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掌編・短編集

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単発の掌編、短編小説を集めたマガジンです。様々なジャンルを展開します。
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#掌編小説

【掌編小説】同期の2人、2年生

「優吾、俺が今から言うことを鼻の穴かっぽじってよく聞けよ」 「それは聞く耳持たないでいいってことだな?」 「お前、何言ってんだよ」 「お、お前だろうが! お前が何いってんだよ、だよ!」 飯嶌優吾は同期の中澤朔太郎と外回り中によく待ち合わせて一緒にランチを取った。お互いOJTの同行も外れて1人で回ることも多くなった。 間もなく入社2年目を迎えようとしている。 学生時代バスケットボール部で活躍した朔太郎は、今でもボリュームたっぷりの定食が大好きだ。対して優吾は特にこれといった

【掌編】夢

暗闇だ。 何も見えない。 水が滴る音が微かに聞こえる。足の裏はひんやりと冷たい床に触れている。 ここはどこだ? 右手に何か摑んでいる感触がある。冷たくて硬質なもの。 ナイフだ。 弟から取り上げた物だと直感する。アイツが持っていると自分を傷つけて危ないから。 ナイフの刃は白金に輝いている。 美しい。 闇の中だというのに浮き上がるような輝きを放つ。 あぁ、これは夢の中なんだろう。俺は夢を見ているんだ。 それにしても刃の輝きは美しい。弟の気持ちがほんの少しわかる気がした

【掌編】クリスマスだからって言うわけじゃないけど

「じゃ、お先に失礼します!」 部下が笑顔で颯爽と帰っていく。 「クリスマスイブともなると、若い人は帰宅が早いねぇ」 近くにいた中堅社員が、そうぼやいた。 ”そうか、今日はクリスマスイブなのか…” 夏希の顔がよぎり、思わず一人苦笑いする。 そんなイベントに浮かれたりする自分ではなかったはずだ。 定時を過ぎたが、まだしばらく上がれそうにない。 引継ぎを伴った業務整理しかり、師走ともなれば尚更だ。 暫くの間ドキュメント作成に没頭していたが、ふと思い立ち、休憩をするふりをし

【掌編】ある秋の日に

羽田から飛行機が飛び立つ。 若洲の風車が回っている。 ここ数日は天気も悪く、部屋に籠もりがちだった。 しかし休日の今日、束の間の秋晴れ。置き忘れている気持ちを拾いに、いつもの公園へやってきた。 今越えられない距離がある。 心は自由だと言うけれど、飛んではいけない。まるで時が止まっているような気がして焦る。 せめてこの風が、ずっと遠く繋がっているような気がするから、時は流れていると感じられるから、ここへ来た。 今もあの人はあの真っ直ぐな姿勢で、同じように遠く空を見てい

【掌編小説】桃

気になるあの娘を思い出しながら、僕は桃を食べる。 彼女のSNSのアイコンは桃だった。 僕は自分の好きな、いろいろんな果物の話をしたら、 「すみません、桃以外は好きじゃないんです。興味がないんです」 と言った。 そして 「桃だったらお菓子でも大好きです」 なんだそうだ。 面白い子だな、と思った。 彼女は少年のようにひょろっとして、透き通るような白い肌をしていた。 そんな彼女の頬はまさに桃のような色づきだった。 いつもキリッと口許を結んでいて口数は少なく、どこにいても控えめ