取り戻す

『スキルス』というのは『硬い』という意味で、胃壁の中に砂に水が染み込むように広がっていくスキルス胃がんは、胃が陶器のようにカチカチになるのだと聞きました。
その特性から早期発見が難しく、夫は「飲み込むことも、吐き出すことも出来ない」と1年間訴え続けても、「バリウムも胃カメラもして確かめたのだから、神経的なもの」と診断されていたのです。

急転直下、「スキルス胃がんステージⅣ。桜は見られないかもしれない。治療は延命の意味です」と言われた12月。
街はクリスマスのイルミネーションで彩られていました。
その1ヶ月後、私は火事で母を失いました。

突然に大切な人を喪うことも、確実に訪れる別れに向かって共に生きる日々も、比較できるものではありません。


別れたのちの日々を生きていくことに意味も感じられなかったし、『楽しい』『美味しい』『綺麗』と感じることにすら、旅立った人を思い罪悪感を抱きました。

社会的に生きていく中で、感情をあらわにすることは迷惑をかけてしまうだけで何ら解決にならないと思ったので、私は感情に蓋をして仮面を被って生きているみたいな気持ちを抱いていました。

それが、今年になり、少しずつ自分が返ってきているように感じているんです。
ふとしたきっかけで起きるフラッシュバックは例年よりキツイのですが、自分を取り戻す過程なんだろうなと受け止めています。

生きてきた中で身につけたのは、辛い時は、とにかくルーティンを粛々とこなすこと。
朝の散歩で見た紅葉に、あれから何回季節が移ろってきたんだろうと思い、それでも生きてきた自分は頑張ったなと思いました。
お弁当をくんくんするモフモフの姿に、美味しそうだなと思っている姿は、見ている人を幸せにするんだなと思いました。

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全国胃がんキャラバン、多くの人にがん情報を届けるグリーンルーペアクションに挑戦しています。藁をもすがるからこそ、根拠のある情報が必要なのだと思い、頑張っています。