【映画】行き止まりの世界に生まれて

今日は映画の記録です。

概要

表題 行き止まりの世界に生まれて
監督 ビン・リュー
出演 ビン・リューほか
公開 2020年(日本)

アメリカで最も惨めな都市に選ばれたこともあるロックフォードという街で育った若者たちの12年間をまとめたドキュメンタリーです。監督もその若者たちの一員、当事者でもあります。

オバマ元大統領が評価されていたらしかったので、見てみました。
(以下ネタバレを含みます)

圧倒的な事実

ドキュメンタリーなので(?)綺麗に終わることも、何かメッセージが強いわけでもありません。セリフにヒントが隠されていることもありません。ただ、登場人物(監督の友達やその周囲の人物)の発言、行動が繋ぎ合わされて、見えてくる現実があります。

これまでドキュメンタリーはあまり見なかったので、どう受け止めたらいいのか逡巡しつつ見ていました。終わったあとも、うまく自分の中で消化できない感覚が少し続いています。ただこの話は紛れもない現実というのが不思議です。

アメリカ合衆国と言えば、圧倒的な富で知られています。格差が日本より激しいという事実は知っていましたが、自分のイメージの中にある豊かなキラキラしたアメリカからは全くかけ離れていたので、リアルなんだけど現実感がないような気さえしました。アメリカの方が見たら納得、なのでしょうか。

環境をどう乗り越えるか

舞台は惨めな街・ロックフォード。
登場人物は皆決して裕福ではない家の生まれ。
とりたてて、特技があるわけでもない。
ろくに学校にも行っていない。
スケートボードばかりして遊んでいる。

こう文章にしてみると、置かれた環境も良くないし、本人たちも腐っているような感じがします。まだ、犯罪に走ったりしないだけいいのかもしれませんが…

同じような恵まれない状況でも、進む道が人それぞれなのが、悲しいようで、みんな幸せにならないのがリアルだなあ…と思いました。

キアーは皿洗いの仕事をはじめ、嫌だけどコツコツ頑張って昇給したり、新しい友達を作って前向きに人生を作っています。

ザックは子どもができて、冒頭では一番まともそうに見えましたが、場当たり的な生活を続けて、家庭が上手くいかなくなったうえ、家賃が払えなくなったりアルコール依存症気味のような雰囲気もあったりと、危うげな生活を送っています。

ビンはあまり描かれませんが、淡々と映画を撮り続けます。世界中に送り出される映画を作り出せたことからして、キアーのようにコツコツ生きてきたのかな、と思われます。

置かれた環境をどう乗り越えて生活を営むかにそれぞれの性格が出ている気がしました。

かといってザックを批判したいわけではないです。本人も今の人生を激しく後悔している節があったりして、なかなか気持ちと行動が結びつかなくて、落ち着いた暮らしができないのが気の毒というか、単に自己責任では片付けられないなあと思いました。

暴力

格差社会や貧困がテーマなのかな?と勝手にイメージしていましたが、暴力(家庭内暴力)を大きく取り扱っていたのが予想と違いました。3人は父から暴力を受けた経験があり、また、ザックは妻に暴力を振るう一面も持っていました。

暴力はいけません!と説教的になるのでも、暴力を振るう側に寄り添うのでもなく、暴力が身近にある・あった者の人生を映し出していきます。

暴力に対する向き合い方がビンとキアーで違うのが印象的でした。ビンは父(ステップファザー)からの暴力をいまだに許せていないような印象なのに対し、キアーは暴力を振るわれたにも関わらず、もっと父(実父)と仲良くしておけばよかった、と涙していました。
実父と継父という違いはあれど、父に対して抱く感情にここまで差が出てしまうのはなぜなのか気になりました。
監督が母と和解できたのがホッとしました。

ロックフォードの現状

ロックフォードってどんなところなんだろう、と日本語で検索しても、この映画の宣伝が出てくるばかりなので、英語のページで調べました。街のデータや口コミを掲載する「bestplaces.net」というページです。(なぜかリンクが埋め込めませんでした)

それによると、ロックフォードは、失業率や給料が米国平均より低いにも関わらず、税金は高い、サービスは良くない、という住みにくい街のようでした。

口コミを少し引用します。

Lived there a few years....moved.
High crime, high taxes, no jobs, lousy roads, bad schools, decaying urban area, full of religious nuts, lousy weather, long drive to any great entertainment.......other than that.......its a shit hole.
Only the desperate live there.

これはもちろん、一人の意見ですが、相当ひどい状況です。
そんな街でも子どもはいるし、育つ。その現状を見せつけてくれたのがこの映画です。

何を受け取るべきか

観終わってみて、私はこの映画から何を受け取ればいいのかがうまく整理できず、もやもやとしています。
しいて言えば、アメリカの影を知ることができました。

横たわる問題が大きすぎて、自分のちっぽけさが嫌になります。
が、そこで生まれたからには現実を受け止め、なんとか身を立てていくしかないんだろなあ…と、冷たいことを考えたりもしました。

また、こうしてnoteを書いている中で、自分の故郷が思い出されました。
私の故郷はまさに惨めですし、職もない、芸術もないのでもともと永住するつもりはありませんでした。

でもそんな、自分から見たらひどい街に住んで、子どもと暮らしている同級生もいます。
彼らは今の街と自分の人生、子どもの人生をどう捉えているのか、聞いてみたくなりました。

まとめ

なかなか受け止めきれない映画ですが、見てよかったと思います。
現実に向き合いたい人はぜひご覧ください。

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