見出し画像

こうして専業主婦の世界は矮小化する

わたしは3ヶ月前まで会社員だった。PJ参画の常連者だったし、100人規模のメンバーを統率したこともある。

日本の中で、わたしが関与したプロダクトを知らない人の方が少ないだろう。

そんなわたしが、今は何を生業としているか。答えは、無職だ。
さらに言うと、「駐妻」をしている。





外国暮らしは「当たり前」が手に入らない。

道はガタガタで、ベビーカーでは500mすら先に行けないほど。雨季に入ると、1日に何度もスコールが降る(しかも、天気予報はアテにならない)。
ゆえに、いつ・どこへ行くかの計画が立てづらい。

そして、何より違うのが食生活。

ここでは、和食を食べようとするならば日本の1.7倍の値段を出して外食するか、すべて手作りするかのどちらかである。

総菜や冷凍食品という選択肢はない。そもそも売られている数が少なすぎるからだ。

それなのに、子どもの学校は給食がなく、ALLお弁当なんだから苦労する。
唐揚げ、エビグラン、ほうれん草の胡麻和え……幾度となく助けられたこれらの冷凍食品を頼ることができない。

わたしは毎日、翌日のお弁当のために夕飯を作っていた。





そんな中、ビッグニュースが届いた。みんな大好き石井食品のミートボールが、とある業者が仕入れた分のみ、タイで発売されるという。

わたしは歓喜した。その喜びぶりは、ベートーヴェンもゲーテもびっくりである。
子どもが大好きなあの味を、また食べさせてあげられるなんて! わたしのお弁当生活の救世主に、バンコクの地で会えるなんて!

わたしは、22時すぎに帰宅した夫に嬉々として報告した。

「あのミートボール、タイでも臨時販売されるらしいよっ!」

優しい夫は、「へぇ~~」とだけ答えた。


わたしは、ショックだった。
この喜びを共有できないことのさみしさ。いや、そもそも彼は、事の重大さがわかってない。だって、あのミートボールが食べられるんだよ!?!?

そこで、わたしは気が付いた。そんな、まさか。それは、受け入れがたい事実だった。わたしは夫に向かってつぶやく。



「こうして主婦の世界は矮小化していくのだ。」

ミートボールがタイでも発売される。その時感じたわたしのワクワク感といったら、ユーザー数1,000万人規模のPJに参加する時と似ていた。

不便を感じる世の中に、ソリューションが提供される。お弁当作りに苦慮する家庭に、ミートボールが届けられる。わたしの中で、それは同等の価値を持っていた。

わたしは、「オカン」になってしまう。自然と口から言葉があふれる。


ああ、わたしはオカンになってしまう。くだらないことで憤慨したり喜んで報告したりする、「世間知らずのオカン」に。

なぜか? それは、わたしが、そういう課題しか発生しない環境にいるからだ。

主婦生活に、事件は発生しない。リリース日が急に早まったり、要件がひっくり返ったり、別の部署で齟齬が発生したりしない。

畢竟、わたしが現在引き受ける課題は、ビジネスの世界からしたらかなり小さい。しかしそれは、わたしにとっての課題のすべてだから、その解決に全力投球する。

そんな些末な課題ばかり扱っていると、だんだんチャレンジが難しくなる。コンフォートゾーンから抜け出せなくなる。どんどん世界が狭まっていく。



いけない、と思った。すさまじい警鐘が、わたしを壊してしまうのではと不安になるほど、体中に鳴り響く。


このままでいたら、わたし、どんどん小さくなる。そして、日本に帰るころにはこわくて何もできなくなる。
いま、耐性があるうちに外に出ないと。人と協力して、責任ある活動をしないと。

傷つくことを恐れる前に外に出ないと、わたし、本当に弱くなる。行動範囲が狭くなる。それはまずい。なぜなら、それは、「わたし」じゃないのだ。

わたしは、この時はじめて、退化の危機を自分ごととして理解した。




ふと、日本にいる専業主婦の友人たちに思いを馳せた。友人たちは、とても優秀だった。みな、ご主人の転勤で仕事を辞めた。

一度専業主婦になると、再就職のきっかけが掴めない。そうして、下の子が幼稚園に入る頃にはブランクが5年もできている。

大学時代、みんな、一生懸命就活をしていた。憧れの企業ランキング常連の大企業に入社した友人もいた。でも、専業主婦になって、世界が矮小化してしまったら、なかなか労働市場に戻れない。ここにものすごい危機感を覚える。

はっきり言って、わたしも含めて、仕事を辞めたのはわたしたちに原因がある訳じゃない。会社の要請じゃないか。なのにどうして、それでわたしたちの一生を棒に振らないとならないんだろう。夫と同様に、勉強して、仕事してきたのに!


とはいえ、社会が変わるのは当分先だから、まずは自衛するしかない。

自分以外の要因で専業主婦になって、いつかはまた働きたいと思っているなら、極力自分の世界を矮小化させないこと。傷つくことに恐れを抱いてしまう前に、他人からのフィードバックを得る機会をつくっておくこと。

心がけ一つだが、せっかく拡大した自分の能力・視野を保つのと保たないのでは、3年後に違いが出てしまうと思うから。わたしも、一歩一歩。まずは自分の時間を確保するために、目下、下の子のナーサリー探しを完了させたい。


(おまけ)この記事をオモシロイ!と感じてくださった方は、こちらの本もオススメです。
日本より家父長制が根強いとされる韓国に住む著者の一冊。





ここまでご覧いただきありがとうございました。
「スキ」「フォロー」、大変励みになります🙇🏻‍♀️
これからもよろしくお願いします💐

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?