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詩集・小瓶の蝙蝠

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2018年3月の記事一覧

墓標

墓標

優しかった父はどういう顔をして 祖母に金を無心したのだろう
笑顔の絶えなかった祖父はどういう気分で 祖母を殴ったんだろう
鬼の形相で私を叱る母は どんな仕草で男に欲情したのか
雨の日傘もささずに川面に佇む女は どうやって父を虜にしたのだろう
手袋を淑女のように握る祖母は 何を思い子を置きざりに男と逃げたのか
あの日わたしはどこにも存在しなかった
わたし不在の世界ですべてが周り
面白いように混沌とし

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さくら、散る

さくら、散る

きみの事を考えていたんだ
あの日 手紙をくれた きみの事を
意外と達筆で その文面すら優しくて
ほのかに香る まだ見ぬその地の微かな気配を
ぼくはそっと吸い込んだ

きみの事を考えていたんだ
すい星のように現れて
花火のように散っていった きみの事を
名も知らぬ きみの事を
画面越しの きみの事を

ハンドルネームに託された 春への思いは一緒で 寂しく
桜の季節になると 散るまで感傷に浸ってた

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