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東京の休日172 〜【虫めづる日本の人々@サントリー美術館】鈴虫鳴き、蛍舞う優美な展覧会でした〜

秋らしさが日に日に
ましていくこの頃。

《画本虫撰》(部分)
喜多川歌麿 二冊のうち下 天明8年(1788)

古の風流人たちは
この時をどのように
味わっていたのでしょうか。

その一端のわかる
展覧会を本日はご紹介いたします。


虫めづる日本の人々
2023年7月22日(土)~9月18日(月・祝)

サントリー美術館(六本木)にて。



「虫」が主役のこちらの展覧会。

読み解くキーワードが
こちらの三つとなります。



まずは、

・虫に委ねる「恋心」/『源氏物語』『伊勢物語』ほか

《きりぎりす絵巻》(部分)
住吉如慶 二巻のうち 江戸時代 17世紀

これらの物語に登場する虫たち。
ある役割を果たしていました。

それが登場人物の
心情を表すこと。

《きりぎりす絵巻》(部分)
住吉如慶 二巻のうち 江戸時代 17世紀


例えば、
「心もて 草の宿りを 厭(いと)へども
なほ鈴虫の 声ぞふりせぬ」

自ら出家したあなたですが
お声は鈴虫と同じように
今も(美しく)変わりません

《鈴虫蒔絵銚子》
一口 江戸時代 17世紀


「大方の 秋の別れも 悲しきに 
鳴く音な添えそ 野辺の松虫」

秋との別れは悲しいもの
その上、あなたとも別れねばならない

野辺の松虫よ、鳴き声を添えて
いっそう悲しませないでほしい

『源氏物語』の「賢木」を題材にした
《野々宮蒔絵硯箱》
一合 江戸時代 17世紀


未練や別れの悲しみが
虫たちの存在によって
より共感できるものになっていそうですね。


その他にも、
のこされた小袿
(こうちぎ:高位の宮廷女性の上着)
を「蝉」の抜け殻と

儚いものは
短命の「蜻蛉(かげろう)」と

燃える恋心を
「蛍」の光と

重ね合わせ表現したそうです。

《源氏物語画帖》 
住吉如慶 江戸時代 17世紀 一帖


・生活を彩る「デザイン」

《能装束 段に市松入子菱に朝顔蝶菊模様唐織》
江戸時代 18~19世紀 一領


多種多様な草花と虫の描かれた
「草虫図」。

重要文化財 
《竹虫図 伝 趙昌(ちょうしょう)》
一幅 南宋時代 13世紀


これが広く愛されるようになった
背景にあるのが『論語』の
「多くの生き物を知り、
自らの知識を増やすことを奨励する思想」。

《四季花鳥図巻》(部分) 上巻 酒井抱一 
江戸時代 文化15年(1818) 二巻のうち一巻 

その中で、ぞれぞれの作品、デザインが
立身出世、子孫繁栄などの
吉祥を表すようになります。

《色絵牡丹蝶文大皿》 
一枚 江戸時代 17世紀

《雄日芝蝶螺鈿蒔絵茶箱》
 江戸時代 17世紀 一合


こちらの打掛は
江戸時代に裕福な町人の婚礼で
用いられたとされるもの。

《白綸子地梅に熨斗蝶模様打掛》
一領 江戸時代 19世紀

2頭が寄り添い飛ぶ蝶は
夫婦円満の象徴です。

蝶の紋様は
お洒落なアイテムにも取り入れられました。

蝶がひらひらと舞う
その名も「びらびら簪(かんざし)」。

若い女性に好まれ、
江戸・京・大阪の三都で流行したそう。

《銀珊瑚入沢瀉に蝶びらびら簪》


・秋の「虫聴」と夏の「蛍狩」

《虫豸帖(ちゅうちじょう)》(部分) 
増山雪斎 四帖のうち「夏」
江戸時代 19世紀


江戸時代の娯楽だった
野山へと出かけ虫の音に耳を澄ませる「虫聴」と、
夕暮れ時に蛍を追う「蛍狩」。

《東都名所 道灌山虫聞之圖
(とうとめいしょ どうかんやま ちゅうもんのず)》
歌川広重 大判錦絵
江戸時代 天保10~13年(1839~42)


町中では、
虫売り、虫を入れる籠売りもあらわれます。

《夜商内六夏撰(よあきないろっかせん) 虫売り》
三代歌川豊国(国貞) 大判錦絵
江戸時代 弘化4〜嘉永5年(1847〜52)

人々がこの風物詩を愉しむ様子は
微笑ましくなるほどで。


愛た虫たちは
放生会(ほうじょうえ)に放されたとのこと。

今も続く
「万物の生命をいつくしみ、
殺生を戒め、秋の実りに感謝する」
9月中旬の伝統です。

重要文化財 
《菜蟲譜(さいちゅうふ)》(部分)
伊藤若冲 一巻 寛政2年(1790)頃





スマホも、テレビも、車も、電車もない時代。

虫たちの声は
今よりもいっそう秋の夜に
響き渡っていたのでしょう。


これを味わいながらも
小さき命を大切にしてきた
古の人々の心も伺える展覧会でした。

《拳相撲図》 歌川国貞 
大判錦絵三枚続 
江戸時代 19世紀

《南瓜花群虫図》 葛飾北斎 一幅
天保14年(1843)

館内の、鈴虫の声や
蛍の光、舞う蝶の演出も
とっても素敵で!


写真・文=Mana(まな)

虫めづる日本の人々
会場:サントリー美術館
東京都港区赤坂9-7-4 
東京ミッドタウン ガレリア3階
会期:2023年7月22日(土)~9月18日(月・祝)
開館時間:10:00~18:00
(金・土は10:00~20:00)
 ※8月10日(木)、9月17日(日)は20時まで開館

 ※いずれも入館は閉館の30分前まで
休館日:火曜日(9月12日は18時まで開館)
https://www.suntory.co.jp/sma/


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