卵巣がんお気楽備忘録(3)ついに腹をさばかれる日が!!
2021年11月。
入院3日目、ついに手術日を迎えた。
天気も良く、オペ日和の朝である。
しかし、自分でも驚くくらいぐっすり眠り、驚くくらいスッキリと目覚め、「その日」が来たというのに不思議なくらい落ち着いた朝を迎えていた。
私は「子どもオバサン」なので、人生を達観するほどの経験値もないのだが、この落ち着きは何なんだろうか。単に鈍感なのだろうか。アホなのだろうか。
さて。
こんなさわやかな朝なのに、まず朝イチで浣腸。
「なるべくガマンしてガマンしてからトイレに行ってくださいね」と言われたものの、浣腸直後からもうヤバい。すぐにでも出そう。処置室からトイレまで何ともおかしな格好で歩きながらすぐにトイレに駆け込んでしまった。
その後も何度かトイレに行き、手術用のガウンに着替えたところで旦那から「着いた」とメッセージが来たので、病室を出て
人生初・憧れの『点滴ゴロゴロ』状態でロビーに向かう。
しばし旦那とおしゃべりをした後、オペ室のナースが迎えに来た。
点滴ゴロゴロさせながら手術室へ向かい、入口のところで旦那とはお別れ。一人になると、やはり心細い・・・。
オペ室到着!そこからは「まな鯉」
アタマにシャワーキャップのようなビニールをかぶり、歩いて手術室へ。初めて見る手術室は、シルバー一色に見えた。無機質な空間で「おお、ドラマみたいだ!」とちょっとテンションが上がる。
ああ、腫瘍があると告げられてから約1ヶ月半、ついにこの日が・・・
・・・などと感慨にふける間もなく、小さな手術台に寝かされ、いろんなモノをテキパキと体に着けられ、
布をかけられてガウンをテキパキと脱がされ、実にシステマチックに作業が進んでいく。
・・・・・・
考えてみりゃ、この人たちは毎日人の内臓を見ているんだよな。そりゃ手慣れてるよな。
そうこうしているうちに執刀するドクターが来て、
「ままさきさん、よろしくお願いしますね(ニコッ)」
うーん、オペ前だというのに相変わらずさわやかな笑顔である。
ナースからは「昨日は眠れました?緊張しました?」と訊かれたのだが、
「いや~驚くくらい落ち着いてました」
ホントによく眠れたし、手術台の上に居るにもかかわらず緊張もない。
この時ばかりは、自分の図太さというか鈍感さをほめたくなった。
そんなこんなでバタバタ周りが動いているのを感じながら、しばし「まな板の上の鯉」状態を味わう。
ああ、ついにこれから腹をさばかれるのか・・・。サカナはこんな気分なのか・・・。
なんとなーくサカナの気持ちになってみたところで、頭上で
「じゃあ麻酔入りますよー」という声が。
ああ、人生初の全身麻酔。続いて「ゆーっくり深呼吸してくださーい。眠くなっていきまーす」と言われ、
3回ほど大きく深呼吸しながら「なんだよ全然眠くならないぞ??」と思っているうちに・・・
・・・・・・
・・・・・・
寝た。
自由がきかないカラダと闘いながらのICUでの一夜
・・・・・・
「・・・・・・さーん、・・・さーん、わかりますかー? ままさきさーん、終わりましたよー。わかりますかー。ご気分どうですかー??」
意識を失ったと思ったら、アタマの上でいろいろな声がする。一瞬の出来事のような気がした。目を開けると白い天井が動いている。
一瞬理解できなかったのだが、どうやら私はストレッチャーにのせられてICUへと移動している状態だったらしい。
ああ、まるでテレビドラマのようなこの状態、ぜひ俯瞰で見てみたかった!!
