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ヤキトリ!アニメ化!ヤキトリ!もっとも誠実!

ついに来た。
愛してやまない現代日本の誇るSF小説「ヤキトリ」がアニメ化だ。たまらん。

作者さん、演者さんがツイートをしている中、ふとネガティブなコメントを見かけた。

「古いわー」
「色々キツい」

ビジュアルとCGか!と納得する。確かに、古臭さを感じるが、それも味だ。好き嫌いはあるだろう。音楽が?そりゃ完全にセンスが合わないだけだ。あれでいい。余計なボーカル付き曲で紹介されてたら萎えてたかもしれん。合う曲であれば別だが。
ただ、他に気になるコメントがあったのだ。

「文章が合わなくて敬遠してた」

作者・カルロゼン氏の文章が、という意味ではないようだ。「幼女戦記」は読めたのに、という文脈だったかと思う。
これは、愛読している自分も納得せざるを得ない。

この「ヤキトリ」は、主に主人公・伊保津明(イホツ アキラ)の視点で描かれる。
一見、アキラは怒りの権化のような性格で、何かにつけて苛立ち、相手に噛み付く。
そのため、導入なのに世界観の説明をほぼ放棄した内容に見え、「お前は一体何に怒っているんだ?ちゃんと説明しろ!」と言いたくなるような語り口調になっている。
そのくせ、自分の怒りの感情を、朗々と、情緒たっぷりに、こちらの知らない世界観で語られるため、周囲の状況が把握できず、下手すれば話の内容が何も頭に入って来ないのだ。

お前の状況がさっぱりわからん。

とっつきにくかった人は、これが全てではないかと思う。
第一、ヤキトリの冒頭文からして「ヤキトリの解説」なのだが、これがちっとも分からないのだ。
少し引用してみよう。

ヤキトリとは?  ――商連地球総督府発行採用促進広告
①概要・商連海兵隊の安価な代用品※機能的に商連海兵隊を代用しうるのみであり、互換性を保証するものではありません。地球総督府当局は、ヤキトリの使用により生じたいかなる損害からも免責され、損害補償は本国通商法の規定にのみ従属するものとします。
—『ヤキトリ1 一銭五厘の軌道降下 (ハヤカワ文庫JA)』カルロ ゼン著

これがヤキトリの冒頭文だ。
わけわからん単語用語のオンパレード。
理解させる気が、読ませる気があるのかと思わせる「仕様書」の類を想起させる文章。
そりゃ、とっつきにくいに決まっている。

ところが、この「とっつきにくい」が既に罠なのだ。

ぶっちゃける。
この冒頭文に関しては「流し読み」で構わない。
何となく、雰囲気で理解している…その程度で良いのだ。
ヤキトリ、と呼ばれる何かの仕様書。
これだけの理解でぶっちゃけ構わない。
(これが後に効いてくる)

そして、アキラはこの世界の事に関して(とある事情のため)ほぼ無知なのだ。
それはつまり、アキラの怒りは読者の怒りと、ほぼ同等であることを意味する。
「わからない!説明しろ!」
アキラの怒りは、突き詰めるとそれだ。
アキラの場合、その焦りと共に、非常に強い猜疑心があり、美味い話や出来すぎた話というのを徹底的にその場で問いただす。
そういう性格のため、長い心象風景はともあれ、世界観の説明に関しては、無知なアキラに対する解説役となる者が、ビックリするぐらい丁寧に解説してくれるのだ。

それも、とても専門的な語句を用いるところから、噛み砕いた言い方にまでするおまけつきで。

断っておく。アキラは無知ではあるが、非常に賢い。
その賢さ、優秀さ故に、若くして投獄されたぐらいだ。
そのため、我々と同じく「詳しすぎる解説」に目を白黒させながらも、驚くべき速さで飲み込んでいく。
落ち着こう。我々読者はゆっくり読めばいい。
一章を読み終えるくらいになれば、もう後はスムーズだ。キッチンで調理したヤキトリを眼前に運ぶ、その流れくらいに「わかる」はずだ。

モーツァルト、カフェイン、マクドナルド。

読み進めていくと、この現実にありふれたモノが、この世界のディストピア具合とおかしさを含んだガジェットとして受け入れる事ができる。
「大満足」の意味すら知る事になる。

マクドナルドで高級ディストピア飯ごっこも出来るし、なんなら茶で乾杯も出来る。最後まで読めば、焼き鳥が最上級のご褒美となる。
僕はストレスが溜まれば、大抵温泉に行き、その帰りにマックでバーガーとポテト、そしてストレートティーで「ヤキトリ」ごっこをしてから家路につく。寝る時はYouTubeでモーツァルトをかけろ。忘れるな。
温泉が無理なら、マクドナルドだけでもいい。大人の遊びは、ストレス解消だ。それがマクドナルド一食程度で済むのなら、安い。

現実にありふれたものが遊び道具になるのだ。コスパいいだろ?

多くは語らない、と前の感想文では述べたが、この小説にはカタルシスがある。「抑圧と解消」がワンセットになっているから、そういう意味でも精神的によろしい。
ディストピアだからと言って「あー、悲観的な話か」と鬱々とした気分になることはない。
アキラ達は、ちゃんと解決する。
絶望に近い状況をひっくり返し、大笑いの後にまたトラブル…それの繰り返しだ。
背後の世界観、ヤキトリの背後にある思惑も見え隠れするが、それはそれで味付けになるし、まだこの話は続くのだなと楽しみになる。

何せ、おそらくはこのアニメ化のせいで滞っている3巻が待ち遠しくて仕方ないんだ!
アキラはマジでどうなるんだ!?早よ!続き早よ!!

…おそらく、アニメは2巻までの内容で終わるはず(キービジュアルで予想できる)
小説がどーしても無理だ!と言う人は、おそらくアニメはとても良い視覚体験になるだろう。

だからお願いだ、モーツァルトとマクドナルドは修整無しで出してくれぇ!!!(心からの叫び)

僕がこのアニメをクソ認定するのは、マクドナルドとモーツァルトが出なかった場合だ。
僕が5月に何も言わないか、不満たらたらだった場合「あ、クソだったんだな」と思っていただきたい。

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