酒と落語、稚鮎の天ぷら|日々の雑記 #78
一昔前は、出張の多い部署で働いていました。
WEB会議のおかげですっかりご無沙汰ですが、車窓の景色を肴に一献傾けるのが格別。午後イチの会議、新大阪まで、始発の「こだま」に揺られたのはいい思い出です。
さすがに博多は飛行機でしたけど、予定より早く家を出て、ロビーの立ち食い寿司でつまんだり、ラウンジでジェットを眺めながら一杯やるのも好きでした。
あ、念のために申し上げておくと、いずれもお茶系ですよ?
会社勤めをしていると、業務効率が求められます。建前としては分かりますが、コスパやタイパの先にはディストピアの予感しかありません。
AIが仕事を奪うのなら、その分私たちの暮らしは楽になっていいはず。なのにまた仕事が増える未来予想図で、一体どこの問屋が卸さないのか不思議です。
今に思うと、出張の移動時間は仕事でもあり、余暇でもあったんですよね。
座席で資料をチェックした後に、機内放送を楽しむ小休憩。全日空寄席で掛かったお酒の噺をきっかけに、落語が好きになりました。
そんなお酒と落語に共通しているのは、どちらも憂き世の妙味ということ。
俗世の欲に汚れつちまつた私たち。
あたぼうなことをわざわざ
「持続可能な開発目標(SDGs)」
なんて言葉にしなきゃいけないこんな世の中は、多分に毒気をはらんでいるのでしょう。
ですから命の洗濯にと大川を越え、墨東まで落語を聴きに行って参りました。
すみだトリフォニーホールで開催の「北斎の娘」を聴く会。もちろん事前に天の美禄で準備運動、街ブラで見つけたお店に飛び込み、中瓶で喉を湿らせます。
腹拵えを済ませ、ほろ酔い気分で会場入り。お馴染みの方、お初の方とご挨拶を交わしたら、さあレッツ拝聴、全身で落語に浸ります。
当日の詳しい様子はおあにいさん、おあねえさんの記事がございます。僭越ながら呑み助目線で語らせて頂くと、「北斎の娘」は初夏の味覚、稚鮎の天ぷらを思わせる作品でした。
季節の移ろいにも似た人生、苦味を知った先にある味わい。林家あんこさんの語る江戸の情景が、さらなる酔いを誘います。やがて遠く武蔵野に風が吹き渡るかの如く、清涼と寂寥を残し、落語の夢から醒めるのです。
鮎はこれから旬を迎えます。
北斎の娘も回を重ねるごとに、その味わいが増していくことでしょう。
効率なんて物差しでは測れない、心の機微に触れる体験。これから更に深まっていく噺の始まりに立ち会えた望外、晴れやかな気持ちで盛会のホールを後にしたのでした。
益々のご健勝とご活躍を祈念しております。
おあにいさん、おあねえさんの記事はコチラ
■□■ 店番のお知らせ ■□■
西日暮里BOOK APARTMENTさんの棚をお借りして、酒と料理の読みものを中心に、集めた本を販売しています。
次回は7月8日(土)12〜16時。
新たに、落語好きの棚主さんが出店されました。お暇なら是非、アルコール中心主義のアルコール中年がお待ちしています。
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