ハラスメントトレーニング vol.6:部下から”ハラスメントですよ”と指摘された場合

1. はじめに

マネージャーとして部下を指導する際、指導とハラスメントの線引きは極めて重要です。適切な指導は部下の成長を促し、職場全体の生産性を向上させる一方で、誤った対応はハラスメントとみなされ、信頼関係の損失や法的問題に発展する可能性があります。この研修では、正しい指導を行ったにもかかわらず、部下から”ハラスメントですよ”と指摘を受けた場合に、どのように対応していくべきかを学びます

事例

”あなたはマネージャーです。ある部下の業務遂行やコミュニケーションに問題があると感じ、その部下に対して個別に指導を行いました。その際、部下から「ハラスメントにあたる」と指摘されました。”


このような状況は多くのマネージャーにとって悩ましいものです。この事例を基に、どのように対応すべきかを考えていきます。

3. ハラスメントに該当しうる対応

指導内容自体に問題がなくても、マネージャーのリアクションが適切でない場合、ハラスメントに該当する可能性があります。以下は、ハラスメントに該当しやすい典型的な対応です。

(1) 感情的になり、強い言葉で反論する

例:「君はまったく理解できていない」「頭が悪いからそんなことを言うんだ」などの発言は、指導の目的を損ない、ハラスメントとみなされる可能性があります。感情的になることで、マネージャーとしての信頼性が損なわれ、相手が会話を録音している場合、後々大きな問題に発展する可能性があります。指導中は冷静さを保ち、客観的に対応することが求められます。

(2) 部下の意見に口ごもる

部下からの反論に対して、言い淀んだり沈黙することは、自分が非を認めているように見えてしまいます。もし指導が誤解され、部下から指摘された場合は、誤りがあれば率直に謝罪し、合理的な説明を行うべきです。不合理な言い訳をすることは信頼を失う原因となります。

(3) 部下の意見を否定する

例:「君の意見を聞く場ではない」という発言は、部下の意見を尊重しない姿勢を示すことになります。企業文化やポリシーによっては、こうした態度が不適切とされる場合があり、コミュニケーションの尊重が欠けているとみなされることもあります。特に、部下がハラスメントと感じたことに対しては、感情的にならず、その意見に耳を傾ける姿勢が重要です。

4. あるべき対応

次に、部下からのハラスメントの指摘に対して、どのように対応するべきかについて説明します。

(1) 部下が「ハラスメントと感じた」ことを尊重する

部下がハラスメントを感じたこと自体は、尊重されるべきです。部下がその感情を表現することは、マネージャーにとって有益なフィードバックです。まずは、部下の意見に真摯に耳を傾け、「ハラスメントと感じさせてしまったことは申し訳ない」と伝え、次に進むべきです。
謝罪の言葉を述べる必要もないという意見もあります。ただ、録音されていることを考慮すると、ここで謝罪の言葉を述べることによって、部下との会話を聞く第三者(弁護士や裁判官)にあなたの良い印象を与えることができます。

(2) 真意を説明する

指導が誤解されている場合は、もう一度説明の機会を持ち、なぜそのような指導を行ったのか、何を改善してほしいのかを冷静に伝えます。相手が指導内容をハラスメントと感じる背景には、双方の認識にギャップがあることが多いため、そのギャップを埋めるために丁寧に説明することが大切です。なお、相手が納得しなかったとしても、それが即座にパワーハラスメントになるわけではありません。

(3) 記録を残す

指導の際、指導内容やその際の言葉を後で部下にメールで確認してもらうことが重要です。これにより、指導が適切であったことを証拠として残すことができます。もし自分でメールに残せないような内容であれば、それは不適切な指導だった可能性があり、ハラスメントの疑いを持たれても仕方ないでしょう。

5. 実践的な対応策

マネージャーは日々、部下の成長とチームの成果を目指して指導を行いますが、その過程で生じるコミュニケーションは慎重でなければなりません。以下は、日常的に取り入れるべき実践的な対応策です。

  • 冷静なコミュニケーション:感情的にならず、客観的かつ建設的なフィードバックを行いましょう。

  • 明確な目的の提示:なぜその指導が必要なのか、何を改善すべきかを明確に伝えることが大切です。

  • 部下の意見を尊重:部下が意見や感情を表現する機会を奪わないようにし、対話を促進しましょう。

  • フィードバックの記録:指導内容は可能な限り記録に残し、後々の誤解を防ぐ手段とすることが重要です。

6. まとめ

マネージャーとしての指導は、業務上の成果やチームの成長において不可欠な要素ですが、その指導方法やコミュニケーションの質によっては、ハラスメントと受け取られるリスクが伴います。適切な対応を心がけ、部下の意見を尊重しつつ、冷静で明確な指導を行うことが、健全な職場環境を保つために重要です。

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