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今年も届いたジョンルイスのクリスマス・アド。14歳の少年のほのかな恋心に全英が泣いた。ところが納得できない人たちが。その理由とは?



今年も届いた英デパートメント・ストア、ジョンルイスのクリスマス・アド。毎年ドラマ感満載のストーリーで涙なしは観られないほどの感動を与えてくれるのがお約束。そして今年もその期待を裏切らない素敵な作品となった。

まずは、そのクリスマス・アドを観てみよう。

『Unexpected Guest』=予期せぬ客、と題された今年のアドは、14歳の少年ネイサンとエイリアンである少女スカイの友情を描いたもの。不時着した宇宙船(?)を発見したネイサンがスカイと友達になろうと、電光の施されたクリスマス・ジャンパーを着て、仲間であることを証明しようとしたり、ミンスパイの食べ方を教えたり(スカイはアルミケースのまま口に入れようとするところを、ネイサンが慌てて止めようとする)、思わずほっこりしてしまう、微笑ましいシーンが満載だ。

11月4日に公開されたこのアド(今年は例年より1週間ほど早かった!)、待ち構えた人達からは、称賛の声が挙がり、今年もジョンルイス、ウェルダン!と当初は評価も高かったのだが、実は現在、このアドがなんと物議を醸してしまっているのだ。

問題となったのは、このアドに使用された曲、『Together in Electric Dreams』。フィリップ・オーキー(ヒューマン・リーグ)とジョルジオ・モロダ―が、1984年の映画『エレクトリック・ドリームス』のサントラ用にリリースしたもので、今回のアドでは、南ロンドン出身の20歳のシンガー・ソングライター、ローラ・ヤングが素晴らしい歌唱力にてカバーしている。オリジナルのエレクトリック・ポップとはずいぶん違うアレンジだが、アドのストーリーと上手くマッチしなかなかの完成度だ。しかしこれに"ちょっと待った!"をかけた人物がいる。それは、フィリップ・オーキーとジョルジオ・モロダ―...ではなく、英南西部サマセットを拠点に音楽活動を展開するオルタナティブ・フォークバンド、" The Portraits”という夫婦デュオだった。

事の始まりは昨年のロックダウンにまで遡る。 The Portraitsーージェレミー&ロレイン・ミリントン夫妻ーーは、コロナにより家族や肉親など大切な人を失ってしまった人たちの心の傷を癒すべく、チャリティーシングル『Together in Electric Dreams』のカヴァーバージョンを作成した。残された人々のメンタルヘルスをサポートするチャリティへのファンド・レイジングが目的だった。地元サマセットのロックダウン・オーケストラの演奏に彼らのティーネージャーの娘がメインヴォーカルをとり、コーラスも加えたそのアレンジは、スローかつ哀愁的ではあるが、とても美しく、BBCラジオやITVの朝のニュース番組でも紹介された。

こちらが、 The Portraitsが作成した『Together in Electric Dreams』のミュージック・ビデオ。コロナで亡くなった方たちの思い出写真なども登場し、これはこれで涙なしには観れない。


しかし、ジョンルイスのクリスマスアドが初公開された日、ミリントン夫妻は驚愕した。自分たちがアレンジしたバージョンにそっくりではないかと。

英ガーディアン紙によると、 The Portraitsは今年3月に自身のカヴァーバージョンを、今年のクリスマスアド用の楽曲としてジョンルイスにオファーしていたという。「心のこもった紹介文とともに、この曲のオーディオ・ファイルとこの曲をカバーするに至ったバックグラウンドをジョンルイスに送ったのです。同社のクリスマス・アドにぴったりだと思ったから。でも、(ジョンルイスから)返事が来ることはなかったのです」とロレイン・ミリントンは語っている。

The Portraitsは、さらに自身のフェイスブックページで、「私たちは、パンデミックで大切な人を失った方たちのメンタルヘルスをサポートするチャリティーの一環としてこの曲を公開しました。そして、その収益を少しでも上げるために、この曲がどこか大手の会社とリンクしてくれれば、という(恐らく世間知らずだった)夢も持っていました。しかし、ジョンルイスは、私たちのカヴァーバージョンからその「フィーリング」とアレンジの要素を拝借するという形をとり、彼らのバージョンとして世に出したのです。私たちに何の報告も無しに」と続けている。

これに対してジョンルイスは、 The Portraitsがコンタクトをとった担当者は既に今年6月に退社しており、今年のクリスマス・アドには関係していないとの声明を出しており、同社のスポークスマンは「まさに内容のない主張だ。広告内容やその楽曲に関しては、一括して代理店により遂行されており、我々は、他の外部、または内部ソースであろうとも、その内容を読んだり、考慮したりすることは出来ない」と続けている。

ミリントン夫妻はジョンルイスと論争を続ける気はないが、「正義がもたらされるべきだ」と主張、ジョンルイス側には売り上げを自分たちのサポートするチャリティにも寄付するよう伝えたことを明らかにした。ジョンルイスは、同アドで14歳のネイサンが着ているクリスマス・ジャンパーの売り上げの10%をフードバンク・チャリティであるFareShare とHome-Start UK に寄付すると表明している。

実は、ジョンルイスが他所からアイデアを拝借していると訴えられるのは初めてでない。2017年、児童文学者のクリス・リデルは、彼の絵本のキャラクターとそっくりなフレンドリー・ブルーモンスターが、ジョンルイスのクリスマス・アドに登場し、彼のストーリーを勝手に使用したと指摘している。

なかなか難しい問題ではあると思うが、このようなカヴァー・バージョンに関しては、世に送り出した時点でパブリック・ドメインになってしまうことを前提とするべきだよな。ただ、バンドがジョンルイス側に3月の時点で音源を送っていることを考慮に入れると、何らかの影響をもたらしたのは否めないのかなぁ。全体のトーンは似ているけど、正直アレンジやヴォーカルはずいぶん違うし。まあ、何よりもジョンルイスのクリスマス・アドの楽曲に関しては、クリスマス・チャートNo1も必至だと言われるほど影響力が半端ないので、食い込んでいきたい気持ちは分かる。

現在、 ミリントン夫妻のデュオ、The Portraits は、次のクリスマスシングルとして、エド・シーランの『フォトグラフ』のカヴァー・バージョンをリリースする予定だ。『Together in Electric Dreams』と同様、オーケストラ&コーラスのスタイルだという。

こちらが本家本元の『Together in Electric Dreams』。私はこれが一番好き。

こちらも併せて読んで欲しい。昨年の各リテイラーのクリスマス・アドに関する記事です。


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