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note#1 人を想える幸せ

初めまして、まめもちです。小説と音楽とおもちが好きです。

今日は、好きな小説について書こうと思います。
住野よるさん『また、同じ夢を見ていた』です。
数ページ立ち読みをして、"です。ます。"調の主人公のモノローグとセリフの憎たらしさがクセになり、家へ帰ってじっくりと読みました。



〇あらすじ


主人公の小学生、小柳奈ノ花には3人の友達がいます。
学校が終わった後、すぐにその3人に会うのが彼女の日常です。

家を出ると最初に1人目の小さな友達(猫)と落ち合います。
雨が降る日、けがをしてうずくまっていた時、奈ノ花と出会い助けられました。今では彼女の相棒として、一緒に2人の友達のもとヘ遊びに行きます。最初は、2人目の友達のアバズレさんの住むアパートへ行きます。
アバズレさんと奈ノ花は、小さな友達と出会った雨の日に出会いました。  

奈ノ花が彼女を抱きかかえて近くにあったアパートへ助けを求めに行き、アバズレさんが手当てをしてくれました。それから奈ノ花と友達になります。奈ノ花はアバズレさんの家に行くと、学校であったことを話したり、ヤクルトをもらったり、オセロをしたりと、優しくて大人なアバズレさんとの時間を楽しみます。


それから丘の先にある木のおうち、3人目の友達のおばあちゃんのもとヘ行きます。おばあちゃんはおいしいお菓子を焼いてくれたり、奈ノ花のお話を聞いてくれたりします。

そんな日常の中、学校で「幸せ」について考える授業が始まります。

奈ノ花はアバズレさんやおばあちゃんとお話をしながら、日々幸せのことを考えるようになります。

ある日、いつものように遊びに外へ出ると、2人とも家を留守にしていたので、今まで行ったことのない道を歩いていきます。その先で、四角い建物を見つけます。
恐る恐る中を探検していくと、屋上へ辿り着きます。

すると、制服を着た若い女の人、
のちに4人目の友達になる南さんと出会います。

奈ノ花は、アバズレさん、おばあちゃん、そして南さんの3人と「幸せ」とは何かの答えを探しながら、日々の中起こる様々な出来事に向き合っていきます。


お守りとしていつも持ち歩いているほど大好きな作品なので、たくさん書きたいことがあるのですが、ここでは「奈ノ花と3人の友達のお別れの日」と、「3人の友達の正体」に焦点を当てて、私が思ったことを書こうと思います。


〇奈ノ花と3人の友達のお別れの日


1)奈ノ花と南さん

 南さんの後悔は、南さんのセリフにある通りです。

「後悔、してる。ずっと、後悔、してるんだ。あの時、なんで謝れなかったのかって。もう、喧嘩出来なくなった。怒ってもらうことも出来なくなった。夜ご飯も一緒に、食べられなく、なった」

住野よる『また、同じ夢を見ていた』103ページ


どれだけ自分を責めても寂しいと思っても、時間を巻き戻すことはできない。そのやるせない気持ちが心の中をぐるぐる巡って、奈ノ花と初めて出会ったときにしていたような自分を傷つける行為を繰り返してしまっていたんだと思います。
 
でも奈ノ花がやって来て、本の話や幸せの話、そして両親の話をしてきて、奈ノ花と過ごす最後の日に南さんは「幸せとは、自分がここにいていいって認められることだ」と、幸せの答えを見つけます。
 
後悔がつきまとい、自分で自分のことを認めることができなかったうえ、周りにも認めてくれる人がいなかった。
そんな時に奈ノ花と出会って、彼女の素直でまっすぐな言葉が、負の感情で絡まっていた心を解きほぐしてくれて、自分は特別な存在だと確かめることができたのではないかと思いました。

奈ノ花と南さんのやり取りで、南さんが「いいか、人生とは、自分で書いた物語だ」「推敲と添削、自分次第で、ハッピーエンドに書きかえられる」と言ったことに対して、奈ノ花が「南さんも、書き直して」と返す場面が、とても好きです。

 
奈ノ花と南さんは年齢の近さからなのか、特に距離感が近いような気がしました。南さんから奈ノ花に気付きを与えているというよりかは、2人が互いに大切なことを教えあっているという印象が、アバズレさんやおばあちゃんとのやり取りよりも強いと感じました。やっぱり年齢の近さが大きいのかもしれないです。


2)奈ノ花とアバズレさん
アバズレさんの後悔は、「桐生くんが不登校になって何もできなかったこと」なのではないかなと思い思います。
桐生くんのことが引き金になっていることはわかりますが、南さんほどはっきりと後悔を言葉にしていないので、考えるのが難しかったです。
”何もできなかった”は”桐生くんの気持ちを考えられなかった”にも言い換えられるかもしれないです。
 
奈ノ花はアバズレさんに出会っているから、アドバイスをもらって桐生くんの家へひとみ先生に代わってプリントを届けに行くけれど、アバズレさんは誰にもアドバイスをもらっていなかったから、教室で桐生くんと喧嘩したまま、桐生くんに何もしてあげられずに1人になったのではないかと思うのですが。
奈ノ花と出会って見つけたアバズレさんの幸せが「誰かのことを真剣に考えられるということ」です。

