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天重による救済|日々の雑記#43

何でもない平日に会社を休むのが好きです。明るいうちからビールを飲んで過ごしていると、自分の心と体がぴたりと合う気がするのです。休むなら予定もなく遠出もしない、中途半端な火曜日あたりがいいですね。

この日は給料も出たばかり。昼メシは料理屋の天重を買ってきて、ラガーでやっつけます。
近頃はすぐに満腹になってしまいますが、大人の嗜みとして食後の甘味は欠かせません。見栄をはらず、ご飯は半分にしてもらいました。

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えび天が二本にピーマンと舞茸、かぼちゃと茄子でひと揃え。まずはえびを一本つまみにして、喉を湿らせます。

箸で持ち上げると、程よく柔らかになった衣からごま油とタレが香り、食欲を刺激します。えび料理が自慢の老舗、この段階で脳が「美味」と判断しました。
口に運べばすぐさま前歯に触れる弾力は、見た目と実際のサイズが一致している証拠。噛むほどにぷりぷりが行き交う口の中、賑やかさはイルミネーションにも負けていません。えびと衣、それぞれの旨味が混じりあい、堪能したところでGoTo胃袋。
この「喉から食道をつたい胃袋に着地する感覚」こそ、飲食の醍醐味。そこにラガーをぐいっとやって「ふうっ」と一息つけば、ほんの片時とは言え悩みを忘れられるのですから、人生の中で食事とお酒は全くもって大切です。(悩みが消える訳ではないですけどね)

続いてピーマンをひと口。子供ガキの時分は憎らしくもあったこの青物、人生の苦味を知ってか、おいしさを感じるようになりました。苦さと青臭さが混じり合った先にある旨味、これが大人になるということでしょう。

舞茸はなんとも肉厚。長らく不在だった舞茸界の男役トップに、天ぷらが就任しました。美味しさのあまり奉納の舞、産業用ロボットダンス*を捧げるレベル。ちなみに娘役トップはパスタです。
それにしても今時の中学生はダンスが必修科目ってご存知でしたか?そんな衆人環視で踊る技術よりも、まずはライブやクラブでのノリ方、もしくは自由に楽しめる雰囲気づくりが大事と思うのは、私のワガママでしょうか。

*本人は真剣に踊っていたが「工場のロボットみたい」と言われた故事にちなむ

『我が黒歴史』より

話が逸れましたが、このあたりからメシをかっこみます。

タレと油の染みたご飯は、そう、悪魔的。
優しいイメージのかぼちゃ天も、甘じょっぱいタレと油で覆われた米を従えることで眠っていた七つの大罪、暴食を呼び覚まします。
茄子の罪は色欲。カシミヤのコートの下、紫色のドレスを纏い、こちらに微笑みかける姿はサキュバスのよう。抗えず、熱で柔らかになった白い果肉に齧り付けば、舌に甘美な余韻を残し消えていきます。その残り香を惜しむようにメシを頬張り、嫉妬と強欲に溺れるのです。

とまあ、ひと通り妄想の海を漂いましたら、あとは心の赴くままに天ぷら、ビール、メシの三位一体を堪能します。

最後は少しばかり身を残しておいたえびの尻尾と、コップ半分ほどのビールをゆっくり味わいご馳走様。無為に過ぎる休日を祝福するみたく、ラッパを吹く天使がやってきて眠気を誘います。

天重とビール、税込1,200円で救われるリーズナブルな魂。こうしてまた働けるって訳です。

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