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【日記】夜8時の大英博物館

最近日記ばかり書いている。Political Sociologyの課題でナショナリズムについて考えているので、学問的なアウトプットは全てこのエッセイに注がれているからである。

お久しぶりに

今年の初め、もう6か月くらいになるだろうか、去年の進学準備コースの入学・クリスマス・イースター・卒業・進級お祝いパーティーがあった。1年間オンラインだったので、全てごった煮のパーティーである。大体挨拶をしたい先生やかつてのクラスメイトと話して、やることなくなったな、と思ってシャンパングラスを握ったまま壁際に退避したら、先客がいた。それが彼女で、「疲れたねえ」「疲れたねえ」と言って、何か適当な話をして、インスタを交換した。パーティーの中盤で疲れてしまう人たち同士、ちょっと気が合う気がした。

私と彼女の会話ツールは英語なので、以下、適当な和訳でお送りする。

それから、おおよそ半年が経った。数週間前に、「そういえば元気?」と連絡が来た。ご飯でも行こうよ、というので、そうだそうしようと言って、晩御飯を食べに行った。

食べ過ぎ

お腹いっぱいになってお店を出て、彼女がふと言った。
「ねえ、大英博物館行かない?」
大学が大英博物館の裏にあるので、晩御飯もその近くで食べていたのである。
「いいじゃん、行こうよ」
「予約いるんだっけ」
コロナのおかげで、たいていの博物館や美術館は未だに事前予約が必要だ。
「わからん」
「まあ行ってみればいいか」
そう言って私たちは、少し暖かさの残る韓国版唐揚げの入った持ち帰り発泡スチロールケースを手に(食べきれなかったので持ち帰りにさせてもらったのだ)、夜の大英博物館に向かったのだった。予約は不要だったし、唐揚げを片手に持っていても入れてくれた。

ほんのり暗い大英博物館

大英博物館は、古代エジプトの展示から始まる。部屋に入ると、ガラスケースに収められたロゼッタストーンが鎮座している。大抵ここから始めて最後まで見られないんだよね〜と言いながら、愚かな私たちは、やっぱり古代エジプトから始めた。
「昔さ、古代エジプトって大好きだったんだよね」
ヒエログリフが彫られた巨大な石壁を眺めながら、彼女が言った。
「私も、昔古代エジプトの王朝についてまとめたノートを作ってたことがある」
私が答えた。実際、私は昔古代エジプトが大好きだった。王様の名前を覚えていた時期もあったと思う。そういうと、彼女がこちらを向いた。
「お母さんに『ミイラにしていい?』って聞いたことがある」
それはやばいな。
「しなかったけどね」
そうであってくれ。

衝動を抑える

後期王朝の棺桶を見ながら、彼女が私の腕をつついた。
「私のこと抱きしめてて、じゃなきゃ触っちゃいそう(Hold me tight, otherwise I'd touch them)」
「映画のセリフみたいじゃん」
そうは答えたけれど、ガラスケースの中に入っていない美術品とか工芸品を見た時に、触りたくなる気持ちって、よくわかる。
「実際さあ、この距離でしゃべってるのと触るのと、どっちが工芸品に悪影響があるんだろうね」
私が続けた。実際、ガラスケースに入っていないものの近くで話すのって、飛沫とかは大丈夫なのかな、と思う。
「ほらそういうのはさ、宗教とかモラルとかの話だから」
彼女が言った。おっしゃる通りだ。

「想像してみてよ、」
彼女が、アッシリアの石像を見ながら言った。彼女は比較文学(Conparative literature)をやっていて、古代ギリシャ文学にも造詣が深い。私は残念ながら、記憶にあるのはアリストテレスの「政治」くらいである。ヨーロッパ哲学は、基本的に古代ギリシャ時代の思想に基づいているから、もうちょっと記憶を掘り起こしておいた方がいいな、といつも思っている。ペリクレスのFuneral Orationとかも若干覚えているかもしれない。
「2500年前とかにさ、ここの前でこれを掘ってた人がいたんだよ、なんか泣けてくるよね」
わかる。夜の7時を回ってほんのりと薄暗い大英博物館は、少しずつ照明が落とされているのか、あいだ間に設置された照明が石像や工芸品を照らして、松明に照らされながら、数千年前の古代の神殿の中で見ているような気持ちがした。

青銅器

「お、みて、みんな大好き青銅器だよ」
私が言った。古代ギリシャ特有の赤い模様付けされた壺の間に、青銅器が飾られていた。彼女が答えた。
「実際、うちらの方が早かったけどね」
そうなのだ。工業化を迎えるまで、中国の方が科学技術は発展していた。ヨーロッパが羊皮紙から紙に移ったのは、タラス河畔の戦いを越してからだし(高校で世界史をやった人は覚えていますね、私は2年経っても覚えていますよ)、それまでヨーロッパは世界の中心ではなかった。
「思い返せばさあ、」
そんなことを考えていたら、彼女が言った。
「シルクロード交易とかもこの時代からあったんだよね」
どうやら似たようなことを考えていたらしい。
「この時代の、貿易はするけど分離もしてるみたいな国際関係の方が程よかったのかもしれないね」
と私が言ったら、
「この時代の国際関係は、戦争の方が多かったんじゃないの」
と彼女がキレキレの答えを返してきた。おっしゃる通りだ。そんな世界はごめんだ。

おまけ

ものものしい。


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