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初夏とくるり

空は真っ青で

木々の緑は、深い緑と若い緑と

名前も知らない無数の緑色が入り乱れていて

はっきりと自分の存在を主張しているのを

電車の窓から眺めながら、私は神奈川に向かっている。

今日は、これから神奈川郊外のお店に

来月リリースの商品の案内に行くのだ。

「あのお店は、このジャンルに強いから、

あのページのあのタイトルと、

このページのこのタイトルの入荷数を

少し増やしてもらおうかなぁ。なんてことを考えていた。


一年間という約束で、CDの販促会社に出向することになってから、3ヶ月。

ようやく、一人で店舗を回って、リリースする商品の話や、

バイヤーさんが好きなジャンルの音楽の話を楽しく出来る様になってきた。

いわゆる、ルート営業と呼ばれるタイプの営業で

飛び込みの営業ではなく、毎月決まったお店を周り

毎月の受注の案内や、店内イベントの提案やらをするのが主な仕事。

上京して7年。進学した専門学校は新宿、その頃の住まいは調布。

生活も、遊びも、大体のことは山手線の左側で終わっていたから

この仕事のおかげで、東京に出てきてから、初めて降りた駅もあるし、

初めて行く街もあったけど、

今まで知らなかった場所へ行くことが楽しくて、

知らなかった音楽の話が聞けることも楽しくて、

私は、お店を回るのが楽しみで仕方なかった。

地域ごとに、売れるジャンルが違うのも、

この仕事をするようになって初めて知った。

バイヤーさんによって、アーティストの力の入れ具合が違うのを、

POPや入荷する枚数を見るだけで分かるから、見ていて面白かった。

売れるジャンルが違うことと、その地域にあるライブハウスのカラーが

リンクしていたり、その地域にどんな年齢層の人たちが住んでいるかも

リンクしてるのが、面白かったんだよねー。

電車の中で音楽を聴きながら移動することも大好きだった。

この日も、買ったばっかりのくるりの新譜を聴きながら、

車窓の中の色とりどりの緑と、

その手前に広がる、家を見ながら、今日行くお店のことを考えてたんだ。

もう、16年も前のことだけど

くるりの音楽を聴くたびに思い出す、

あの濃い緑と若い緑と真っ青な空のコントラスト。

窓から見える、色んな家が混じった景色。

私が忘れられない初夏の景色。

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