ベッドに移され、点滴やら機械やらをいろいろ付けられる。
「今何時ですか?」と訊いてみると
「もう2時半ですよー」
眠りについてから一瞬の間で目が覚めたような気がしていたのだが、
手術室に入ったのが8時過ぎなので、麻酔をして、手術が始まったのは9時過ぎなのだろう。
なんだかんだで5時間近くの手術だったのだな・・・。
「オペが終わったら家族に連絡してください」とお願いしていたので、
ほどなくしてICUに旦那が入ってきた。メガネをつけていないのでよく見えないしまだ意識もぼんやりしていたのだが、
「ごめんね~」と力無く言ったことと、
「いまセンセイから話があって、全部取れたって」と言われ「そっか~」と返事をした後、
旦那が大門未知子よろしく肩に手を置いたことは覚えている。
下腹部にズシーンと重~~い痛みがあり、ああ、終わったんだなあ・・・とぼんやりしながらもホッとした。
点滴の痛み止めを追加してもらい、落ち着いた頃にふと右手首を見たら、動脈にぶっとい管がぶっ刺さっていて、手に重りをつけられていた!
腹のキズの痛さよりも、この状態に貧血起こしそうになったよ。
そして痛いながらもゴソゴソとカラダを動かしてみたり、自分の状態を見てみたりすると、
両腕に点滴、酸素マスクに尿道カテーテル、さらに血栓予防のためのフットマッサージ機がついていた。
これも知らぬ間にシステマチックに付けられていたのだろう。
内臓まで見られているもんだから、意識がない間にハダカにされてようが何されていようが、もはや気にならんわな。
その後も1時間ごとに体温や血圧を測りにきてくれる。少し熱があるのか、カラダがほこほこして、じんわり汗ばんでいる感じ。
ずっと同じ姿勢で寝ていると腰やら背中やらが痛くなるので寝返りをうちたいのだが、
何せ腹が痛いのと管だらけで動きにくいのと、フットマッサージ機が結構重いのとで・・・なかなかままならない。
それでも膝を立ててみたり、ちょっと横を向いてみたりと努力。
途中でナースが背中にクッションを入れてくれた。
ICUは全身管理が必要な患者が入るわけで、ずっと何かしらの機械音や話し声がしている。
キズの痛みやカラダの痛みもあって深くは眠れない感じではあったが、それでもずーっと寝ていた。
次第にこの空気とバタバタ感に慣れてきたのか、朝方から7時頃までがっつり眠ってた。
この状況の中で眠れるのだから、アタシにゃまだ崖っぷちの強さは残っているのかもしれん。
うん、まだまだ大丈夫! と、おかしなところで自信を持った初めてのICUでの一夜であった。
手術翌日からは歩け!歩け!!
さて入院4日目・手術翌日。
7時頃に目が覚め、8時頃にドクター軍団が回診に来てくれた。眠いのと痛み止めのせいなのか、まだぼーっとしている中、
「予定どおり、子宮と卵巣、卵管、大網まで全部取れましたからね」と言われたのは覚えている。
状態も安定しているということで、10時半頃に病棟に戻るべくICUのナースがいろいろと準備をしてくれた。
ベッドに寝ている状態でささっとガウンを脱がせ、あったかいおしぼりでゴシゴシとカラダを拭いてくれて、
フットマッサージ機と弾性ストッキングをさささーっと手早く外し、パジャマに着替えさせてくれる。びっくりするほどの手際の良さ。
いろいろと話しながらケアしてもらったのだが、
「昨日からすっごく落ち着いてるけど、医療者ですか?」と訊かれた。
やはり落ち着いてみえたのか・・・。
どうも、がんとわかった時から自分のことなのに他人事のような気持ちでいたかもしれない。
子宮も卵巣もなくなってしまったのだが、喪失感というものも特になく・・・。
自分でも不思議なんだけどね。
その後、ベッドのリクライニングで上体を少しずつ起こしてもらい、起き上がってベッドに腰かけてみた。
ん?大丈夫かな? と思っていたら徐々にアタマがくらくらしてきて、
あ・・・ヤバい・・・と思った時にナースが「ああ、頑張らなくていいですよ!もう一回寝ましょう!」
と寝かせてくれた。
しかし24時間寝っぱなしだと、人間座ることすらしんどくなるとは。情けなし。
一度横になると、次は何とか座っていられるように。手首に刺さっていた太い針を抜いてもらった。動脈ゆえしっかりと止血。
「しっかりやらないと殺人現場みたいになっちゃうんで」と、恐ろしいことを言われたので、ジタバタせずおとなしく止血されておく。
さらにドレーンも抜けた。
10時半に病棟のナースが迎えに来てくれて、点滴ゴロゴロ+車椅子で病棟へ戻る。
自分のベッドに腰かけて、やれやれ・・・と思った瞬間・・・
胃がムカムカしてきてリバース。ああ情けない。
というわけで何とか無事に(?)手術後の一夜を過ごした。
そして術後最初のミッションは、トイレまで移動すること!
