介護サービスは誰のため
義母が軽度の認知症と診断され、進行を抑える投薬治療を続けている。診察の前日義母を迎えに行き、我が家に泊まって翌日診察が終わると送っていく。薬の量を調整するため、最初は毎週、2週に1回、3週に1回と徐々に間隔を開けて最終的には4週に1回となる。
夫も夫の姉弟も今までより頻繁に義母に電話をするようになった。「今日の調子はどう?」「何食べた?」他愛もない内容だが、1人暮らしの義母の様子を確認することで義母は喜ぶし、家族も安心する。とても良いことだ。良いことだ、けどこれだけで良いのか?
私はNPOの仕事以外に電話の相談員を仕事にしているので、介護についての相談を受けることもある。介護に疲れた家族が泣きながら電話を寄越すこともある。
「介護サービスは受けていますか?」と尋ねると多くの家族は「本人が絶対嫌だと言うので」「家の中に他人が入って来るのはちょっと」「手続き面倒なんでしょ?」などの理由で介護申請をしていない。
そんな時相談員の私は
「介護サービスはご本人のため以上に、介護に関わる家族のためのものなんですよ。家族が疲れて倒れちゃったらどうしようもないでしょ?介護保険払っているんだから受けられるサービスはどんどん受けて、少しでも今より楽になる方法を考えましょう。何のサービスを受けるかは相談しながらで良いので、まずは介護申請をしましょう!」
と言って、役所の福祉課や地域包括支援センターへの手続きの手順を説明する。
あれ?これって我が家もそうじゃん。
家族以外の人が1人でも多く見守ってくれたら、今より絶対安心。そうだよ、介護申請しよう。
義母に介護サービスを説明。「それ申請すればどうなるの?」「デイサービスに行ったり、ヘルパーさんに来てもらえるよ。私たち来られない日でも、デイサービスのスタッフさんやヘルパーさんがお義母さんの様子見てくれるんだよ」と説明する。
「あぁ、近所の○○さんも行ってらもんな。したばって(でも)、○○さんだばなんも自分で出来ないけど、わだば(私だったら)何でも1人でやれるし。今は足やめるはんで(痛むから)グランドゴルフさいげねばって(行けないけど)、足良くなれば週3回グランドゴルフさいがねばまねし。畑もやねばまねし忙しい。わだばデイサービス行きてぐね(行きたくない)。
出たー。ストーブの点け方分からないと泣きながら電話を寄越したことも、脳神経外科の医師に運転をやめろと言われたことも無いことになっている。しかも足の痛みに関しては何の治療も受けようとせず悪化しているので、このまま回復する見込みも無い。
そして義姉「本人介護サービス受けたくないって言っているのに、無理矢理受けさせるのかわいそうじゃない?年寄り扱いみたいで」
ダメ押しか。
なんかね、良かれと思ってやっても、かわいそうなことを推し進める非情な嫁みたいじゃんよ。てか、85歳は立派なお年寄りでしょうが。じゃあいいわ。知らん知らん。やさぐれた。
そして介護申請保留のまま、脳神経外科の診察日。
先生「おぉ、遠いところよく来たな。調子はどう?」
義母「はい、調子良いです」
先生「そうかそうか、それは良かった。あんたの仕事はデイサービスに行って、うんといろんな人に会って話をすること!認知症の人にはそれが一番だから」
キターーー今がチャンス!
私「先生、義母はまだ介護サービス受けていないんです。介護申請もしたことなくて」
先生「今すぐ申請しなさい。すぐ意見書書いてあげるから」
相変わらず口が悪い先生だが、車の運転を止めろと言った時同様、先生の言葉は絶対だ。先生に対しては義母も「したばって(でも)」と返さない。先生グッジョブ。
病院終わったその足で役場に介護申請をした。巷で言われるように煩雑な手続きではなく、職員さんは驚くほどさくさく進めてくれた。離れて住む私が手続きに度々来なくていいように、当日のうちに義母の住まいを訪問してくれてヒアリングも終えてくれた。
このヒアリングがまたウケるんだけど、役場の方が義母に生活で困っていることを質問すると、全く困っていないと回答する。買い物も食事の支度も自分でできるし、風呂も毎日入っているし、トイレの失敗なんてするわけない、と。おまけに足痛いくせに片足で立って見せたりする。
これが噂に聞いていた「必要以上に良いところを見せようとする介護イヤイヤ期」か。
そこは役場の方も慣れたもので、義母に聞き終えた後、同じ質問を私にする。私は正直に出来ること出来ないこと、私たちが困っていることを話した。
役場の方は「本人が困っていること無いっていう項目が多いから、もしかしたら認定にならないかもしれないけれど、その時には町の事業で受けられるサービスがあるので、まずは機械にかけて判定してみます」と言って戻って行った。そりゃそうだよなぁ。介護サービス受けたい感ゼロだもんなぁ。
直後役場から私の携帯に
「判定で要支援1が付きました!それでは脳神経外科の先生と連絡とって進めていきますね!」と弾んだ声で連絡が入った。なんていい方なんだろう。ありがとうございます。
その後要支援1と認定され、週1回デイサービスに通うことになった。最初義母はスタッフの方に「用事あったり行きたくない時は行かなくていいんでしょ?」と尋ね、私たちを慌てさせた。スタッフさんは苦笑いしながら「ちゃんと連絡してもらえれば休んでいいんですよ」と答えてくれたが。
私たちは義母を諭す。「デイサービスがお義母さんに来てちょうだいって言っているんじゃないんだよ。こちらが利用したいってお願いしているんだからね。そこをわかってちょうだい」
なんだかんだ言っていたけれど、今は休むことなく通っており、「スタッフはみんな若くて優しい」「風呂に入ると髪を洗ってくれる」「ご飯が美味しい」と楽しそうにデイサービスの様子を話す。スタッフさんは連絡ノートにその日の血圧や気づいたことを書いてくれて、それに私も返信する。
ね?サービス受けて良かったでしょ?
介護サービスは本人のためであると同時に、関わる家族のためなんですよ、って今まで以上に実感込めて伝えられると思う。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?