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第4回カジュ読【赤ちゃんはことばをどう学ぶのか】

「語彙爆発」という言葉を聞いたことはありますか?
語彙爆発。インパクトのある言葉ですよね(笑)

この前まで言葉らしい言葉なんて発していたなかった子どもが、気がついたらすらすらと発話している様子を見て驚かされた。小さな子をもつ親ならそのような経験も記憶に新しいのでは。
このようにある時期を境に使用語彙が爆発的に増える。そんな現象を「語彙爆発」と呼びます。

今回の一冊は針生悦子氏著書の「赤ちゃんはこどばをどう学ぶのか」より一部抜粋。


本会では大人と子どもが言語を習得する際の過程の違いや、語彙爆発とはどの程度“爆発的”なのかを人間とチンパンジーの赤ちゃんを比べた実験の検証結果などが用いられ、興味深くユニークな内容となりました。

子どもによっては物静かでなかなか言葉を発せず心配になる親もいるでしょう。特にバイリンガルの場合はこの語彙爆発とみられる現象が遅い傾向にあることも本会で触れました。
「この子は言語の発達が遅いのでは…」と心配する気持ちは十分にわかります。しかしその前にしっかりと正しい知識を身に付けておくことで、余計な心配事や考え事などを増やさずに済みます。

もしもこれを読んでいるあなたが我が子とともに海外に移住経験があり「なんでここんなに現地語の上達が速いの?」もしくは逆に「この子はほかの子と比べて遅いかも」という疑問や心配を抱いているならば、まずはこの記事を読んでみてください。


同じスタートラインに立って学習を初めても
子どもには勝てない?

本書の中にこんなエピソードがありました。ドイツ語を勉強しなければならなくなった父親が、まだ赤ちゃんの我が子を見て、この子が日本語を理解していくように自分もドイツ語を勉強していけば、同じように成長していけるのではないか…。そんな淡い期待を抱いた父のドイツ語はいうと、結果から言うと見事惨敗するわけです(笑)
「子どもはスポンジのように吸収し学習するのだから、想像に難しくはない結果」確かにそうとも言えるでしょう。では同じスタートラインに立って学習を始めたにも拘わらず、3年後の子の日本語に勝てなかった父のドイツ語の敗因は一体なんだったのでしょうか。

これはざっくり3つに分けて考えられます。

1.そもそも「学習」に割り当てられる時間に差がありすぎる

学習といえば机に向かって文法を理解し、ひとつでも多くの単語を覚え、正しく聞き取り、正しい発音を身に付ける、といったことが「大人の学習法」ではないでしょうか。仕事をしながら家の事もして日々忙しくしていると、学習のための時間の搾取が難しくなってきます。
赤ちゃんはどうでしょう。食べたり遊んだり、生活の中で言葉を聞いて、言葉を発して…。起きている時間全てが「学習タイム」です。母親を中心に、周りにいる人たちが発する言葉を聞き、それが何を意味すのかを考え、それに近い音を発音しようと真似てみたり…。わたしたち大人がわざわざ時間を取ってしていることを、子どもは日常の生活の中で自然と身に付けていっているのです。

2.大人と子どもの「脳の柔らかさ」

「大人は頭が固い」なんて言葉を耳にします。これは長年の考えが凝り固まってそれ以外の物事に視野を広げられないという意味の「頭の固さ」とは少し違います。

もしも自分がいま脳の一部を失ったら…。あまり考えたくありませんが、少し想像してみてください。損傷部位にもよりますが、言葉を発せられない、体を思うように動かせられない、空間認知や記憶力に何かしらの影響が出てくるなど、様々な弊害が出てきます。大人が一度脳を損傷すると、元に戻ることはかなり難しいのです。

脳梗塞などによる脳の損傷により、手足の麻痺が残り、運動が困難になることがあります。この場合はリハビリなどで失われた機能をある程度は取り戻すことができると言われています。
では脳の半分を失った場合どうでしょう。考えるのも恐ろしいですが、まずもって元に戻る、つまり健康な状態に戻る可能性は極めて低いと言えます。
しかし実はこれが子どもの場合だと、元に戻る可能性がぐっと高くなるのです。いわゆる「脳の可塑性(かそせい)」といわれるもので、損傷されたところを他の部位が補うことをいいます。これが幼ければ幼いほど完全な回復に繋がる見込みが高くなります。
脳の損傷は少し極端な例かもしれませんが、そんな大人が持っていない「脳の柔らかさ」が子どもにはあるのです。その柔軟さは言語を習得する上でも、上達速度を上げたり、吸収する力を手助けしたりする大きな要因になっていることは想像に難くありません。

3.「知らない」という最大の武器

時間がないという1つ目の要因で「そうだそうだ」と首を縦に振って賛同していたあなたも、脳の柔らかさが違うとくれば肩を落としているのではないでしょうか(笑)
そこにさらに追い打ちをかけるような3つ目の要因は、赤ちゃんはそもそも「言語を知らない」ということです。

父は既に日本語を母語として身に着けており、新しい言語の習得はいわゆる「母語の干渉」を受けてうまくいかなかったという懸念も考えられます。
しかし赤ちゃんの場合、そもそも言語というものをまだ知りません。つまりフィルターがないまっさらな状態で、入ってくる全ての情報がそのまま処理されるのです。言語を知らないということは完全なるディスアドバンテージですが、赤ちゃんの場合は「最強の武器」ともいえるのです。


赤ちゃんは「L」と「R」を聞き分けるための
「聞き方」は持っていない

さて、大人が太刀打ちできない事実に完全に失望したところで(笑)「フィルターがない状態」を、英語学習の際に日本人なら必ずといってもいいほどぶつかる「L」と「R」の発音の違いを例にあげて解説します。

