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長期ビジョンを基軸とするオムロンの経営

先行き不透明で不確実性の高いVUCAの時代、企業は自社の価値観(企業理念、存在意義)を起点に、自社として実現したい未来の社会像や会社の姿を描き、その実現に向けて主体的にトランスフォームしていくことが求められています。そのような経営の羅針盤として長期ビジョンの重要性が高まっています。

長期ビジョンとは

現在経産省で検討中の「価値共創ガイダンス2.0」によると、長期ビジョンとは「特定の長期の期間においてどのように社会に価値を提供し、長期的かつ持続的に企業価値を向上していくかという目指す姿」です。

企業は、自社の価値観及び重要課題(リスクと同時に成長機会にもなり得る重要な社会課題)も踏まえながら、長期的かつ持続的な価値創造に向けてのビジネスモデルの構築・変革の方針や、そのようなビジネスモデルを実現するための事業ポー トフォリオ方針などを示すことが望まれています。

オムロンの長期ビジョン経営

3月1日、オムロン株式会社(以下オムロン)は、2030年度に向けた長期ビジョン「Shaping the Future 2030(SF2030)」及び2022年度から3年間の中期経営計画「SF 1st Stage」を公表し、投資家・報道陣向け説明会を3月9日にオンラインで開催しました。

オムロンは、1933年の創業以来、企業理念を原動力に事業を通じて社会課題を解決し、よりよい社会づくりに貢献してきました。社会課題をいち早く捉え、ソーシャルニーズを創造することで事業を構築し、成長してきました。

オムロンは、1991年に1回目の長期ビジョンを策定以降、10年毎に策定を行ってきました。2011年度には3回目となる長期ビジョン「Value Generation 2020(VG2020)」 を策定し、財務価値と非財務価値の向上に継続的に取り組んできました。

その結果、2011年度から2021年度にかけて時価総額が約4倍(0.4兆円→1.6兆円)に伸長すると共に、温室効果ガス排出量削減、バリューチェーンにおける人権尊重、健康経営の推進など様々なサステナビリティへの取り組みをとおして世界の代表的なESG投資指標であるDJSI(Dow Jones Sustainability Index)のWorld Indexの構成銘柄に5年連続で選定されるなど、社外からグローバルトップクラスの高い評価を得ています。

長期ビジョン「SF2030」の策定

4回目となる今回の長期ビジョン「SF2030」のステートメントは「人が活きるオートメーションで、ソーシャルニーズを創造し続ける」です。

「SF2030」の策定にあたり、オムロンは過去の歴史を振り返りつつ、自社の存在意義を改めて問い直しました。その上で、2030年に向けた社会・経済システムの潮流の変化(メガトレンド)を捉えつつ、同社が取り組むべき重要課題を「カーボンニュートラルの実現」「デジタル化社会の実現」「健康寿命の延伸」の3つに設定しました。

これらは社会インパクトが大きく、自社の強み(オートメーション及び顧客・事業資産など)を活かす観点から定めたものです。

オムロンは、重要課題を踏まえた長期的な企業価値向上に向けて、4つの事業領域(ドメイン)を設定し、それぞれの領域で独自の社会価値の創出(例えば、インダストリアルオートメーションでは 「持続可能な社会を支えるモノづくりの高度化への貢献」)を目指そうとしています。

また、これらの価値創出に向けて新たなビジネスモデル(モノだけでなく様々なサービスを組み合わせたソリュー ションを継続的に提供するリカーリング型)への転換及びその基盤となるデータプラットフォームの構築なども進めようとしています。

オムロンの長期ビジョン策定のアプローチは進化を続けています。

従来は、現在の延長で将来の姿を展望するフォアキャスティングが中心でしたが、それに加えて、将来のあるべき社会の姿や自社のポジショニングなどを想定し、そこに至る道筋を導き出すバックキャスティングアプローチも活用されています。

また、取締役会の2021年度重点テーマ(の1つ)として「次期長期ビジョンの完成と中期経営計画の決定」が設定されています。 取締役会から執行側に対し「サステナビリティ重要課題の取り組み」「ビジネスモデルの変革、イノベーションの加速 」など5つの監督する観点が示されるなど、長期ビジョン策定における取締役会の積極的な関与が窺われます。

長期ビジョンは混迷の時代における経営の羅針盤

このようにオムロンでは、自社の企業理念に基づき、社会・経済システムの潮流の変化(メガトレンド)を捉えつつ、社会インパクトが大きく、自社の強みを活かせる社会課題を成長機会として設定し、事業領域(ドメイン)毎に独自の社会価値の創出に取り組むことにより、長期ビジョンを実現し、持続的な企業価値の向上を目指そうとしています。

世界的なコロナ禍や逼迫するウクライナ情勢など混迷が続く現代社会において、企業が持続的な価値創造を目指すためには、不確実性を所与の条件として受け入れた上で、自社の価値観に基づく確固とした経営の羅針盤が必要であり、長期ビジョンを基軸とする経営の重要性が益々高まっています。

オムロンの取り組みなども参考にしながら多くの日本企業が長期ビジョンの策定に取り組むことが期待されます。

長期ビジョンの策定では、策定体制も重要になります。

オムロンのように現在の経営リーダーが中心となり検討を進める体制もありますが、次世代の経営リーダー候補(変革の旗手となり得る若手社員など)を中心に社内外の幅広いステークホルダーとのオープンな議論などを通して検討を進めていく体制もあります。

この場合は、所属部門との調整を始めトップダウンでの強力なサポートが必要になりますが、次世代の経営人材育成にも繋がり、人的資本経営の観点からもメリットが大きいと思われます。

最後になりますが、オムロンの経営の強みは、企業理念を踏まえた長期ビジョン経営の実践と資本効率を意識した稼ぐ力の持続的な発揮を目指すROIC(Return On Invested Capital:投下資本利益率)経営の実践を両立している点にあると言えます。

今回はオムロンの長期ビジョン経営に焦点を当てましたが、ROIC経営についても機会があれば取り上げたいと思います。


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