君の名前で僕を呼んで
記念すべき一回目に持ってくるのは何が良いかと考えてみたけれどやっぱりこれだ。
- Somewhere in northern Italy.
恋に落ちる感情を、その時に見えている世界を書いてと頼んだらきっとすべての恋はここに表現されるのではないかしら。
それくらい鮮やかで、瑞々しくて、そしてちょっぴり湿度のある色彩と、
動き出してしまったからには止まらない美しくて切ない音楽。
恋という媚薬を通さずとも視覚的説得力を十二分に備えた俳優たち。
なんて贅沢な、それでいて大切なこと以外何も後には残さない映画。
留学中、外には世界一美しい景色が広がっているはずのパリのホテルで一度では足りず二度観続けたくらい美しい映画。
歳に似合わない物知りで、感じた事を表現するための音を持ち、それでも表現しきれない感性を持ち合わせている多感なエリオ。
人の懐にやすやすと入り込み、才能と魅力を十分に発揮する術を知っているけれど、その発散される魅力の飼いならし方までお手の物のオリヴァー。
エリオの父のもとで学ぶ大学院生のオリヴァーが実地調査のアシスタントを兼ねて訪れた北イタリアの一家の避暑地でのひと夏の物語。
恋に落ちた時、その人は地球人に混ざる火星人なんじゃないかしらと思うくらいどうしたって目を奪われる。
恋に落ちた時、その人の中の自分がどうあるかが私の価値を決めるんじゃないかしらと思うくらいどうしたって心を覗きたくなる。
恋に落ちた時、その人といる時間は世界のどこかで今人が亡くなっていることなんてさして問題ではないくらいに高揚感であふれている。
思いが結ばれたとき、それは今まで頭を支配していた一握の不安とともにある色めきだったヒントがすべて飛んでいく。
そして、どこまでも相手を求めてしまう。後先なんて考えられようものか。目の前にこんなにも目を奪うものがあるというのに。そして彼もまたこんなにも自分に目を奪われているというのに。
恋に落ちた時、誰かが書いた意地悪な脚本にのせられてるんじゃないかしらと思うくらい世界は私たちに味方しない。
"私たちは傷が癒えるまで待ちきれずに次を求め続け、30なんて年よりも前に破産してしまうんだ。そうして新しい誰かに出会う度に自分が与えられるものが減っていくんだ。でもね、悲しみなんて感じたくないからといって、何も感じないようになること_なんて惜しいことをしてるんだ。"
ロマンチストにならなきゃ恋なんてしてられない。感情なんて、値札が付いていて払い過ぎたらしっかりおつりが返ってくるようなものじゃない。
でも、勘定して損をしないように進んでいくこと、欲しいものを過不足なく取って「まあ、このお値段だからこんなものよね。」と言える賢さを身に着けることが大人になるってことなら、私は賢さを学ばないように気を付けたい。
"人生をどう生きるかは君の自由だ。だけど、これは覚えておいて。心と身体が私たちに与えられるのは一度きりだ。そして知りもしないうちに心は燃え尽きてしまうんだ。身体と同じようにね、誰も見向きもしないし引き寄せられもしなくなる時が来るんだ。今、悲しみと痛みがあるだろう。なかったことにするな、その前にあった喜びと一緒に味わうんだ。"
恋焦がれる気持ちも、心に収まりきらないほどの幸せも、そのあとに襲う痛みも、人間に与えられた特権なら、それを味わい尽くすのが人生ってもんじゃなかろうか。
賞味期限が切れる前に。
心を奪われるほどの相手が現れてしまった時に。
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