私たちが自然に発する日本語の「ら行」ですが、これは英語の発音「L」と「R」どちらにも属しません。日本語独自の発音です。そのため、日本人がこのふたつの音を聞こうとすると、私たちが日々聞きなれている「らりるれろ」がベースとなっているため、これ以外の近い音を聞き分けるための「聞き方」を知りません。その音を発するための筋力も弱いため発音も少し困難です。これは口周りの筋肉が既に「日本語を話すための筋肉」に出来上がってしまっているためです。
その点赤ちゃんはその基盤がゼロの状態であるため、言語を習得するにあたって影響を及ぼしたり、邪魔したりするものがないのです。


文法的な解釈は子どもが言語を理解するうえでは度外視

子どもの日本語発達速度の速さに完全に置いていていかれた父ですが、もちろん最初から不利な立場だったわけではありません。むしろ文法的な理解、語彙量、コミュニケーション能力などあらゆる面から、学習をスタートするにあたって父の方が有利であったことは明確です。
さて、子どもが言語を学習するにあたり、助詞の使い方などを親からじっくりと学んだりするでしょうか。もちろんそんな学び方はしませんね。経験の中で感覚で培われて周りの環境からインプットされた言葉が「文」として構成されていきます。

1歳未満の頃は話せる単語が月に3~5語というペースですが、1歳後半になれば月に30~50、2歳頃には平均で約200の単語が話せるようになります。

2歳で200語

あなたはこの数字をどう見ますか?多いと感じますか、それとも少ないと感じますか?

大人が本気で勉強すれば1年間で200語は優に超えられるでしょう。500語、1,000語だって努力次第で決して不可能な数字ではありません。
もしもこの父親が本気でドイツ語を猛勉強しまくって、努力に努力を重ねていれば3歳児の日本語能力を上回った可能性は十分にあります。が、しかし。ここでまた心が折れてしまうことをいうようで胸が痛みますが、ショートスパンで見ればその時の父のドイツ語は、その時の3歳の子には勝っていても、ロングスパンでみると結果はまた違ってくるのです。

大人になって始める言語の学習は、教材や教室などからの知識としてのインプットが多いと思います。しかし子どもは実際の生活の中で五感とともに言語力を身に付けていきます。食べたその味を確認しながら、何かを触ってそれをどう伝えるのか、何かを成し遂げて褒められ、失敗をして怒られながら、ありとあらゆる場面でその経験と言葉がその後の人生の中で点と点で結ばれ線になっていくのです。
子どもは生活の中でその都度更新される情報も、大人の場合は一度知識として植え付けられた情報を上書きすることはそう簡単ではありません。ある一定の時期までは有利だった親の言語力も、この「生活の一部」として自然に身に付く言葉の力にまで追いつくのは相当な困難であるといえます。

さて、2歳時点で約200語の語彙を習得する人間の子どもですが、この数字をどのように捉えればよいのか、あるおもしろい実験があります。

チンパンジーと人間の子どもの違いは1%!?
人間の子どもの言語発達がいかに爆発的か


このチャートを見ればわかるように、2歳に差し掛かる頃に使用語彙が急激に増えます。この表はモノリンガルをを対象としたものであくまで目安であり、バイリンガルの場合はこの伸びが比較的緩やかな傾向にあります。この時期に周りと比較してこの急速的な伸びがない場合、親は不安に陥りがちですが、バイリンガルの場合は2つの言語を処理しているため、アウトプットが遅れるのはむしろ自然なこととも言えるのです。

ここで人間の子どもの語彙発達のスピードがいかに爆発的なのかを、チンパンジーの赤ちゃんと比べた実験結果が紹介されました。
なぜチンパンジー?実はチンパンジーと人間のDNAにおける違いはなんとたったの1%台だそう。私はこれを知ったとき、たったの1%なのにこれだけ違うの?と、この1%がいかに大きいか衝撃を受けました。著者は、高い知能を持つチンパンジーであれば適切な環境で育てることによって人間の言葉も習得し、コミュニケーションが可能になるのではと思いこの実験に着手したのですが、思うような結果は見られませんでした。
言葉を理解し、教えられたことは着実に覚えていったチンパンジーでしたが、人間の子どものように爆発的に伸びることはありませんでした。この表では18カ月を超えたあたりから急激に上昇していますが、チンパンジーにはその「急上昇」がなくずっと平行なままなのです。

最初はゆっくりと進んでいく人間の赤ちゃんの学習スピードですが、ある一定時期から急速な勢いで進みます。この実験結果からみても、父が太刀打ちできなくなった惨敗の様子からみても、2歳の「200語」という数字がいかに大きなものかが実感できるのではないでしょうか。

今回の読書会の話題と比較してという訳ではないのですが、まだ3歳に満たない息子が急に「Mama, I told him this is spicy but this is not spicy」と急に言ってきたときには思わずとはっとしてしまいました。その日食卓に並んだ夕飯の中で少し辛いものがあり、これは辛いけどこれは辛くないよ、と言う風に父親に教えたのだそう。
それまではそこまで長い一文を聞いたことがなかったことと、まるでこれまで普通に話せていたかのように自然に発話したこと、動詞を過去形としてしっかり使えていたことなどから「語彙爆発!?」と興奮を覚えました(笑)
最近では中国語でも使える単語が増えてきた我が子。もはやスタートラインにも立てなかった私なのですが、今回の1冊を通して子どもの言語発達が想像を超えていかにすごいものなのかを知る機会となりました。

子どもと競って勝利を勝ち取ることはほぼ不可能と現実を真摯に受け止めたと同時に、脳の底知れない可能性を改めて認識できたことで、子どもほどの柔軟性はなくとも(笑)新しい事への挑戦に臆することはないと勇気づけられた会でもありました!

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