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ご当地飯を別地で食う

ヘッダーが完全に集合体恐怖症の方お断りみたいになってて申し訳ない。
とはいえ、好きな人はたまらない光景だから仕方ない。
溢れんばかりのイクラ…ではなく、これは筋子。自分で仕込んだ筋子の燻製である。
少々コツは要るが、成功すると無類の美味さなので、もしキャンプ用品や一昔前のブームに乗って燻製器を買って持て余している人、是非ともチャレンジして欲しい。
一粒で酒がスコン、と消えるから。

で、ご当地飯。
つい最近Twitter(エックスと頑なに呼ばない)で見たのだが、西日本は筋子を知らない扱いされていて、大層驚いた。
いやいや、知ってるが?こちとら滋賀作だし、両親は九州、京都の出身だが、ちゃんと知っている。筋子が鮮魚店にも並んでいる。
まぁあそこで自説を打つのを丸呑みにする気はないし、自らも断定口調で何かを語ったりして的外れを言うのもしょっちゅうなので、その辺りはわからんでもない。
とは言え、あまり一般的なモノではないのだろう。事実「筋子」と言ってイクラを連想できる人はあまり周りに居なかった気がする。
若い頃に寮暮らしをしていたんだが、先輩が珍しい酒が仕上がったと、ホルモン鉄板焼きを食いながら飲ろう、と誘ってくれたことがあり、その時にご馳走になるばかりじゃ悪い、と「じゃあ筋子仕込んで(夕方)行きますね」と返答した。その時に、先輩は怪訝な顔で「筋子?なんじゃそりゃ」と言ったのだ。
先輩は和歌山の出。確かに関西なのだ。筋子を知らない関西人ということになる。
もちろん、自分がタッパーに入れて持ってきた仕込み筋子…つまりイクラを見て「なんや!イクラか!」と笑ったわけだ。

確かに鮭の子をどう呼ぶか、と言われた時に普通に「イクラ」と答えるのは、別に関西だと変だとは思わない。
ただ、膜に包まれた「魚卵!」然とした筋子の塊を見た時に、一瞬それがイクラか?と思うのかも知れない。
見慣れているモノが見慣れていない形状をしていると、「それ」と認識出来ない人は意外と多いものだ。

カシューナッツの成状も生成AIみがある

となると、名称があまり知られていないだけで、実はこんなモノだと理解すれば「ああ、アレね!」となる人は多いのではないだろうか。

とは言え、ゲテモノと認識されているモノを全く知らない人に食わせるというのは、最高に難しい事だと思う。
良く言われるのが、外国人にとっての「納豆」だが、アレはそもそも豆だから、臭いとテクスチャからして腐っている、というイメージを払拭しきれないからこその忌避だろう。
そもそも豆は人類が世界中で食っている主要な飯だ。発酵についても、一部の国で馴染みが無いというだけで、酒やチーズでお馴染みの現象である。
そうしたモノの組み合わせ、というのが頭で理解出来ても、という所にミソがあるわけだ。
ミソといえば、味噌も外国人には異様に映ると聞く。確かに「クソもミソも」と例えられるぐらい似ているが故に、茶色ペーストのソレはちょいとヤバいくらいにアレに似てしまっている。
とは言え、茶色ペーストはピーナツバターをはじめとして欧米でも好まれているので、あとは風味の好き嫌いだろう。

そういえば、先に話した筋子を知らぬ先輩の故郷は和歌山であったが、その先輩が用意した酒はなんだったか。
「幻の酒、龍神丸」
コレは和歌山で醸された、文字通り伝説になった日本酒で、漫画「もやしもん」が火付となり、それはもう爆発的に売れていた。
その龍神丸の…同じ酒造の、火入れしたほうの酒、喜楽里(きらり)であった。

なーんだ、火入れ酒か、とお思いのアナタ。認識が甘過ぎ&情報が弱い。
龍神丸ブーム当時、真の日本酒マニアは龍神丸の一般人気を捨て置いて、この喜楽里こそを買っていたのだ。
やがて両方共に入手困難な酒となったが、日本酒マニアたちはいち早く「ヤバい酒造が来た!」とせっせと情報を集め、その酒を味わっていたのだ。

さて、そしてこの喜楽里。日本酒マニアだった僕たちがこぞって「試した」飲み方がある。
まず準備するのは冷蔵庫の野菜室。
ここへ、買って来た日本酒にアルミホイルを巻あて遮光し、さらに新聞紙で包んで横向けに安置する。
これで一年もの刻を置くのだ。
これを僕たちは龍神丸各種、喜楽里各種で実施、一年以上寝かせていたわけだ。中には日本酒用に別の冷蔵庫を買ったやつもいる。
その大元仕入れをしていたのが先輩だったわけだ。地元の酒屋に顔が効くので、そこから購入。インターネット販売がまだ市民権を得るか得ないか、という時に僕たちは京都に居ながらにして、世界に名だたる銘酒をネットで堪能していたわけである。
まだ転売ヤーなる概念すらもなかったが、正規購入以外で買おうとすると龍神丸が万をくだらなかったのは良く覚えている。
僕と先輩は中でも強烈なザル&舌が肥えていたため、本数を大量に確保して一年二年と時間をかけて実験をしていたわけだ。
まるでアホだな!

と、その喜楽里の二年寝かしを引き上げて試そう、というのが冒頭。
さらに、寮内をほっつき歩いていた僕の同輩を捕まえて、先輩の部屋にお邪魔した。
この同輩は日本酒が苦手だったが、そういう奴の意見こそ聞きたいわけである。
付き合い一杯、いや一口でいい。あとはジュースでかまわんから…とコップに注いだ喜楽里の二年寝かしに同輩が口を付けるのを、ジッと見つめる僕と先輩。

「なんだこれェ!?」

同輩の口から出た言葉は、感動のセリフだった。
結論から言おう。日本酒嫌いが目をひんむくほどの、恐ろしく柔らかく、癖のない飲み口へと変化していたのだ。
水の如し、と例えられる酒があるが、コレぞ水。何の誇張もない神の酒、いや魔酒であった。
元々恐ろしく口当たりの良い酒ではあるが、流石に水とまでは言わない。それが何の抵抗も嫌味もなく口腔内へと吸い込まれ、それがとてつもなく芳醇な甘さを爆発させる。

ホルモン焼きもイクラも瞬殺だ。食欲にもブーストがかかり、さらには飲めぬ同輩が勘違いして喜楽里のおかわりを続け、先輩がもう足らぬと言って追加で開けた鉄砲隊(濁り酒。下手に開けると部屋中酒まみれになる)をこれまた三人で飲み干すまで相なった。
結果、同輩は翌日宿酔いで寝込むことになった。悪いことをした。

遠く和歌山を離れた銘酒、高垣酒造の酒のお話でした。
なに?メシじゃなくて酒の話じゃないか?
いいじゃん別に…

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