見出し画像

サンタの孫と星のつえ

もうすぐ、クリスマス。
 一年生のひろきは、サンタさんになにをもらおうか、むねをふくらませていました。
「サッカーボールもいいけど、ゲームきもほしいなぁ。どうしよう」
 ぶつぶつ言ってると、きんじょに住んでいるけんたがやってきました。
「ひろき、なにぶつぶつ言ってるんだよ」
「けんた君。ぼく、サンタさんになにをもらおうか、かんがえてるんだ」
 ひろきはゲームきのことを、おもいうかべて、にこっとしてこたえました。
 けんたは、それをきくと、にやぁっとわらって言いました。
「おまえは、なにがほしいの?」
「ゲームきかサッカーボールかまよっているところ」
「えーっ、ゲームき? サッカーボール? でも、おまえんちには、サンタなんて来ないよ。だって、おまえんち、びんぼうだもん」
 けんたは、ばかにしたように、わらって言いました。
「そんなのかんけいないよ。サンタさんはいい子のところにしか来ないんだ」
 ひろきはむっとして、言いました。
「じゃあ、きょねん、なにをもらったか、言ってみろよ」
 けんたは、まだにやにやしています。
「えーと、えーとね、おかしのくつ」
「ははっ。おまえ、ほんとうはもっといいものが、ほしかったんだろ?」
「うーん、プラレールをおねがいした……」
「ふふっ。そうだろう。おまえんちには、サンタなんて来ないし、来てもどうせ、ことしもおかしのくつだよ」
「どうして、そんないじわる言うのさ」
 ひろきは、くやしくてたまりません。
「だって、サンタなんていないからさ」
「そんなことないよ! だって、きょねんもそのまえもサンタさんがプレゼントくれたもん」
「でも、ほしいものじゃなかったんだろう。はっきり言ってやるよ。サンタはおまえのおかあさんなの!」
 ひろきはびっくりして、声も出ません。サンタさんがおかあさんだったなんて。
 そういえば、ひろきがサンタさんに、プレゼントをおねがいするたびに、おかあさんが、ちょっぴりかなしそうなかおになるのを思いだしました。
ひろきの目になみだが、たまってきました。
 いっしょうけんめい、目をこすっているひろきを見て、けんたはぽつりと言いました。
「ごめんな。わるかったよ」
 けんたは、ひろきのかたを、ぽんとたたくと、さっていきました。
(サンタさんがほんとうにおかあさんなら、ぼく、今までおかあさんに、わがままばかり言ってきたのかな)
 ひろきの家は、おとうさんが早くになくなって、おかあさんとの二人ぐらしです。お金も車もパソコンもないし、おかあさんはしょっちゅうため息をついています。
 そんなおかあさんの、元気がないようすを思い出すと、ひろきはとてもむねが、くるしくなってきました。
(よーし!)
 ひろきはこころをきめて、家への道をいそぎました。
 
 家では、おかあさんが、だいどころに立って、ゆうはんのしたくをしていました。
「ただいま、おかあさん」
「あら、ひろき、おかえり」
「ゆうごはん、もうすぐできるから、ちょっとまっててね」
「うん。あのね、おかあさん、ぼくきめたんだ」
「あら、なにをきめたの?」
「うん、ぼくことしは、サンタさんにおかしのくつを、おねがいすることにした」
「そうなの。もう、ゲームきやサッカーボールはいいの?」
「うん。きょねんのおかし、とてもおいしかったし……」
 ひろきの目がまたうるみました。
「学校でなにかあった?」
「ううん。なにもない。なにもないよ、おかあさん」
「そう、それならいいけど……」
 おかあさんは少しのあいだ、小さく口をあけたままでいましたが、
「ごめんね。ひろき。ひろきはおかあさんのこと、かんがえていてくれるのね。ありがとう」
 そう言って、ひろきをやさしくだきしめてくれました。
 
