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re start

地元に飽きた彼は上京していた友達に影響されて、東京に行きたいと言い出した。小さいころのお年玉を父親がためてくれていて、あたしには少し貯金があることを知っていた。家を出てあまり話をしていなかった父親に、上京するためにそのお金を渡してほしいと相談した。

そのお金はあたしが嫁ぐときに渡そうと思っていると言われた。

彼にそう話すととりあえず出て、なんか探そって。

あたしが乗ってた小さな車で、とりあえず東へむかって出た。
彼の借金を返すために夜働いていた分の少しのお金しか持たず、無職の21歳ふたり。高速道路で車中泊。

眩しいことに気づいて車中泊するために必要なものを買ったり、お風呂に入りに銭湯寄ってみたり、2週間ぐらいか。
不思議とその間彼はあたしに暴力も振るわず楽しそうだった。

でも、行く当てもなく、お金はつきる。

「どうするんだよ!」

そう言われてもあたしには意志などなかった。言われるがままついてきた。そのころのあたしは何をどうしたいという気持ちをもはや生産できる心も脳ももちあわせていなかった。
彼が機嫌がいいことだけが少しあたしの気分を良くすることだった。
機嫌をとるというわけでもなく、ただただ天気を感じるように。
晴れでも雨でも曇りでも嵐でも外れても逆らわず、彼を感じているだけだった。

どうにかしろと言うから、あたしはまた父に電話して、あのお金をやっぱり今すぐくれないか、相談した。相談というか、もう絶対にもらうまでひかないやつ。

父はあたしにお金を振り込んだ。

家を借りてしばらく生活できるぐらいはあった。
保証人不要の分譲賃貸マンションを神奈川県に借りた。

あたしはこっちに知り合いは一人もいなかったが、大学を出た姉が、神奈川県に住んでいたので時々会った。
彼は友達がいて、友達が働いていた派遣会社に一緒にいきはじめた。

あまり家には帰って来なかった。でも特に何も気にならず、あたしはあたしの生活をしていた。
1ヶ月ほどたったころから、家に帰ってくる日が多くなった。
機嫌が悪い。フルスイングであたしのこめかみの辺をかすった拳は壁に激突したあと、あたしの髪の毛をつかむ。

ぶちぶちぶち

あたしの長い髪が抜ける音がする。

やめてほしいなんて思わなかった。

痛みさえもわからない。悲しい気持ちも、何も感じなかった

またお金を借りていたのはわかっていて、何も言わないから黙っていた。
ある日パタっとかえってこなくなって、数日後に何かのお話に出てきそうなあからさまに強面の人が来て、「彼氏さん飛んじゃったんで、お金返してもらえますか~?」と言ってきた

利息は10日で3割。すでに払わず利息がついていた金額は600万。

結婚もしていない私が返す義理などないのはわかっていた。暴力的な利息なこともわかっていた。でも、私は人生を変える決意をした。

自分とお金は裏切らない。

そうとも思ったのかもしれない。その場でハンコを押して返済することにした。稼げなくなったらいつでも言ってくれと言われた。

それから数年歯を食いしばり、血がでるほど唇を噛みしめ、一滴も涙をこぼさず一日20時間を労働にあてた。

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