高齢者の膝痛い問題
「膝が痛くて困ってしまう」
義母がことあるごとに言う台詞。会う人会う人に嘆く。
どうしたの?と尋ねられると
「3年前のお盆の時、お墓に持って行くお花を準備するために玄関に行ったら、何かに突っかかって転んでしまって」
尋ねた人はみんな
「あらあら、病院に行った?」
と心配する。
「したって(だって)病院盆休みだし、血が出ているわけでも歩けないわけでもないし。お盆終わればグランドゴルフに週3回行がねばまねし(行かなくちゃいけないし)、畑の草取ったり、わ時間ねんだね(私は忙しい)」
尋ねた人も、あぁ庭の草取ったりグランドゴルフに行けるくらいなんだから大したことないんだろうな、と思う訳で。それは義母の子ども達、私の夫や義姉、義弟もそう思っていた。
でも4年間ずっと会う人会う人に言い続ける義母。そんなに痛いなら病院に行けばいいのに。でも行かない義母。
昨年1月に軽度の認知症と診断され車の運転を止めてもらった途端に、今まで以上に膝が痛いを連発するようになった。これまでグランドゴルフの会場まではもとより、ちょっとそこのスーパーに行くにも車を使っていたのが全て徒歩になったため、実は結構痛いことに気が付いたようだ。主治医の勧めで杖を使い、スーパーではカートを押し、シルバーカーも購入した。
地元紙に人工関節の手術をやっている病院の医師の記事が載っていた。ふむふむ、膝が痛くて歩けない高齢者もこの手術をすれば歩けるようになると。義母もこれやればいいじゃん、と思ったけれど、うーん、また新しい病院に連れて行って手術や入院、これ言い出しっぺの私のお世話かよ。てか、義母の子ども達が考える話じゃないのかい。
脳神経外科の主治医が「相変わらずよっちゃよっちゃ歩くなぁ。めまいしてるの?」と尋ねると、「めまいする」と答えるので、主治医は血圧が低いことを原因の一つに挙げ、循環器内科の先生に相談しろと言うから相談して薬を変えてもらった。
しかし、私はめまいではなくて膝が痛いからだろうと兼ねてから思っていて、義母も素直にめまいではなく膝が痛いと言えばいいのにと思っていた。
そして脳神経外科の受診時に同じように主治医に尋ねられた時、「膝痛くて」と義母が言い出した。「どうして痛いの?転ぶかなんかしたの?」と主治医に尋ねられ、義母は例によってお盆に転んだくだりを話し出し、「その後遺症だのさ」と言い終えると、
主治医「それいつの話?」
義母「3年前のお盆」
主治医「病院行ったの?」
義母、例によって行かなかった理由(言い訳)を延々と語る。
主治医は義母の言葉を遮り「病院にも行っていない、治療もしていないものは後遺症って言わないの。今すぐ整形外科で診てもらいなさい!いい先生知っているから紹介状書くから!」
ですよねぇ。それよ。
かくして、脳神経外科に加え整形外科への通院が加わった。レントゲン、MRIを撮って整形の先生とお話しした。
「これ見てください。もう半月板が無くなっているんです。普通は三角が見えるんだけどほとんど無いでしょ。左がひどいけれど右もかなりいってます。加齢によるものですね。転んだからとかそういったことではないですね。靭帯もボロボロです。
え?転んだせいじゃないの?加齢によるものだったのか!
「まぁ人工関節入れる手術すれば治るんですけどね…」主治医は言いながら、義母が靴下や靴を履く手伝いをする私を見下ろしながら言いにくそうに
「85歳ですよね…認知症もある。お嫁さん、そうやって靴履かせるのとか手伝ってあげてるんですね。手術後、2週間自分で自分の身の回りのことできますか?人工関節の手術は全身麻酔だからリスクがあります。麻酔でそのまま帰って来ないこともあります。認知症が進むことも考えられます。そういったリスクを考えると安易に手術は勧められません。どうしても手術をと言うのであれば、心臓の治療をしている循環器内科の先生に相談して大丈夫と言うなら考えましょう。循環器内科の先生に手紙書いておきます」
整形の先生、丁寧な口調だったけど。リスク負ってまで手術したくないんだろうなというのはひしひしと感じられた。だよねー。先生が言うように生死に関わる手術になりかねないし、何するにも私がやってくれるの待っている義母を見ると、介護施設でもない整形の病院にとっては負担だし。
そして整形の先生からの手紙持って循環器内科を受診。
「止めといた方いいんじゃないですかぁ?
今、杖とかカート使えば歩ける訳だし。心臓の疾患あるのに全身麻酔とか勧められませんよ。整形の先生にはそうやって返事しますからね。
どうしても手術したいんだったら、麻酔科がある総合病院でやるとか」
私「麻酔科のある総合病院、ここ総合病院だし、この病院にも麻酔科も整形外科もありますよね。ここでやってもらうことはできないんですか?」
医師「うーん、どうかな。ここの先生やってくれるかな」
なんだこの医師。まぁ整形の先生のお話で人工関節の手術は無理なんだろうなと思ってはいたけれど、この循環器内科の医師の態度には呆れた。ここの先生やってくれるかな?じゃねーだろ。聞いてみろや。聞いて無理って言ったら納得できるけど、聞く気も無いと。仕事しろや。
ということで、義母には説明した。人工関節入れる手術は無理なんだって。循環器内科の先生から整形の先生に手紙書くんだって。だから少しでも痛み緩和できるような治療を整形の先生と相談しよう。
義母は、「んだな」素直に頷いた。
今更だけどさ、膝痛い痛いって言う義母を無理矢理でも整形外科に連れていけばよかったのによ、子ども達よ。私は自分の親だったら有無を言わさず連れて行くけどな。3年前なら自分で運転できた訳だし、認知症でも無かったから人工関節入れる手術も出来たんだろうよ。今更だけどさ。
そんな中、義姉からラインが来た。
「足の指を骨折したので車の運転が出来ない。循環器内科への通院に連れて行くことができないので、申し訳ないがその通院もお願いしたい」
そりゃ仕方ないな。
脳神経外科医に加え、整形外科、循環器内科への送迎をすることになった。送迎は受診日前日実家に迎えに行き、我が家に泊めて翌日受診して実家まで送って行くので、常に一泊二日。
病院から帰宅して慌ただしく晩御飯の支度をする。
パソコンを開く。出先で仕事関係のメールは確認して、都度返信しているものの、気がつくと返信の期限が過ぎて催促がきていたりする。
週一回の大学の講師のお仕事、明日の授業の準備しなきゃいけないから、夕食後にパソコンに向かう。
恒例のマラソン大会に出るつもりだったけど、練習なんか全然できないじゃん。
通信の大学に通おうと思って資料取り寄せていたけど、なんか無理じゃん。
っつーか、なんで夫や義姉や義弟は仕事のスケジュールも崩さず暮らしてんの?なんで私だけいろんなこと調整してんの?
気がつけば涙が出ている。
なんか疲れる。
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