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掌編・短編集

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単発の掌編、短編小説を集めたマガジンです。様々なジャンルを展開します。
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#短編小説

【短編】It’s a perfect world

ドイツ人男性に囲まれている、小柄な一人の男。 いや、彼自身が決して小柄なわけではない。どうしたって大柄なドイツ人に囲まれたら日本人は小さく見えるだろう。 彼は腕を組み上目遣いでやや口をへの字に曲げ、そんなドイツ人たちの話に耳を傾けている。身体は小さく見えるが、態度は決して小さくない。 話が一通り終わると彼は口角をわずかに上げ、 「OK. Lege gleich los.(すぐに取り掛かろう)」と言うとドイツ人たちも和やかな表情で「Jawohl.(了解)」と答え、解散した

【短編】カーニバル・後編

伏見稲荷を出て再び電車に乗り、特にあてもなかったので終点・出町柳駅まで出た。 駅を降りれば賀茂川と高野川の交わる鴨川デルタが目の前にある。 賀茂大橋を渡れば京都御所。 ここも正宗と一緒に歩いた所だ。 俺たちは橋は渡らず、土手に降りて川沿いを下っていった。あの時と同じように土手には多くの若者や家族連れがそぞろに歩いたり、等間隔で腰を下ろし和やかな時を過ごしている。 日も傾き始め日差しは緩んだが、まだまだムッとする熱気がこの盆地を包み込んでいる。 「僕もう疲れたよ」 一番

【短編】カーニバル・前編

「京都?」 「うん、子供たちを連れて行きたいと思って」 ドイツに来て2年が過ぎ、家族のビザの関係もあって一度帰国する事にした。 もちろん領事館に行けばわざわざ帰国する必要もないのだが、ちょうど8月。バカンスの時期。 そして、正宗の七周忌だった。 『お前グローバルに活躍してるようやけどな。日本のいいとこも忘れたらアカンで』 娘の梨沙は間もなく8歳、息子の蓮も6歳になった。悪くないタイミングだと思った。 『子供たちに京都見せてやり』 正宗の言葉が事あるごとに去来してい

【短編】闇の彼方へ

幼少期 「立ちなさい、遼太郎!」 道場に怒号が響く。 倒れているのはまだほんの子供だ。面で見えないがその顔は真っ赤で今にも泣き出しそうである。 祖父は軍人から警察官になった経緯もあってか武術に精通しており、孫の遼太郎が3歳になるやいなや、こうして近所の道場でほぼ毎日稽古をつけていた。 日常の言葉遣い、姿勢に至るまで厳しい躾を施した。 家の中では絶対に敬語を使わなければならない。来客はもちろん祖父、親戚、両親にまでも。 遼太郎の生家は西日本の片田舎にあった。 広い敷

【短編】狂った一日

7月8日。 思えば狂った一日だった。 そもそも僕が電車に乗る事自体が最近は珍しくなりつつもあったが、それがしかもトラブル収拾のために客先に向かう、という名目だったから、尚更イレギュラーだった。 上司は僕のコミュ障(それは発達障がいに起因し、性格のためではない)を理解してくれているので、最寄駅で営業系の社員を待たせてくれており、そこで落ち合って2人で向うことになっていた。 そして普段全く乗り慣れない路線。通勤ラッシュ時間を避けられたのが幸いだった。 雨だった天気予報は外れ、

【短編】文化は違えど炒める飯は世界に存在する

↓こちらの話で登場する同期2人の前日譚 ↓ 同期の中澤は最近韓国語を勉強しているらしい。 他国の言語や文化に関心を持つのは大いに結構な事である。 ただし。 ツールは使い方や使い所を間違えると、とんでもない事になる。 ✍🏻 ✍🏻 ✍🏻 ✍🏻 ✍🏻 僕と中澤は現在入社3年目。 お互い部署は違いながら営業マンであり、外出する機会の多い僕と中澤は時折連絡を取って昼飯を一緒に食べた。 営業と言ってもノルマまみれの物売り営業とは違い、中澤はリサーチやマーケティング、僕は御用聞

【短編】ひとやすみ ~Holiday

こんにちは。飯島優吾です。 ただいま本編(?)でブレイクスルーするために奮闘中ですが、まぁ連休なので、たまには息抜きです。 本編終了後の設定でお話しします。 * * * * * * * * * * 夏の連休。 僕の彼女の美羽は会社での研修に出ていて、そのまま連休に入るから友達と温泉に行ってくるなんて、楽しそうにしてました。 僕とすらまだ温泉旅行なんて行ったことないのに、僕の未来は大丈夫なんだろうか…。 僕は近所に住む上司の野島次長に「一人で寂しいので飯でも食わせて