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『誰もNo1になんてなりたくない:世界がもっとも忌み嫌うバンド』なぜ彼らは嫌われる?



当たり前と言えば当たり前なのだが、売れている音楽がみんな好き、というわけではない。こちらの人(特に英国人)と音楽の話をし、例えば(お気に入りかどうかは別として)バンドの名前が会話に上がると、嫌いなバンドに関しては「Gosh! They are so annoying! (けっ!なんかムカつくんだよね!)」とか「I can't stand them!(奴らには我慢できない!)」と普通に言う。

割と音楽をよく聴いていたり、詳しかったりする人達(中には音楽業界、関係者の人たちも)がこのように発言するので、要は、”何で売れているのか分からない”ということなのだろうが、まあ嗜好は人それぞれ、売れているからには何か理由があるのだろうし、あくまでも私の周りの音楽好きは、世代、年齢的にも”遅れている”のが原因かもしれない。

英サンデータイムスのコラムがこの現象?を取り上げていて、『誰もNo1になんてなりたくない:世界がもっとも忌み嫌うバンド』というタイトルで、(なんとなく)説明してくれていたので、訳してみた。この記事を執筆したJonathan Deanという人のコラムはなかなか面白く、記述の仕方や例の出し方が非常にイギリス的なので、これも含めて書いてみたいと思い、全訳することにした。

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マムフォード&サンズは、現在一番ムカつくバンドと言って過言ではないだろう。音楽ライターのジョン・サヴェッジは、「かなり長い間、ずっと考えていたんだけど、マムフォード&サンズはこれまでのバンド史上、最悪のグループだと思う」とツイートし、その後活発な議論が交わされている。確かに。彼らのキャリアを通して、この英国バンドは、なぜこんなに多くの人が彼らを嫌うのか、という質問に答えてきた。じゃあなぜそんなにムカつかせる?それは、バンジョーが好きか嫌いかという意見ーーー恐らく奴は、ツイートが原因ではなく、楽器の選択でバンドを脱退するべきだったーーー(筆者注:マムフォード&サンズでバンジョーを担当していた、ウィンストン・マーシャルは、昨年3月、Andy Ngoの『Unmasked: Inside Antifa's Radical Plan To Destroy Democracy』を取り上げ、「おめでとう。やっと、この重要な本を読む時間を持つことができた。あなたは勇敢な人だ」とツイートした。しかし、作者のAndy Ngoは、極右のドキュメンタリーを作成したりするようなアメリカでは議論の的であるジャーナリストだったため、マーシャルのこのツイートには「ファシスト」や「ナチス」というコメントが相次ぎ、マーシャルは謝罪。その後、自由な政治的発言がしたいからと、バンドを離脱した)、または、そこまで熱心ではないにしろ、クリスチャンだから?もしくは保守党、パブリックスクール出身のやつはロックバンドなんかやるべきではないのかもしれない(筆者注:ウィンストン・マーシャルの父親はマルチミリオネアで、保守党のアドバイザーなども務めた超エリート。ウィンストンも名門私立校出身)?もっとシンプルに、そのような衣装でグラストンベリーでヘッドライナーを務めるんだったら、Worzel Gummidge(70年代後半から放送された、子供向け番組の司会者、案山子のような恰好をしている)をお願いしたい?

おそらく、セックス・ピストルズやジョイ・デヴィションなどその時代のレジェンド達に関する本を書いた、現在68歳のジョン・サヴェッジがマムフォード&サンズのファンでないのは驚くべきことではないのかもしれない。マムフォード&サンズはウエイトローズ(英高級スーパーマーケット)で生まれ、進化したのだから。

では、ムカつかせるバンドがほかにもいるか?特に考えることもなく浮かび上がってくるのは、U2とコールドプレイだろう。双方ともつい最近、いいことをしたというニュースが入ってきたばかりで、それがますます人々をイライラさせている。

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先週末、U2のボノとエッジがキーヴの爆弾シェルターでサプライズ・ギグを行ったのは記憶に新しいが(本名を使ってればこんなに気分を害されることはなかった?)、「彼らはもう十分に苦しんでいるだろう!(筆者注:ウクライナ人はそれでなくても大変なのに、ここにきてU2の音楽を聴かせられるなんて罰ゲーム以外何物でもないという揶揄)」ーーーウクライナ人は、このメガ・バンドが善意をもって何の見返りもなく来てくれたという事に感謝しているかもしれないーーーーという見解を無視した反応は予想通りだったといえる。

U2に関して言えば、ボノはエイズ基金にかなりの金額を集め、誹謗中傷する人たちの何倍もの時間を世界を少しでも良くするために使っている。しかし、半面、税金逃れをしているという批判を受け、その疑惑により彼は”非常に落ち込んでいる”という。もしこれが本当なら、ただの偽善的スーパーリッチ人間という事になりかねないのだが。