誰かと心を通わせることが大人になってできるようになった、けれど一人で生きてきたから、周りにはその”誰か”がいなかった。
でも奈ノ花がその”誰か”になってくれたことで、アバズレさんは人と関わる喜び、心を通わせる喜びを知ることが出来たんだなと思いました。

アバズレさんの後悔と幸せはリンクしているような気がするので、「誰かのことを真剣に考えられる」という幸せを得るチャンスを失ってしまったことが後悔、と取ることもできるのかなと思いました。


奈ノ花とアバズレさんのやり取りで、アバズレさんが自分の話を「ある女の子の話」として奈ノ花にします。
その中で、「作ってきた自分の人生を壊す」という話が出てきて、少し南さんとアバズレさんが重なりました。
傷付いたり、途方に暮れたりすると、他人ではなくて自分を壊そう、傷付けようとしてしまうところで、2人の優しさを表しているのかなと少し思いました。
奈ノ花が2人について「嫌な臭いがしない」と言っているのは、そういった部分を感じ取っているからなのかなと思いました。
(必ずしも自分を傷付けること=優しさ、になるという訳ではありませんが…。)


3)奈ノ花とおばあちゃん

おばあちゃんの後悔は、「幸せの答えが見つからなかったこと」なのではないかなと思いました。

正直おばあちゃんに後悔があるのかどうかわからなかったです。
自ら言っているように、おばあちゃんは大切な人を失うこともなく、人との関わりを大事にしながら幸せな人生を送ることが出来たから、やり直したいことはないんじゃないかなと感じていました。

でも奈ノ花の前に現れたということは、何か奈ノ花に伝えたいこと、変えたいことがあったのではないか。
挙げるとするなら、「幸せの答え」かなと考えました。

南さんとアバズレさんとの場面では、お別れの日が奈ノ花の人生を左右する大きな分岐点だという印象を持ったので、おばあちゃんにも当てはめると、おばあちゃんとのお別れの日が幸せについての発表をする授業の日の前日だったことからそう思ったのですが…。

おばあちゃんは年を取って、いろいろな時間を経て幸せを見つけることができたけれど、子供のころにはその答えを出すことができなかったから、奈ノ花に自分なりの幸せの答えを見つけてほしいという思いで、おばあちゃんは奈ノ花に会いに来たのではないかなと思いました。


〇3人の正体

ここまで書いてきて、すでに奈ノ花と3人の友達を混同させてしまっているのですが、改めて、3人の正体について推測をすると、
3人の友達である南さん、アバズレさん、おばあちゃん=小柳奈ノ花といえると思います。

でも3人は同一人物ではないと思っています。3人とも送ってきた人生は違っているからです。
その違いのポイントが「後悔」です。それぞれの後悔が人生を変える分岐点になっていて、その分岐点で小学生の奈ノ花と出会っている。


こう考えていると、ちょっと『ドラえもん』を思い出しました。
ドラえもんとセワシが未来からのび太のところへやって来て、”しずかちゃんと結婚して幸せになる”世界線になるよう助けに来てくれる、未来ののび太が可視化され、「今のままじゃジャイ子と結婚することになっちゃう!?」と、のび太とドラえもんの不思議で楽しい日常が始まっていく、という『ドラえもん』の重大な”未来を変える”というテーマが『また、同じ夢を見ていた』に自分の中で重なりました。

奈ノ花をのび太とするなら、南さん、アバズレさん、おばあちゃんはのび太であり、ドラえもんでもあるかなと思いました。


☆夢の話 or 現実の話
物語を最後まで読んで、モヤモヤしたことが1つあり、奈ノ花とおばあちゃんたちは夢の中で出会っていたのか、それとも現実で出会っていたのか、ということです。

"夢の話”説の根拠となるのは、南さんからもらったハンカチがなくなったり、南さんの書いたお話の内容を忘れてしまったり、あとは、アバズレさんが住んでいるはずの部屋に知らないお兄さんが住んでいたり、おばあちゃんの家と小さい友達が消えたり、といった、不思議なことが奈ノ花に起こったことだと言えます。

でも、4人のことを忘れないで覚えていることや、4人が消えてから一度も会えていないことからすると、夢の中の出来事ではないんじゃないかなと思ったりします。夢であれば、夢の話は忘れてしまうだろうし、何度も出会えるはずだからです。
だから、私は現実で起こった話と考えようと思います。
加えて、奈ノ花に起こった不思議なことは、奈ノ花の未来が変わった、あるいは変わろうとしているサインで、これも現実で起こったことだと結論付けようと思います。

〇全体の感想


とても優しいお話でした…!
最初は、奈ノ花のことをあまり好きになれなかったのですが、まっすぐな揺るがない正しさを貫こうとする芯の強さに、人を想うことができる優しさが添えられようとする奈ノ花の姿の変化を追いかけるうちに好きになっていきました。

奈ノ花たちは自分や人のことを想い、幸せを見つけていきますが、読者の方も登場人物の幸せを願って優しい気持ちになれると思います。そのくらい1人1人が愛しく感じる、素敵な物語でした。


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