制約と創造性 (またはキューバ・アレイトレーベルの先鋭的音源のラフ・ガイド)
キューバ革命は1959年に起こった。
そしてその後のキューバの一部の音楽家が残した先鋭的かつ珍妙な音は
「制約と創造性」について考えるのに面白い題材では無いかと思う。
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アメリカの裏庭と呼ばれたカリブ海に社会主義国が誕生した。
1959年のキューバ革命によってである。
革命前のキューバはアメリカとの関係が強く、軍事的、経済的に結びつきが強かった。
またお金持ちのアメリカ人の避暑地となっていたようで娯楽産業(ショウビズ)なども盛んだったようである。
そんな状況から革命による政治体制変更のため突如として遮断・隔離されてしまった場所。
革命後に教育は重視され、高度な教育を受けたミュージシャンは多くいた。
しかしアメリカとの断絶により入ってくる情報が極端に少ない。
(地理的にフロリダ半島のラジオなどが受信できたようであるが)
高度な音楽知識と技量を持ちながら同時代最新の情報に渇望をしている…
そんな特異な環境にあったキューバは「ポップ音楽の実験室」とも呼べるような状態だったのではないかと。
(小松左京「物体O」の状況が発生したときの文化の進化ってこんな感じになるんじゃ?とも思わせる)
下で紹介するいくつかの音源を始めて聞いたとき
「物凄い成長力を持つ植物にガラスケースを被せ、水と肥料と日光をガンガンに与えて育てる、出口無き場所にて窮屈に歪み奇形化していった植物たち」
なんて事を考えてしまった。
【1】Juan Formell y los Van Van Hasta la semana que viene(1974)
キューバの国民的バンド、ロス・バンバンの3rd。
濃厚なアフロ色+締まったソリッドな音でどこの国の音楽だか分からない出自不明のグルーヴ。
この手の音が無いかと南米やアフリカの音源を色々掘ったが比肩しうる音はなかった。
(アフリカは緩いグルーヴのものが多かった)
パーカッションのチャンギートがドラムセットをつかい人力ドラムンベースのような高速細分リズムを刻んでいる。
(通常のラテンの楽団にはドラムセットはいない)
1994年に小説家の村上龍によって日本でCD化された。
【2】Juan Pablo Torres y Algo Nuevo - Y Que Bien(1977)
トロンボーン奏者、ファン・パブロ・トーレスの初期の代表作。
ジャケットからして謎だが音の方も相当に変わっている。
エレキギター、アナログシンセ、ホーンズで奏でられる特異なラテンファンク。
音のスカスカ具合が現代的に感じたりする。
Super Sonとは彼オリジナルの新リズムらしい
(何が特徴なのか分からん)
【3】Irakere - Full Concert - 03/23/79 - Capitol Theatre (OFFICIAL)
おそらく当時キューバ国外に唯一知られていたであろうバンド、イラケレ。
(Newport Jazz Festival + Montreux Jazz Festivalのライブ盤がアメリカのColumbiaからも発売されている)
チューチョ・バルデス、パキート・デ・リヴェラ、アルトゥーロ・サンドバル…等々の超絶技巧の猛者を擁したオールスター・バンド。
サンテリアの打楽器を使うアフロ性に現代的な電子楽器を組み合わせ超絶技巧でぶん殴ってくる。
国外での盛んにライブをしていたのは国自体のプロモーションとしてという事もあったんじゃないかと。
【4】Los Reyes 73 - Adeoey(1975)
イラケレのようなジャズファンクを志向したロス・レジェス73のファーストアルバムからの一曲。
地獄からひびいてくるようなアフロ・ジャズ・ファンク。
【5】Grupo de Experimentación Sonora del ICAIC - Canción con Todos(1974)
ICAIC音響実験楽団。
ICAICとはキューバ映画芸術産業研究所の事で、映画の音楽つける為に結成されたユニット。ゆえに伝統音楽~実験音楽~ロック~ジャズと多彩な音を残している。
ジャズピアニストのエミリアーノ・サルバドールやベーシストのエドゥアルド・ラモス、シンガーソングライターとして有名なシルビオ・ロドリゲスなど多彩な顔ぶれが参加。
この曲は変拍子フォルクローレオルガンジャズともいえるようなこのグループの残した作品のなかでも白眉の出来。
【6】Expreso Rítmico - Ricardo Eddy Martínez(1978)
ケッタイな音の多いアレイトレーベルの中でも人気の高いキューバンディスコの一枚。
同時代の音源が当地に豊富に入っていたらこうゆう"間違った"音は絶対に生まれなかったろうなとおもわせる、パラレルワールドのディスコ曲。
【7】Bobby Carcasses - El Blues Son (1989)
ピアノも弾き、トランペットも吹き、歌も歌うマルチプレイヤーのボビー・カルカセス。
陽気で高速。レコードの回転数間違えてんじゃないか位に高速。
後半に行くにつれてテンションがじわじわ上がってゆく。
こういった陽気で超高速なのって他の国のラテンモノには無い気がする。
(キューバでもないか。この人だけか)
【8】Grupo Los Yoyi - Paco La Calle [Cuba, Latin Psychedelic Funk] (1977)
おそらく今アレイトレーベルの中で一番引き合いがあるであろう一枚かと。
その昔日本でも別ジャケットでCD化されたが、そのライナーでもよく正体が分からないと書いてあった記憶がある。
ジャケットの宇宙気持ち悪い感じのイラストは多分上のボビー・カルカセスかと。
(こんな絵を描いているのを何かの本でみた)
スペイシーさとイナタいC級ディスコが抱き合って成功しているレーベル屈指の奇盤。
【9】Juan Blanco – Cirkus Toccata(1986)
ポピュラー音楽ではなく現代音楽や前衛音楽の人だと思うのだが、
ラテンパーカッションとアナログシンセ的な音を組み合わせた珍盤。
YAMAHAのDX7の発売が1983年であることを考えても、この年代ならもうデジタルシンセの時代だろう…
ということを華麗に裏切るキューバ86年盤。
この時代にこの音色をだしているのがなんともキューバ的というか…
ただ、トラックとしては似たような音の初期電子音モノと比べてもカッコいい。
近年この人発掘&再発がされているようです。
(モノズキがいるんだねぇ…)
おそらく同時代的な流行の情報や機材の流入があったら生み出されなかったであろう、特異としか言いようのない音楽。
現在では70年代~80年代のキューバンジャズ/キューバンファンク/キューバンディスコというラベリングで知られるようになってきたが、初めてこれらの異形グルーヴを耳にしたときに「何だこれは?」という衝撃と疑問符で頭が埋め尽くされた。
現在は情報がリアルタイムで行き来し過去情報のアーカイブ化も相当に整備されている。
大変便利である。
が、便利が新しいものを生み出すのだろうか?
不備、不足、妄想、誤解…
こういったマイナス要素こそ実は人間の創造性を発火させるものではないかと、上のような珍妙な音を聞きながら考えていたりする。
次の革新的な音は、
「ネット回線もWi-Fiも無い、絶海の孤島で、レッド・ツェッペリンのLP1枚を延々聞き続けたギターキッズ」
みたいな奴が作り出すんじゃないか、と。
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