【映画】「誰も知らない」感想

 今日は映画の日ということで、気になっている是枝監督の『誰も知らない』という作品を見ましたので、感想を記録します。
※以下、ネタバレあり※

作品概要

 2004年公開、是枝監督が手掛けたフィクション映画です。フィクションといっても、1988年に発覚した「巣鴨子ども置き去り事件」という実際の事件をモチーフにしています。構想から公開までに15年かかったそうです。主演の柳楽優弥さんがカンヌ国際映画祭にて、史上最年少かつ日本人初の最優秀主演男優賞を受賞したことで有名です。
 母親と4人の子どもが引っ越してきて生活するところから始まります。が、4人の子どもは学校に通っておらず、4人中3人はいないことになっており、家の外に出るなと言われて暮らしています。ある日母親は出ていき、帰ってこなくなりました。4人だけの、保護者のいない、社会と隔絶された生活が淡々と描かれていきます。

感想1 隔絶された社会の存在について

 この映画を見て「かわいそう」「親がひどい」と素直に思います。が、一番強く抱いたのは「驚き」でした。どのような驚きかというと、自分が生きるのと同じ時代・国に、自分がこれまで見てきた・暮らしてきた世界とは隔絶された世界が実際に存在していることへの驚きです。この映画はフィクションですが、実話がモチーフになっていることもあり、これに近しい状況は今この瞬間にも発生している可能性が高いです。実際に児童相談所は日々、多数の通報を受けています。「虐待」「ネグレクト」「無戸籍」等が存在することは頭では知ってはいますが、映画という映像作品を通じ、次に記述しますリアルさとあいまって、疑似的にですが現実を突きつけられた、と感じました。

感想2 子どもたちだけの生活のリアルさ

 映画の中では、はじめは母親もいて、4人の子どもとひっそりと暮らしていますが、途中から子ども4人だけの暮らしが始まります。その子どもだけの生活が長くなればなるほど、生活が困窮する様が、ものすごくリアルに描かれていると感じました。同じ部屋と同じ子どもが定期的に、定点的なアングルで映されることによって、
・だんだん部屋が散らかってくる様子
・おもちゃのピアノが少しずつ、出ない音が増えてくる様子
・ベランダが、始めは出てはいけない場所だったのに、だんだんおもちゃが置かれたり、植物が栽培されたりする様子
・服や靴の劣化
・子どもたちの活力がだんだんなくなってくる様子
等を通じて、本当に子どもだけの生活を垣間見ているような感覚になります。そのことで、作品にぐっと引き込まれていったような気がします。

感想3 親だけの家庭運営の限界

 この事態を引き起こした張本人は母親です。「親が悪い」と断罪することは簡単です。そこから一歩進んで、この事態を起きないようにするにはどうするか、と考えると、親を更生させるのは、困難だと感じました。親は、子どもを放置することが悪いと感じていませんし、悪いことだと知っても、では心を入れ替えて保護するようになるか、というと、期待できません。人間はそんなに簡単に変われないでしょう(モチーフとなった巣鴨置き去り事件においては、更生を期待して執行猶予付きの判決になったようですが…私はあまり性善説信者ではないので)。
 歴史を振り返ると、日本においては核家族化・地域の縁の繋がりの薄まりが進み、家庭というものが閉じられた存在になっている傾向があります。閉じられた存在になるということは、あれこれ余計な事を言われなくてすんだり、自分の思うように家庭を運営できたりというメリットもあります。でも裏を返すと、客観的に見てあれこれ言わないとまずい家庭運営でもまさに「誰も知らない」まま、生活が成立してしまいます。親と子どもという家庭において、家庭運営のメインプレーヤーは親ですが、その親の家庭運営能力や見識によって、子どもの生活環境は大きく異なります。ある程度運営能力がある親はよいのですが、運営能力が乏しい親については、児童保護の観点から、虐待やネグレクトが引き起こされる前に、何らかのサポートが必要なのではないかと考えました。医療で例えれば、実際に病気になってから(=虐待発生してから)治すのではなく、予防医療的に(=虐待等が起きる前に)何か対策できないかと考えることが必要と思いました。

感想4 「無戸籍」に関心を持った

 映画の中ではほとんど触れられていませんが、子どもたちは無戸籍です。この「無戸籍」という状態に今回、関心を持ちました。戸籍がないと、生物としては存在しているのに社会的には認知できません。
 現在の社会制度は問題山積みですが、それでも上手くできているところもあって、例えば日本に戸籍があれば、予防接種を受けられて病気にかからないとか、学校で最低限の教育を受ける機会は設けてもらえるとか、生きていくためのサポートが受けられます。その中で副次的に社会の目にさらされ、例えば保育士や教師が虐待の可能性に気づくとか、子どもを大きくなるまで守れる可能性が高まります。が、戸籍がないとそれらすべてのサービスが受けられません。というどうしようもない状態にも関わらず気の毒だと感じるのは、無戸籍者が無戸籍になる原因は一切本人にないことです。戸籍は出生届によって作られますが、当人は当然、出生届が提出される時点では乳児です。つまりその時点での保護者が抱える何らかの理由によって、当人は社会の外に置かれるわけです。この理不尽さと、当人に与える影響の大きさから、無戸籍という問題について、自分はもう少し知りたいと考えました。

感想まとめ 私の需要にあった作品でした!

 他にもいろいろ考えたことや感じたことはあった気がしますが、今、文字にできるのはこんなところです。
 「見た後にいろいろ考えさせられる映画を見たい」「是枝監督が気になる」という今の自分の需要を満たす、とても満足度の高い作品でした!来週公開される新作も楽しみです。

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