トイレまで歩けたら尿道カテーテルを抜くことができるのだ。
これは難なくクリアしたのですぐに抜いてもらえた♪ とりあえず、邪魔なモノひとつなくなった。
めでたく尿カテが取れたので、次なるミッションは「病棟内を歩く」こと。
昨今は、術後翌日から動くのが基本らしい。
入院当日、病棟をやたら前屈みで歩いているご婦人方が居るなあと思ったら、こういうことだったのね。みんな歩かされているのね。
昔のように数日間はベッド上で安静に・・・なんてことはないのだ。患者だからといって、あまり労わってはもらえないのさ。
点滴で痛み止めを入れてもらい、必要なら鎮痛剤を飲んでもいいのでとにかく動くように、とのこと。
「ゆっくりでいいのでなるべく歩いてください。腸も動くし治りも早くなるので」
とはいえ、ベッドから起き上がるのもなかなかに痛い・・・。よく考えたら腹をかっさばいてからまだひと晩しか経っていないのだ。
ICUのナースから「まずは両足を床に下ろして、腕で支えるようにして上体を起こすといくぶん楽よ」
と教えてもらったので、実践してみる・・・が、やっぱり痛い~。
ハラ切ったんだから当たり前といえば当たり前か。
でも何とか起き上がり、とりあえず点滴ゴロゴロしながら病棟1周歩いてみた。
しかし傷は痛いし、カラダもひと晩寝たきりだったためカチコチになっている。前かがみにならないと腹のキズが痛い。
まるでバアサンのような歩き方。情けない。
腸の動きをよくするため、この日の夜から漢方の大建中湯とマグミット(酸化マグネシウム)を処方された。
さらに夜は血糖測定に加えて、血栓予防のための注射を打たれる。人によってはすごく痛いらしいが、私の場合・・・決して痛さに強いわけではなくむしろ痛みや血には弱い奴なのだが・・・、チクッとするくらいで痛みもほぼなく、注射後に痛むこともなかった。
鈍感なのだろうか・・・。
そしてこの日から数日にわたり、ある質問を会う人会う人からされるようになる・・・。
つづく。
※今回「痛み」について感じたこと。
術後数日間、毎日のようにナースに訊かれたのが
「10段階でいまどれくらい痛いですか?」という質問。
これ、答えるのにとっても迷う・・・。
「10」の痛みを体験した人って、果たしてどれくらい居るんだろうか。
出産経験がある人なら出産の痛みが10なのかもしれない。
10の痛みというと、かなりの痛み、我慢しきれない痛みなのだろうと想像すると、
自分の中では結構痛いんだけど「5・・・か6・・・くらいですかねえ」
と控えめに言ってしまって、これでいいのか? と何度も思った。
おそらく、わかりやすいように「10段階でどれくらい痛い?」という聞き方をしてくれているんだろうけれど、
これって正しい答え方があるのかな~と毎日思っておりました(笑)。
※個人の体験であり、個人的な感想を書いています。診察・治療などについてはワタシの記憶で書いてあるので正確ではない部分もあります。あくまでも『ワタシの場合は』の話で、すべての人にあてはまるわけではありませんのでご了承の上読んでくださいね。
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