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"Design for All"、ユニバーサルデザイン総合研究所代表、赤池学(あかいけまなぶ)さん

武蔵野美術大学大学院・クリエイティブリーダーシップ特論II、第14回赤池学さん、2020年8月17日@武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス(via Zoom)by 木越純

今日は、ユニバーサルデザインに基づく製品開発や地域開発を手がけ、また地域の特産品にそれなでにない視点で付加価値をつけて地域経済の活性化を図るなど、幅広く活躍されている赤池学さんをお迎えしました。赤池さんは元々昆虫発生学を研究されていた生物学の研究者でしたが、DNAに支配されない発展性のあるデザインに目覚めます。一旦新聞記者になりますが、アメリカでユニバーサルデザインを学んだのち、1996年にユニバーサルデザイン総合研究所を立ち上げます。

現代の先進国では一定レベルの質を備えた物が溢れ、これ以上顧客が求める物が分からなくなっている状況です。その中で顧客自身が気づかないニーズを見つけ出し、それに意味と価値をつけて行くのがデザインであり、イノベーションです。さらにデザインが奉仕する対象に、老人も若者も子供も、男性も女性も LGBTも、健常者も障害のある人も、人間だけでなく動物や植物あるいは地球全体の生態系まで取り込んで、アイデアを形にするのがユニバーサルデザインです。

赤池さんが提唱するユニバーサルデザイン10要件の中から、幾つかについて赤池さんが手がけた事例を伺いました。滋賀の和菓子のたねやの事例では、お年寄りや障害のある方々にも優しい店舗設計を、スロープを付けたり明るい照明に変えたという物理的なバリアフリーを図るのではなく、一見バリアフリーではない伝統的和風建築をそのままに、従業員の接客マニュアルを工夫し、バリアー残しながらもスタッフが率先して助けを必要とする来客を手助けをするサービスを提供することで、一層人肌の温かみのある誰からも共感を持たれる店舗サービスをデザインしました。

パナソニックの斜めドラム式の洗濯機は、入れやすい出しやすいという使い勝手に加えて、使用する水量が半分で済むという点で、地球環境のサステイナビリティに貢献します。また体が不自由な方用のスプーンWill Lightのデザインでは、地域の高齢者や障害者、医療や介護従事者など様々な関係者に参加してもらってデザインコンセプトを作り、地元のキセル作りの伝統工芸技術を使って中空の肢を作って軽さを実現するといった工夫をしています。

これからの物作りに求められる「21世紀品質」を達成するには、20世紀型のHardwareとSoftwareに加えて、Sense WareとSocial Wareという二つの軸が加わる必要があり、その上で心と五感に訴えるユニバーサルデザインが実現すると考えます。こうした試みはこれまでになかった新しい製品を生み出すだけでなく、従来からありながら廃れつつある地元の特産品に、新しい意味と価値を吹き込んで地域起こしの起爆剤とする試みにも当てはまります。「ゆりかごから大島紬」の謳い文句で、大島紬を洋服社会でニーズが無くなってしまった着物に拘ることなく、その肌合いを活かした赤ちゃん用品としてデザインすることで、人気商品にします。できたものの質感や使い勝手の良さだけでなく、伝統のある大島紬を受け継いでいるというストーリーが、意識の高い顧客に訴えかけます。

赤池さんが手がけられた興味深くかつ多岐にわたる実践例のご紹介をいただきました。"Design for All"、ユニバーサルデザインの軸足をブレることなく、身の回りの物から、都市やあり方まで、デザインの力を感じました。(了)



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