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ガバナンス・コード再改訂とサステナビリティ

現在、金融庁の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」にて、コーポレートガバナンス・コードの再改訂に向けた検討が進められています。
(本コードは2015年に制定、2018年に1回目の改訂)

3月31日、パブリックコメント前としては最後となる第26回フォローアップ会議が開催されました。本会議では、これまでの議論を踏まえて取りまとめられた本コードの改訂案が提示されました。今後、パブリックコメントを経て6月に公表される予定です。

今回の改訂は、東京証券取引所が2022年4月に予定している市場改革(現行の東証1部/東証2部/JASDAQ/マザーズからプライム/スタンダード/グロースの3区分に再編)とも関連しています。

プライム市場におけるガバナンスについては「より高い水準」(他の市場と比較して一段高いガバナンス水準)が求められており、プライム市場への上場を予定している企業では改訂後の本コードへの適切な対応が必須となります。

■ 改訂のポイント

今回の改訂のポイントは以下のとおりです。

① 取締役会の機能発揮
・社内外の取締役の有するスキル等の組み合わせをスキル・マトリックス等で開示
・独立社外取締役を3分の1以上(必要に応じ過半数)選任(プライム市場)
・構成員の過半数を独立社外取締役が占めることを基本とする指名委員会・報酬委員会の設置(プライム市場)

② 企業の中核人材における多様性の確保
・中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標の設定及び開示

③ サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)を巡る課題への取組み
・サステナビリティを巡る課題への対応は、リスク低減のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であると認識し、積極的・能動的に取り組む
・経営戦略の開示に当たり、サステナビリティについての取組み(人的資本や知的財産への投資等含む)を適切に開示
・気候変動関連では、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の枠組み等に基づく充実した質と量を開示(プライム市場)
・取締役会は、自社のサステナビリティを巡る取組みについて基本的な方針を策定し、経営資源の配分、事業ポートフォリオに関する戦略の実行について実効的な監督を行う

④ その他(グループガバナンスの在り方 、監査に対する信頼性の確保、株主総会等に関する事項など)

■ サステナビリティを巡る課題への取組み

今回の改訂で最も注目すべきなのは、やはり「サステナビリティを巡る課題への取組み」ではないでしょうか。

特に、補充原則2-3①において、サステナビリティを巡る課題への対応についての認識を「重要なリスク管理の一部」から「リスク低減のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題」へと拡張させた点が今回の改訂の最大のポイントの一つではないかと思います。

今回の改訂では、総じてコーポレートガバナンスにおけるサステナビリティの重要性に対する関係者(政府、企業、投資家等)の共通認識が、前回(2018年)の改訂時と比べて大幅に進展したと言えると思います。

この背景には、ESG投資の世界的な興隆、欧州グリーンディールを始めとする各国・地域のサステナビリティ関連政策(菅政権の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」含む)の策定など、特にここ数年で一気に加速したサステナビリティを巡るグローバルな潮流があることは間違いないと思います。

特筆されるべきは、気候変動に係る情報開示でしょう。

補充原則3-1③(新設)で以下のように明記されました。
「気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである。」

プライム市場上場会社対象とは言え、前回改訂時にはESG情報に関してここまでの具体的な開示が企業に求められることは到底考えられなかったのではないかと思います。

■ 本コード改訂の適用について

2022年4月より、東京証券取引所において新市場区分の適用が開始となります。

上場会社は、遅くとも本年12月までに、本コードの改訂に沿ってコーポレ ートガバナンス報告書の提出を行うことが望まれます。

プライム市場上場会社のみに適用される原則等に関しては、準備期間等も鑑み、2022年4月以降に開催される各社の株主総会の終了後速やかにこれらの原則等に関する事項について記載した同報告書を提出することが求められることになりそうです。

日本経済の再興に向けて、安倍前政権の1丁目1番地としてスタートしたコーポレートガバナンス改革も大きな山場を迎えています。

日本企業は、持続的な成長と中長期の企業価値向上に向けて、今回改訂されるコーポレートガバナンス・コードを礎とするサステナビリティ経営への戦略的かつ実効的な取り組みが期待されます。


【参考】サステナビリティ関連事項の改訂案

今回の改訂案での主なサステナビリティ関連事項(ダイバーシティ含む)の記載は以下のとおりです。

第2章 株主以外のステークホルダーとの適切な協働

考え方(追加・修正)
「持続可能な開発目標」(SDGs)が国連サミットで採択され、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への賛同機関数が増加するなど、中長期的な 企業価値の向上に向け、サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)が重要な経営課題であるとの意識が高まっている。こうした中、我が国企業においては、サステナビリティ課題への積極的・能動的な対応を一層進めていくことが重要である。

【原則2-3.社会・環境問題をはじめとするサステナビリティーを巡る課題】
補充原則2-3①(追加・修正)
取締役会は、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、取引先との公正・適正な取引、自然災害等への危機管理など、サステナビリティを巡る課題への対応は、リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であると認識し、中長期的な企業価値の向上の観点から、これらの課題に積極的・能動的に取り組むよう検討を深めるべきである。

【原則2-4.女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保】
補充原則2-4①(新設)
上場会社は、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況を開示すべきである。
また、中長期的な企業価値の向上に向けた人材戦略の重要性に鑑み、多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示すべきである。

第3章 適切な情報開示と透明性の確保
【原則3-1.情報開示の充実】
補充原則3-1③(新設)
上場会社は、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべきである。また、人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである。
特に、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行 い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである。

第4章 取締役会等の責務
【原則4-2.取締役会の役割・責務(2)】
補充原則4-2②(新設) 
取締役会は、中長期的な企業価値の向上の観点から、自社のサステナビリティを巡る取組みについて基本的な方針を策定すべきである。
また、人的資本・知的財産への投資等の重要性に鑑み、これらをはじめとする経営資源の配分や、事業ポートフォリオに関する戦略の実行が、企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行うべきである。




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