見出し画像

「すばらしき世界」

ふんわり情報

2021年公開、西川美和監督、主演役所広司

実在の人物を描いた直木賞作家、佐木隆三の小説『身分帳』を原案とした人間ドラマ。人生の大半を刑務所で過ごした元殺人犯の男と、彼の更生をテレビ番組にしようとするマスメディアの姿を描く。『永い言い訳』以来5年ぶりに監督を務めた西川美和が、主演の役所広司と初タッグを組んだ。仲野太賀、長澤まさみ、橋爪功ら実力派俳優が脇を固める。

感想

オダギリジョー目当てで見た「ゆれる」(2006年)以降すっかり西川美和監督のファンです。

そんな西川監督5年ぶりの本作、映画館で見ようと思ったら、なんと2月13日の地震で映画館が休館に…コロナ禍も相まって、このまま潰れたりしないよね?とハラハラしていたらいつの間にかしれっと再開していたし、1日1回となりつつも未だこの「すばらしき世界」を上映してくれていたのでなんとか滑り込み鑑賞!

というか映画館で見たの、去年10月のTENET以来だった…もう少し行かないとだめね、映画館が潰れちゃったら困るもん…

さて内容はというと、西川監督作品毎度のことながら胸を締め付けられるストーリー。なんなんでしょう、体中に広がるこの複雑な感情は。単純にひとつではない、たくさんの感情が絡まり合い、この身から溢れ出てしまいそうなのに、それをうまく言語化できない己の不甲斐なさを呪う126分間だった。

「万引き家族」を見た時も思ったけど、日本という社会で「普通」と思われているレールを一度踏み外してしまうと容易に戻ることはできないし、そしてそういった落伍者は透明人間かのごとく、「普通」の人々の生活からは見過ごされていく。

「自分とは違う」と感じたものにはそもそも関知しないのだ。不寛容な世の中である。

いつ自分が「そっち側」に堕ちてしまう可能性があるのかを考えながら生活している人は一体どれくらいいるのだろう?

主人公の三上は、家庭に恵まれなかった。生まれた瞬間から「普通」から外れてしまったのだ。この映画を見るつい前日に、たまたま家庭環境に恵まれず現在も、そして今後も大変であろう子どもの話をしていたので非常にタイムリーで、三上とその子が重なって見えるところもあった。どうか三上のようにヤクザにならないでほしいけど。

そして私は大学生の頃、子どもと遊ぶボランティアサークルに所属していて、三上が育ったような児童養護施設に行き、そこの子どもたちと交流していたので、三上と津乃田が施設を訪れるシーンでは自分の体験を思い出してしまった。

私がボランティアに行っていた頃、まだ幼児だった子たちももう大人と言われる年齢になっているはず。一体今はどうしているのだろうか、幸せに生きていてほしいけどそれを知る術はない。

泣いた。役所広司の三上も、仲野太賀の津乃田もまさに熱演だった。

なんて生きにくい世の中なんだろう。なんでこうなっちゃったんだろう。三上は愛情に飢えて、自分を認めてほしくて流れ着いた先が極道の世界だった。50代を過ぎて今更カタギの世界で一から生きていくのがどれだけ難しいことか。

不器用でありながらも、三上が社会に馴染もうともがく様に息苦しさとともにどこか優しさを感じるのは、三上を取り巻く人々がなんとか彼に真っ当に生きてほしいと手助けしているからなんだろうな。

人は一人では生きられない。三上を苦しめたのも人だけど、三上を救うのもまた人なのだ。

こんな大きな矛盾の中で生きないといけないなんて、そりゃあ「すばらしき世界」としか言えなくなるよ。

まとめ

人生って言うのは捨てたもんじゃない、幸せとは見出すもの。だから事切れる瞬間まで生きてみようぜ。ってことですか西川監督?

なんと残酷で美しいものよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?