《茶、納め.》
2021年。その幕が上がったのがつい先日のように感じられる今日が、大晦日というから驚いてしまう。
そして、霜月(十一月)から始めた茶道のお教室でも、クリスマス前にお稽古納めがあった。これが、今年一番おなかいっぱいに満たされる日になるとは想像もしていなかった。
いつも通り、朝9時から始まる午前のお稽古が終わると「昼食」の時間となる。通常は各々持参したお弁当を食べる。ところが、今日は先生がお鍋やらお料理の詰まったタッパーやら格式高い食器などをたっぷり持っていらしていた。
「このように並べてね。」とご自身で描かれたイラストを差し出す先生。先輩方とのぞき込み、「ここに海老ね。」「これは大根かしら?」「絵にないこの人参はどこでしょう?」とあれこれ口にしながら、準備を始める。
この時、ふと思い出してしまった小学生の頃の給食当番。全員分を同じように盛り付けたことに加えて、先生の手作りのお料理が文字通りひとクラス分の給食くらいあったのだ。
さて、ずらりと十人分のお料理がお茶室いっぱいに並んだ。その光景は、あまりにも美しかった。胡麻豆腐に、海老、お煮しめに、サーモンの和物、百合根の和物、大根やカブのお漬物に、鯛飯にローストビーフまである。
さらに、本日のメイン「うずみ豆腐」。実はこちら、年末の忙しい時を楽にするためのお料理だった。ごはんにお豆腐の白味噌煮込みをかけるという、猫まんまと同じ趣旨のもの。また、焼き魚の下には「ゆずり葉」を置き、食器を洗う手間を省くことになっているらしい。
その説明をしてくださる先生が作ってきてくださったのは、楽とは程遠い品々だった。初めていただくうずみ豆腐も、先生の十八番のローストビーフも、香ばしい鯛飯も、優しいお味のお漬物も...すべてが心に沁みる美味しさだった。
「盆と正月が一緒に来たよう」とよく言うけれど、今日はクリスマスとお正月が同時にやって来たようだった。心もおなかも「至福」でいっぱいとなったひと時に、素晴らしい経験をさせていただいているなと、心底感動した。
うずみ豆腐やゆずり葉との出会いも、この麗しい場にいられたことも、まさに「茶道」といった先生の「よかったら食べてくださいね」という華やかで軽やかなおもてなしを目の当たりにできたことも、深く心にのこった。
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そして、この後わたしはナイフ片手に公道を走ることとなる。ローストビーフを切るために先生が持っていらしていたそれを右手に。準備の途中「これすごく使いやすいのよ。」と愛用されていることをお話しされながらも、お稽古場にそれを置いたまま、車に乗り込んでしまった先生。
明日はクリスマスイブ。お孫さんのためにお料理をつくられるとおっしゃっていたから「きっと明日も必要!大変!」と車に手を振りながら近づくも、見事に発車してしまう。駐車場から出てもまだ進んでいく車を、慣れない着物にお稽古場のサンダルという格好で追いかける。道ゆく方々もいるので、刃先は袖にしっかり納めながら!赤信号のところでようやく車が止まり、追いついた。100mほど走っただろうか。わたしに気づき、窓を開けさっと「刀」を受け取ってくださった。
こんな後(日)談つきなこともあって、忘れられない「お稽古納め」の日となった。もちろん先生のおもてなしが一番印象深かったのですが。
写真・文=Mana(まな)
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