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0022 《春でも夏でもない.》

 あったかい。体の芯の奥の奥まであったまる。

 小さな頃から世界で一番好きな人は、おばあちゃんだ。海を隔て暮らしていたけれど、毎年会いにきてくれて、数ヶ月を一緒に過ごす。帰ってしまう日の空港では「この世の終わりだ」と思って泣き叫んだ。

 今年92歳になった彼女との半同棲生活が、スタートしたのは春でも夏でもない季節だった。時々会う関係だった頃はずっとにこにこしていられたけれど、一緒に住むとそうもいかない。ほんものの恋人同士みたいに、口うるさくなってしまうこともある。「手洗いうがいして」「水分補給して」「もうちょっと待ってて」とこわい顔して言っていると思う。

 もっとちがう言い方ができたのでは?とちょっぴり反省しつつも、転がり込んで勝手に居ついている身分のわたしに文句も言わず黙ってうんうんとうなずいている祖母に気づけば甘えている。


 お風呂上がり。リビングへ行くと、先に上がった祖母が明るいテレビの前で布団に入っている。いつからかここが寝床になったのだ。枕元に腰かけてぼんやりとテレビを見ていると、「風邪ひくから、入りなさい」と掛け布団を持ち上げてくれる。ありがとうと言って、中に入り祖母に抱きつく。ふたりともお風呂上がりだから汗ばむくらいに暑いのに、このままでいいやと思ってしまう。布団から出ようとする力がもうのこっていないのだ。

 「テレビ見なさい」と祖母の顔を見つめていたわたしに彼女は言う。「ううん。おばあちゃんの顔見てる方がいい。」と返事をすると、また「テレビ見なさい」と言うので、同じことを答える。「こんなシワシワなばあさん見ててもしょうがない」ともらす祖母。

 「大好きなおばあちゃんを見てるだけだよ」と思いながら、もう一度つよく抱きしめる。首元の無数の皺に、わたしの息があたる。あたたかな安らぎに包まれる。それは揺らぐことのないたしかなものだ。テレビから聞こえてくる笑い声が消えてしまうほど遠くなっていく。


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