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同調圧力

真鍋博士がノーベル賞を受賞した際、「日本に帰りたくない」発言をされたことで、
日本人の「同調圧力」が話題になっています。

私の診察室に来る子たちもよく、「悪目立ちしないか心配」と口にします。
皆と同じ発想、同じ意見、同じ格好をすることに安心感を抱きやすい日本人の集団では、
逆に人と違う行動や発言をした時に、非難の目を向けられることが少なくありません。
発達特性がある子どもたちは、認知機能の発達に凸凹があるため、
世界の見え方、感じ方が他の子と少し違うことが起こりやすく、
自分が感じるままに行動すると周囲から浮いた感覚を感じ、
そこで周囲から奇異や非難の目を向けられることで、孤独感に陥ってしまいます。
そうならないために、彼らは周囲をよく観察して、悪目立ちしないよう気を遣っているのです。

真鍋博士は、「(アメリカでは)自分のしたいようにできます。
他人がどう感じるかも気にする必要がありません。
私のような研究者にとっては、アメリカでの生活は素晴らしいです。」と語られていました。
新しいモノを生み出すには、人と違う視点が必要です。
iPhoneを生み出したスティーブ・ジョブズ氏も、発達特性があったことで有名ですが、
斬新な発想から人々を惹きつけるモノを創る力を持っている人たちには、
発達の凸凹など、人と違う感覚が備わっているのだと思います。
この人たちが、周囲に合わせないといけない、ということばかりに気を取られて、
自分自身の才能を押さえ込んでしまっているばかりか、
精神的に疲弊した状態で日々を過ごしている、となっているのだとしたら、
日本は宝の山を眠らせたままにしているようなものです。

近頃は、個性を大切にしようという風潮もみられていますが、
実際にはまだまだ、同調圧力の文化は根強く残っています。
その理由は、親世代が同調圧力の文化で生きてきた人たちだから、ということもあるでしょうが、
多様化を推奨する人たちの「様々な個性を認めよう」というスタンスにあるようにも思います。

自分と違う視点を「認めよう」とか「受け入れよう」ではなく、
「他者の違う視点から学ぼう」というスタンスが大切なのではないかなと、
真鍋博士の記事を読んでいて思いました。

例えば、皆がAという意見を持っている中、Bという真逆の意見を持っている人がいたとします。
個性を認めよう、という立場の人の多くは、「そういう意見もあるよね」という形でBという意見を受け入れるでしょう。
非難の目で見られるよりははるかにいいのですが、
真鍋博士がアメリカに行かなくて住むような社会にするためには、
「Bの意見を教えてくれてありがとう!それってどうやって思いついたの?」という形で、
違う意見は出て当然で、その発想を教え合い、違う意見を賞賛するというスタンスが必要なのではないかと思います。


発達障害の診断を受けた子の親が、診断を受け入れることができても
「空気の読めないこの子が、集団でうまくやっていけるのか不安でたまらないです」
と相談してこられることがよくあります。
そこで私がお伝えしているのは、
「お母さんが見ている世界をどうやって見せよう、と考えるのではなくて、
その子が見ている世界を知るところからはじめませんか?」ということです。
同じ見え方が難しい子たちにとって、そもそもの視点が違うことを心配され、どうすれば周囲から理解してもらえるかという発想に偏られると、
その子自身が行き詰まってしまいます。
それぞれの異なる世界観が交わることが当然とされる環境下で初めて自分の視点が尊重され、
自信が持てて、衝突が起こった際のその子自身の対処方法が生まれると思います。
その最初の一歩は家庭です。

その子の見える世界が全く思いつかなくて歩み寄りにくい、という親御さんもいらっしゃいます。
その時は、発達障害の当事者が書いた本が参考になると思います。
読むことで親御さんが安心感を得られるという意味でもお勧めします。

自閉スペクトラム症の子の親御さんにはよくこの本をお勧めしています。

最近映画化されたことでも有名ですが、東田さんは彼らの世界をわかりやすく教えてくれます。勿論、皆がそうというわけではない部分もあるでしょうが、彼らの世界が見えやすくなるきっかけになると思います。どうぞお手に取られてみて下さい。

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