その夜、ひろきとおかあさんがねていると、とおくからすずのねがきこえてきました。そりのすべる音もきこえます。
「おかあさん、外でふしぎな音がしているよ」
「そうね、そりのすべる音みたいだったわね」
 おかあさんがおきあがって、まどをあけると、金色のひかりがさぁーっとさしこんできました。
 金色のひかりにてらされるおかあさん。そのひかりは見るまに、ひろきとおかあさんのねるへやを、金色にそめあげました。
「わぁーっ、なんだろう、このひかり」
 ひろきとおかあさんが手をとりあっていると、まどからふーっと風もふきこんで、ひらひらひらっとゆきもまいちりました。
「メリークリスマス!」
 トナカイとまっかないしょうをきたサンタさんが、しゅーっとひろきのいえにすべりこんできました。
「わーっ。サンタさん、やっぱりいるんだ」
ひろきは、思わず声を上げました。おかあさんも、びっくりしています。                  
でも、おかしいのです。このサンタさん、おひげもはやしてないし、かおも子どものようです。
 それに、さっきメリークリスマスと言ったけど、クリスマスまでには、あといっしゅうかんもあるのです。
「どこの子かな? こんな夜におとうさんとおかあさんはどうしたの? 大丈夫?」
 おかさんがたずねました。
「大丈夫です! ぼくは、サンタの孫だよ。きょうはおじいちゃんにたのまれて、ひろきくんとおかあさんを、やかんひこうに、つれに来たんだよ」
「サンタって、あのサンタさんだよね。わーい」
 ひろきはうれしくてたまりません、
「まあまあ、こんなことってあるのかしら」
 おかあさんは、とてもふしぎそう。
「やかんひこうって、なあに?」
 ひろきがたずねると、おかあさんがこたえてくれました。
「よる空をとぶことよ。きっと、このそりにのっていくんだね」
 おかあさんは、ひろきに目くばせしました。
「そういうこと!」
 サンタの孫が、パチンと手をたたいて言いました。
「さぁ、のった、のったー。きょうはぼくが、ひろきくんとおかあさんを、せかいりょこうに、ごあんないー」
 サンタの孫にうながされ、ひろきとおかあさんが、そりにのると、トナカイがはしりだし、そりはすーっとうかびあがりました。
 みんなをのせて、そりはひろきのいえをとびだし、よるの空をとんでいきます。
 かぜはきもちよく、下にはおうちや、ひろきのかようがっこうが見えます。
 そりはぐんぐんとんでいきます。
「ねぇ、きみのなまえはなんていうの?」
 ひろきはサンタの孫にたずねました。
「ぼくは、ルイっていうんだ」
「ルイくん、なんでぼくとおかあさんをやかんひこうに、つれて行ってくれるの?」
 ルイはちょっとかんがえてから、言いました。
「うん、まあ。そのうち、わかるよ。今は今のことだけたのしんで」
 星が手でさわれそうなほど、近くできらきら、かがやいています。
すこしすると、こんどは大きなくもが見えます。ふわふわの、くものうみの中を、ぬけていきました。
「きゅうこうかー」
 ルイが大きな声で言って、そりは小さな町の上に来ました。
 小さな町の小さなおうち。
「のぞいてごらん」
ルイはひろきとおかあさんに、ぼうえんきょうをさしだしました。ひろきとおかあさんはかわるがわる、ぼうえんきょうをのぞきました。
 小さなおうちの中に、ぼろぼろのかみでできた、そまつなクリスマスツリーが、かざってあるのが見えます。
 そのそばでは、小さな女の子が、とてもくるしそうに、ねむっています。おねつがあるのでしょうか。まっかなかおをして、ときおりくるしそうに、せきこんでいます。
「あの子はだあれ?」
 ひろきがルイにたずねました。
「あの子はとてもかわいそうな子でね、あの子のおとうさんとおかあさんは、銃(じゅう)でうたれてしまって、あの子はひとりぼっちなんだ。」 
 ひろきが、じっと目をこらしていると、うわごとでしょうか。女の子の声が風にのって、きこえてきました。
「サンタさん、おとうさんとおかあさんをかえして。おとうさんとおかあさんに会わせて」
 ひろきは、むねがきゅーっと、しめつけられました。
 おかあさんが、ひろきのかたを、そっとだきよせました。
「ルイ、ぼくたち、あの子になにかできないの?」
「あの子のおとうさんとおかあさんに会わせてあげることはできない。ただ、おいのりをしたら、あの子を元気にしてあげることはできるだろう。さあ、これをいっしんにおいのりしながら、ふってごらん」
 ルイは白い大きなふくろから、星のついた、りっぱなつえをとりだしました。
 星は金色に、ぴかぴか光っています。
(なんて、きれいな光なんだろう。よーし)
 ひろきは、ためしにひとふりしてみました。
 きらきらきらっと音がして、つえのさきの星から、小さな星がこぼれました。
(あの子がしあわせになれますように)
 ひろきがしんけんに、いのりながらつえをふると、小さな星たちが、しゃわしゃわっと音を立てながら、女の子にどんどんふりそそいでいきます。
 金色の光が、女の子のおうちを明るくそめています。
 女の子のほおが、あっというまにピンク色になっていきます。
「ひろき、いいわよ。そのちょうしで、どんどんつえをふりなさい」
 おかあさんが少しこうふんして、ひろきをせかします。          
 ひろきは、女の子が元気になるように、つよくつよくこころにいのりながら、星のついたつえをふりつづけました。
 女の子は目をぱっちりとあけました。手をうごかし、うでをあげ、足をもぞもぞうごかしました。
 女の子のおうちは、もうそこらじゅう、金色だらけです。小さな家も、小さなやねも、小さなにわも、金色でいっぱいになりました。
 女の子は、しあわせそうにほほえむと、ベッドからおきあがり、にこにこわらいながら、ひろきに手をふっています。
 ひろきも手をふりかえしました。
「ぼく、いいことをしたのかな」
「とっても、いいことをしたよ」
 ルイがこたえました。
「そうよ、ひろき、よかったよ」
 おかあさんも言いました。
 ひろきの心は、なんともほこらしげなきもちになっていました。
 
