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0031 《金木犀の香り.》

 10月は橙色が眩しい季節だ。

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 柿の実も、銀杏の実も、金木犀の木も。この季節を待っていたかのように、オレンジに色づく。美味しい柿や銀杏を食べると「秋だな」としみじみ思う。
 そして、金木犀はその甘やかな優しい香りを漂わせて、秋を一段と盛り上げてくれる。

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 そういえば、中学生の頃につけていた香水は金木犀の香りのするものだった。大学生までお化粧をほとんどすることがなかったわたしだけれど、どうしてだか香水だけはいつもつけていた。箱根に家族旅行へ行った時にお土産で買ったものだったと思う。

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 「金木犀の匂いがするね」とクラスメイトに言われた時に、窓の外を見ながらそうかな、とごまかしたのは、香水をつけていることにちょっぴり恥ずかしさを覚えていたからだと思う。香水は「大人のもの」のような気がしていた。背伸びしていることを周りに知られたときに照れてしまうのは、今ふりかえるとなんとも10代らしい。

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 最近、口紅をひくことが愉しい。マスクをして出かけるから誰かが褒めてくれるわけでもない。だから、あの時の感覚とよく似ている。こっそりと両手首に香水を数滴たらして、学校へ行っていた中学生の頃に。動くたびにふわっと身体から金木犀の香りがするのが嬉しくて香水をつけていたように、マスクをとった一瞬に紅く色づく唇が鏡に映ると密かに心踊るのを知っているから、誰かとの約束がなくても口紅をつけてしまうのだ。

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 香水をつけていた理由をどうしてだかと書いたけれど、単純に自分のためだったのだろう。わたしを喜ばせたくて、香水や口紅をつける。こういう自分の満たし方、われながらいいなと思う。

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 今日口紅をつけて歩いた道には、橙色の絨毯が広がっていた。金木犀の季節が終わり、もうすぐ新たな季節がやってくるのだろう。その日々も自分を愉しませながら、柔らかくあたたかく暮らしていけたらな。

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