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《雪、着物.》

 十月始め。さわやかな秋晴れ続く季節に、着物の虫干しをしたことを以前綴った。

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 介護にあたるため、祖母の家に住み込んでいる今。毎晩眠っているのが彼女の着物の詰まった箪笥の横だった。出して干してあげないとと感じながら布団にもぐりこんでいた頃抱いていた「着たい」という憧れは、十月にふれて以来、着なくてはという責任へと変わっていた。美しい着物や帯は、箪笥の中よりも季節の移ろいを味わえる外がずっと似合うように感じたのだ。

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 翌月。茶道のお稽古に通うこととなった。祖母の家の近くに立派なお茶室をみつけたことがきっかけだった。わたし以外の生徒さんは、皆さん先生がお出来になりそうなほど茶道に精通されている方々。お稽古にお召しになるお着物も素晴らしくて、「紅葉が綺麗。」「可愛らしいお人形が帯にいる。」「着姿が素敵。」と心の中で、毎回おしゃべりになってしまうほど。その度にわたしも早くこの雅な一団の仲間入りをしたいと、欲は深まっていった。

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 お稽古場へ通うことに慣れてきた先日。いよいよお着物でお稽古に行くことに決めた。年内最後の特別な日だったことに加えて、雪の柄のそれをどうしても十二月中に着たいという事情があった。

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 前の晩から着て寝てしまいたいほどだったけれど、そうもいかないので、朝食を抜かし着付けをする。動画を見ながら、一時間ほど格闘し、ようやく帯がとまった。着られたと言えるほど整っていないけれど、なんとか帯を固定できたのだ。上着を羽織るから外では「乱れ」を披露することにならないから助かった。それに、たとえ着崩れてしまっても、先輩方がいらっしゃるから大丈夫と新米ならではの甘えも携え、お稽古場へと出発した。

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 長年履いていなかった草履の痛さに耐えながらも、冬晴れの道をゆく。「よく一人で着たわね。」「クリスマスらしくて素敵。」と先生や先輩方が褒めてくださったことで、足の甲の痛みは癒されていった。途中裾が長くなったり、帯の上に結ぶ「帯留め」の結び方を間違えていたりしたのを、先輩方がさりげなく近づいて来て、直してくださった。(ありがとうございます...!)

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 家に帰り、ふたたび祖母に着物姿をみせる。嬉しそうだった。先生や先輩方が褒めてくださったことを伝えると、さらに笑顔になった。およそ半世紀ぶりに外の空気を吸ったお着物と帯と小物。それらも祖母と同じくらい喜んでくれているといいなと想った。そして、祖母の大切なお着物のためにも、もっと綺麗に着られるようになりたいと新たな目標ができた師走の日だった。

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十月のお着物のお話はこちらに。


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