 ルイのそうじゅうするそりは、またぐいーんとじょうしょうして、くもの中をとんでいきました。ひろきとおかあさんは、大きな町や小さな町や、とんがった山や、ゆったりとした海、ざわざわとゆれる森や、まがりくねった川を見ました。
「せかいには、いろんなものがあるねえ、おかあさん」
「ほんとうだね、ひろき」
 そして、ひろきとおかあさんは、あちらこちらで星のつえをふりました。
 まずしい子どもがいました。
 びょうきの子どもがいました。
 車いすの子どもがいました。 
 中にはおかねもちで、すぐいらいらする子どももいたけれど、そういう子たちにも、ひろきはわけへだてなく、星のつえをふりました。
 ひろきに星のつえをふられて、こどもたちは、みんなうれしそうに、手をふってこたえてくれました。
 と、まあ、その中にけんたのすがたも、あるではありませんか。
(けんた君…?)
 けんたは、てれたようにわらっています。
「ごめんな、ひろき。きのうは、あんなこと言って。おれ、クリスマスにプレゼントなんて、まだいちどももらったことなかったからさ」
「そうだったんだね。でも、サンタさんは本当にいるんだ。しんじていれば、きっとあらわれてくれるんだ。そのしょうこに、ほらっ」 
ひろきは、けんたに星のつえをふりました。
 とたんに、けんたの体が金色の光につつまれました。
「うわーっ。あたたかくて、とてもいいきもちだ。ひろきーっ。おれもサンタさんをしんじるよーっ」
 まんめんのえがおで、うれしそうにさけぶ、けんたの声がきこえました。
 ルイがじしんにみちた声で言いました。
「そうさ、そのとおりさ。サンタさんは本当にいるんだよ。いなけりゃ、自分がなっちゃえばいい。さあ、ぼつぼつおうちにかえろう。」
 そりは、大きくカーブすると、ひろきのおうちにかえっていきました。
 ひろきのおうちにつくと、おかあさんが言いました。
「ひろき、きょうはよくがんばったわね。さいごにおかあさんにも星のつえをふらせて」
 おかあさんがひろきを、やさしい目で見ながら、星のつえをふりました。
 ひろきは金色の光につつまれて、ふんわりやさしいきもちになりました。からだもこころも、ぽかぽかです。
「なんだか、とてもしあわせなきもちだよ、おかあさん」
「そう、よかったわね」
 ひろきは、ゲームきよりもサッカーボールよりも、いいものをもらった気持ちになっていたのです。
「そうだ、ルイくんにも、星のつえをふってあげる」
 ひろきは思いたち、おかあさんから、星のつえをうけとると、ルイに大きく星のつえをふりました。
(ルイくん、いままで、ありがとう)
 いままででいちばんきれいな光がルイにふりそそいで、ルイの目がかがやきました。
「わあ、ありがとう。ひろきくん。ぼく、きみをやかんひこうにつれてきて、ほんとうによかったよ」
 ルイがうれしそうに言いました。
「ぼく、まだまだサンタのみならいだけど、これからもがんばるよ。せかいじゅうの子どもたちに、サンタさんをしんじてもらうのが、子どもサンタのしごとだからさ」
 むねをはってかたるルイは、キラキラ光っていて、ほこりにみちているようでした。
 まだまだひろきはルイといたかったけど、そろそろお別れのときがきているようです。
「ありがとう、ルイくん」
 ひろきはルイの手をにぎりしめました。
「こちらこそ、ありがとう、ひろきくん」
 ルイもひろきの手をにぎりかえしました。
 二人の体は、金色に大きくつつまれました。
 
 よくあさ、ひろきがめざめると、そりもトナカイもゆきも、金色の光も、なにもありませんでした。
(あれあれ、ぼく、ゆめを見ていたのかな……?)
 ひろきがふしぎなきもちでいると、
「ひろき、きのうはたのしかったね」
 おかあさんの声がしました。
「おかあさん! おかあさんも行ったよね! やかんひこう」
「うん、行った。そして、星のつえ、いっぱいふったよね、ひろき」
 おかあさんの明るい声がかえってきました。
(そうか、やっぱり、ゆめじゃなかったんだ)
 そう、つぶやくひろきのこころに、やかんひこうと、星のつえ、そしてせかいじゅうのこどもたちのすがたがよみがえりました。
「サンタはいるんだよ。いなけりゃ自分がなっちゃえばいい」
ルイのことばを思い出しながら、ひろきは明るい朝の空を見上げました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?