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月光価千金(焼きリンゴ)|酒と肴 その四十四

ちょっと量を飲んだ夜、喉の渇きで目覚めるのは何故だかいつも丑三つ時。不思議なもので尿意は2回までスルーできますが、渇きはどうにも我慢が利きません。眠る家人を起こさぬよう、そっと布団から抜け出します。

しんとした真夜中の台所、冷蔵庫のドアから漏れる光に優しさを覚えます。人でも言葉でもなく、機械に心を温められる。それも冷やすことを目的とした装置にというのは、心の置き場が妙な具合いです。

さて肝心の渇いた喉ですが、光の中にポカリが浮かべば僥倖で、炭酸水が冷えていたら重畳、無ければ水道水もまた甘露といった塩梅。この日は蛇口の甘露と思ったところ、カットしたりんごが冷えていました。

ガラスの中、重なるりんご。ラップを剥がすと黄みがかったクリーム色に空気が触れ、暗闇の中に香りが立ち上るようです。いいもんですね、渇いた喉にたっぷりの汁気と爽やかな甘味。噛むごとに歯切れ良い音が広がり、口の中を果汁が満たします。普段、果物に食指が動かない性質ですが、シナノゴールドに関しては別指です。

人心地ついたところで、体に熱が籠っていたためリビングでひと休み。カーテンをずらし夜空を見上げます。傾きつつも煌々と輝く月が、先ほど食べたりんごを思わせ、またぞろ食べたくなりました。明日は焼きリンゴで一杯やることを誓い寝床に戻ります。

翌日、すっかり酔い醒めた午後に作ったのがこちら。

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カットしたシナノゴールドに砂糖をまぶし、バターで焼きました。食べる時はバニラアイスを添えてシナモンを振りかけます。出来たらすぐ食べたい派なので、残念ながら完成品の写真はありません。あらためて見ると厚みが不均等ですが、スキレット内で螺旋状に並べるとそれらしく・・・・・なりますね。

「長野のりんごには長野のお酒」と、信濃錦の冷やで頂きました。試飲した時に香りよりも味が先にきましたが、低精白とのことで味わいが強いそう。甘味と合わせてもがっぷり四つの味わい、美味しゅうございました。

ちなみにスキレットのお隣、一緒に写っているのはワークマンで購入した耐熱グローブ。持ち物を減らしていく暮らしの中で、数少ない買ったもの、買ってよかったものです。
ここ10年、鍋つかみは薄手のパペットみたいなやつでしたので、オーブンを使うたび「根性焼き」「火ぶくれ」という単語が脳裏に浮かび、実際にスティグマを残してきました。それがこいつのおかげで熱々のグラタン皿も鋳鉄のスキレットもへっちゃらです。

物を大切にするのもいいですが、自分の体も大事だと気付いた晩秋の夕暮れ。今年の冬はオーブンを活用して、満月のようなアップルパイにも挑戦しようと思います。

メニューと材料
・焼きリンゴ(シナノゴールド、砂糖、バター、バニラアイス、シナモン)




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