で、
後半の「moments so dear」4音節には、「このときを」の5音と、
ほぼ一対一対応で入っているので、
余計に前半が詰まって聞こえてしまう。

「five hundred twenty-five thousand」という特徴的な数詞をどうにか盛り込もうと試行錯誤された結果なのでしょうが、
原曲の意味合いを失わないことと、音としてのリズムを保つことの両立がいかに困難か、このワンフレーズを聞くだけでもその苦労がうかがえます。

そう考えると、改めて、レミゼって凄い作品なのだなあ、と。


そして、そんな「レ・ミゼラブル」も、いよいよ明日が開幕…!
緊急事態宣言延長で、開催がどうなるかとヒヤヒヤしましたが、
無事に幕が開きそうで、本当によかった…!
いつも以上のプレッシャーの中、準備されてきた公演関係者の方々、キャストのみなさんには本当に頭が下がります。

私がとったチケットは早いものでも6月末なのであと一月以上先ですが、
今からもう楽しみでたまらない…!
無事に観劇できるよう、今から公演の無事を祈り続けたいと思います…!

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