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また、現在、エコ・ワールドツアーのために提携した石油会社が大規模な森林伐採を行っていたとして、”グリーンウォッシュ(上辺だけの環境保護)に利用されたアホ”と揶揄されている、クリス・マーティンとコールドプレイだが、「すべてがうまくいくとはまだ言っていない」とバンドは弁明。まあ確かにそんなに簡単なことではないだろう。

前述のサヴェッジのツイートだが、他のバンドーーー特に善行を前面に出したことのないバンドーーーも含まれている。90年代、クーラ・シェーカーは、ポッシュ・ボーイがギャップ・イェー(筆者注:ギャップ・イヤーをポッシュに発音)に文化の盗用をしてキャリアを築いたと言われた。じゃあスミスは?というか、モリシ―は?もっと言えばビートルズは?

じゃあ、ーーThunder and lightning!(筆者注:驚いたことに!曲名と掛けている)ーークイーンはどうなんだ!?ということになる。数多くの偉大なるポップソングを生み出したバンドの功罪は?何がそんなにイライラさせる?「普通の車に乗った、退屈な職業の人が聴く”ロック・ミュージック”」といえば、説明がつくだろう。

つまり、簡単に言うと成功しているバンドが嫌い、ということになる。来月、ジュビリーの祭典で演奏することになっているエド・シーランが何をしたというのだ?何故にアデルが£47.5ミリオン(75億2千700百万円)の邸宅を見せびらかすのを見てイライラするのだろう(恐らくラスベガスのショーをキャンセルしたから?)。ポップは常にフットボールと同じく同朋意識として成り立っていたが、ソーシャルメディアの台頭により、ファンが今までになく声を持つようになった。

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批判や攻撃などのかっこうの的となってしまったバンドもいる。無礼極まりないリンプ・ビスキットは、幼稚な怒りを露わにして、5年間もギター・ミュージックをダメにした。トップローダーはどうだ。マムフォード&サンズに話を戻せば、メンバーの誰一人として、マーカス・マムフォードの息子ではない。そういえば、フォールのマーク・E・スミスもかつて批評家を演じたことがあり、「(嫌いなバンドには)ボトルを投げつけてやった」と言っていた。

ここからが問題だ:ビッグバンドになって成功し、ターゲットになるのがよいか、それとも一度にターゲットにならずに活動するか?

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これが全訳。前半はイギリス人らしいサーカズムで笑わせてくれたが、最後は少し論点がずれてきていると感じた。最後の質問は、ちょっと間が抜けているよな。いやだって、何を言われてもとにかく売れたいでしょう。バンドとしては、出来るだけ多くの人に自分たちの音楽が届いて、出来るだけ大きな会場(フェスを含め)でプレイするのが最終目的なのではないかと。そこにお金が入ってくれば、それに越したことはないけど、お金の為だけにやっているわけでもないと思うので。

で、この記事の行きついた結論は、結局僻み、ということのようだが、イギリスには、ミドルクラス出身のお坊ちゃまがギターを持つことに、ロックバンドをすること自体に、嫌悪感を感じている人も多々いる訳だから、それは納得。

ただ、売れているバンドが、世界中が抱える問題ーーー環境問題や食料危機、病気の蔓延や教育の不平等などを問題提起して、その認識を広め、何らかの対策を提案していくことは、とても重要だと思う。職業がミュージシャンであるが故、「音楽だけやってろ、政治や社会問題には口を出すな」というのも、表現の自由として成り立たないし、一市民である以上は人権も見解もあるわけで。バンドに限らず、影響力を持つ人たちが、先に声を上げることによって、問題意識が広がれば、一般の人々の関心も高まるわけなので、それを偽善と呼ぶ人たちをいちいち気にしていたら、行動を起こすことはできないし、世界を地球を少しでも良い場所にしていくのは不可能になる。

と、ここまで書いて、なんだ、嫌われているバンドって、音楽そのものよりもその出生や政治的発言・活動で”なんかムカつく”ということになってしまうのか、と納得。私は好きですよ、マムフォード&サンズ。

追記:2019年の夏にボスニア・ヘルツェゴヴィナを訪れた際に学んだのだけど、U2は、1995年のボスニア戦争終戦後、1997年にサラエボ・コンサートを敢行している。すごいのは、それに先立って1993年、Zoo TV Tourのツアー中、ボスニア戦争真っ只中のサラエボの様子を、サテライトを利用し、ステージでライブ受信したこと。最初のオンエアはスナイパー通り(ここのホテルにメディア関係の人たちが滞在していた)からで、サラエボの惨状を伝えるのに貢献した。しかし、ロック・エンターテインメントと人類の悲劇を一緒くたにすることは、倫理的配慮に欠けるという指摘もあった。



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