小西大樹「就職したら親戚が増えました」#12 邂逅編 お礼とお詫びと④

本日のケーキセットは、チーズケーキとブレンドコーヒーであった。

大樹は,、不思議そうに首をかしげながら、ケーキを一口、コーヒーを一口、代わる代わる口に運んでいた。

おかしいな?コーヒーを一口飲むと、ケーキが欲しくなる。で、ケーキを一口食べると、今度は直ぐにコーヒーが飲みたくなる。で、コーヒーを飲むと……エンドレス?

「ふ……ぶはっ!」

「えっ?」

真剣な面持ちで首をかしげながら、それでも美味しそうにケーキセットを食していた大樹を、客が居ないせいか、暇なのか、葵だけでなく基までカウンターに入って二人で見つめていた。
堪えきれずに吹き出したのは基だった。

「あ、ごめん。突然に。どうぞ、続けて下さい。コーヒーのお替わりはどうですか?」

大樹は、基にそう言われるまで、カウンターに居た事に気付いていなかった。勿論葵と基が大樹を注視しているなど、真剣にケーキセットに応じていた大樹には、分かり様も無かった。

「えっ、あ、あの……っ……。」
真っ赤になってケーキセットに視線を落とした大樹は、次の言葉が出なかった。

「コーヒーをお替わりするなら、ケーキも一緒じゃないとダメでしょ?ねえ小西君?」

葵のそのものズバリを言い当てた言葉に、勢い良く顔を上げた大樹だった。

「あら、図星ね?良いのよ小西君。当然なの。コレが基マジックなんだから。」

何が当然なのか、理解出来る大樹だ。どうしてだろう。時を置かずに次々互いを欲しくなるケーキセットとは……?

「えっ?基マジック?マジックなんですか!」
「いや、そんな真顔で驚かれても困るけどね。ごめん。笑って。ここまで正直に疑問に感じながら召し上がっているお客様は、久しぶりだったから。」

「俺の他にもいらしたのですか?」
「まあ、たまにね。首をかしげながら召し上がったお客様は小西君が初めてかな。」
「あの……それは……。」
またしても赤面を重ねている大樹を見かねて葵が真相をうち明かした。

「コーヒーを飲んだらケーキが欲しくなる魔法じゃないのよ。そういう相性の良いコーヒー豆とケーキを選んでお出ししているの。」
「相性……?」
「そう。だから本日のケーキセットとして、お客様からは選べない仕様になっているんだよ。だから不思議に思わなくても良いよ。嬉しいよ。」
「嬉しい……。」

「そ。基の狙い通りのセットになった証拠でしょ?」
「ああ、なるほど……俺、変になっちゃったのかと思いました。」

「小西君は素直で助かるなあ。」

「はっ、はい?素直……ですか?」
「そうねえ。正直に感想を述べて下さるお客様は貴重よ。美味しいとか不味いとかね。」
「あのっ、コーヒーもケーキもとっても美味しいです!」

「有難う。作り手としては嬉しいよ。」

そう言って、基は再び厨房へと消えて行った。
え……ケーキ、作ってるのか……?

「ふふっ。アイツ、照れてんのよ?小西君、やったわ!アイツはあんまり動じない性格なのよ。珍しいモノが見られたわ。」

「そうなんですか……?」
照れている様には見えなかった。

俺……本来の目的を果たしてないのにケーキセットを堪能しちゃったよ。でも美味しいなあ。今度はゆっくり来てみようかな。バス停から近いし。そうだ、それよりこれお渡ししなきゃだよ。

いつ、お礼とお詫びの品を渡せばいいのだろう。

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