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パンドラの虫干し|日々の雑記#64

窓を開けると、冷たく、乾いた空気に金木犀を感じる秋の朝。大きく息を吸い込めば、甘やかな香りが体を満たします。

いつもながら、夕べもお酒。

爽やかな目覚めの朝ですから、吐き出す呼気に含まれるアルコールも、基準値内(0.15mg未満)だと思います。それでも何だか気乗りがしないので、車での外出は止めにして、部屋の片付けをすることにしました。

少しずつ、長袖や秋物を引っ張り出して凌いできたものの、冬までには終わらせたい衣替え。
ちょうど虫干しの時期ですので、お世話になったショートパンツやTシャツ、仕舞っていたコートやセーターを風に当て、入れ替えます。

干すのは衣類だけではありません。

集めた本も、風通しのいい室内に立て広げて湿気を飛ばします。ずらり並べた本を眺めるのも乙なもの。食エッセイ中心のコレクション、ビジュアルだけで一杯呑りたくなります。

そしてもうひとつ、風を当てた方がいいのが、心に溜まった感情の類。自家製パンドラの箱、いわゆる自家製パンってやつですね。

こちらのパン、当然ながら食べられません。どちらかと言えば、発酵できず臭いを放つ漬物樽。やり場のない気持ちに思い込みをまぶし、重石と蓋をして、ほったらかしたところが似ています。

心に樽を抱えたまま冬を迎えるなんて、想像するだに重たくて、余計に辛くなります。だけど都合よく、これらの気持ちを「無かったこと」にも出来ません。

ならば天日干しでかさを減らすくらい、罰は当たらないだろうと、あれもこれもお天道様の下、白日の元にさらけ出してみました。

当然、触れたくないから箱の奥に押し込めていた訳で、なかなかにしんどい作業。ですから夜にやっちゃいけません。また酔っ払った勢いも禁物、何の気なしにやることが重要です。

さて、いざ箱をひっくり返してみると、出るわ出るわで大忙し。

嫌な目に遭ったことや重ねていた我慢、相手を傷付けた言葉などを反芻して、勝手に「思い出しショック」を受けたりもします。

それでも日光と秋風に晒せば、膨らんだ感情から水分が抜けて、多少はかさが減りました。まあ、そのまま断捨離できたら苦労しませんので、もう一度箱に戻して、熟成するのを待ちます。

猛毒である河豚の卵巣も、3年掛けて塩と糠で漬ければ、珍味、ふぐの子糠漬けに変わるのですから。


【追記】
とは言え、そんなに上手く運ばないのがこの世の常。ダメな時はお気に入りのZINEを読んで、ビールを呑み呑み過ごすのが良いかと思います。

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パンドラの箱、わずかでも好きなものが残っていれば、それが希望です。


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