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メンタル・マッチョ・ゴリラ<誕生編> vol.11   「蒸発中、彼は一体、、、?」

毎度、珍騒動ばかり巻き起こすオサムなのだが今回は真面目に、知られざる側面にスポットライトを当てる。

就業時間中、ほぼ席にいないオサム。

彼は、一体どこで何をしているのか?



ガツガツとした営業たちは、決死隊『チームびっくり人間』に無理やり私を入隊させたが、本当はオサムに弟子入りしたかった。
(vol.4の最後あたりです)
     ↓


仕事を覚えるためというより、ただただ人間オサムが面白そうだから。

そんなことを知ってか知らずか、

師匠は、たまーに弟子を外へ連れ出すようになっていた。

おかげで、いつも喫茶店でぼさっとタバコを吸っているだけでないことはわかった。

「これから出かけるわよ。着替えてきて。」

いつも、オサムは唐突に切りだしてくるのだが、部長は何も言わない。

フォルダ峡谷で何かが動く気配がし、慌てて私はロッカー室へと駆け込む。マッハで事務服を脱ぎ去ると、オサムとタクシーに飛び乗った。
(あ、ちゃんと私服、着てからです)

師匠は、どこに行って、何をするのかまったく説明しない。

車の中では、昨日はヴォルガで○○と会って、とか、マキシムでは○○と、、、こんな具合になんだか聞いたことのある、きらびやかな名前をよく口にした。


ロシア料理『ヴォルガ』
外観が玉手箱💕
行ってみたかった、、、。


私の感想は必要とされない。
オサムはいつも、とりとめもなく話し続ける。

ある時、外注先のデザイン事務所へ同行した。(オサムは自分で図面は引かず、社外へ業務委託していた)

デザイナーである女性社長は、知的で物腰が柔らかく、まさに麗人そのもの。

そのオフィスは、まるでパリへワープしたかのようなセピア色の懐かしさで包まれていた。オサムはリラックスした様子で社長とおしゃべりに興じてはデザイン画の修正を依頼する。

この事務所へはその後、何度もお使いで私は訪れた。いつも麗人社長はザ・ガサツ代表の私にも、変わることなく優雅に接した。


参考イメージ:アーティストのアトリエ in Paris



また、ある時は、オサムが絶大な信頼を寄せる加工先を訪れた。あまたの有名ブランドもその工房を頼みとする。

目ん玉がギョロリとデカく、フサフサとしたもみあげが、仁王のような風貌の社長が出迎えてくれた。社長はクラフトマンでもあるのだが(それにしては珍しく)オサムに負けず劣らずマシンガントークを炸裂させる人物でもあった。


注:イメージです。


オサムは、普段は見せない真剣な表情で、細部に至るまで入念に製作途中の商品を確認する。モノづくりの一番重要な工程であり、相手は超一流の職人集団である。発注する側も絶対に、あいまいなことは許されない。0.1㎜単位で修正がなされていった。メモをとってはいけない雰囲気の中、私は、となりで息を詰め、時に師匠が一瞬で描き上げる芸術的なラフに目を見張る。

オサムは、まだ3Dが現在のように手軽に普及するはるか以前に、ぱっと脳内で平面を立体に変換する能力に長けていた。




その場の誰もがリスペクトに満ちた目でオサムを見ている。

展示会での神業のような販売の手法を目のあたりにした時よりも、ただのカバおじさんでないことを思い知った。

「僕がさぼってるって思ってたでしょ。」

オサムはそう言うと茶目っ気たっぷりに笑った。(普通にサボっていることも多々あった)

この工房は、工賃もずば抜けて高かった。一点分が私の月収を軽く上回ることはざらで、さすがのオサムも時にぼやく。

普段パッパとお金を使うので、無頓着そうだが、仕事となれば値切りの電話を即座にいれた。

理由なく、ただ下げろとは言わない。前回の同じデザインは○○円だった、今回の加工、この部分はもう型があったはず、同じ熟練の職人でない、などなど、きちんとエビデンスを積み上げていく。

仁王社長がダミ声でがなるのが受話器から漏れ聞こえてくる。こうしてオサムが納得するまで攻防が終わることはない。

再び工房を訪れれば、社長はまた目ん玉をぎょろりと光らせ、仁王のように出迎えてくれる。

こんな切磋琢磨を繰り返しモノづくりの真剣勝負は繰り返された。


行き先は、発注先だけとは限らない。

注文の途切れることのない取引先へ、新しくオープンした商業施設へ、話題のギャラリーへ、賑わう街へ、、、。

リサーチするうえで私はカモフラージュでもあったが、常に一つ所にとどまらないオサム。

五感を駆使し、全身で感じる。


彼のおでかけは、やがて創造へ昇華させるためのインプットという作業でもあった。

「PSにこもってちゃ、ダメよ。」

何かを生み出すという発想すらなかった私に、オサムは常々そう言った。


昼間は私を連れ、あちこちリサーチして歩いたオサムであったが、となれば趣旨が違った。


未知との遭遇、、、


さすがに2丁目界隈には一度も連れて行ってもらえなかった。

オサムはお気に入りの営業を伴い、実にウキウキと出かけて行っては、当然のように翌朝は現れない。

靴以外すべて脱ぐBAR、毎回、趣向の異なるイベントを催す謎のラウンジ(完全紹介制)などなど営業たちの話に私は興味津々であったが、、、なかなか突破できなかった。

こればっかりはしょうがないか、と思っていたところ、珍しく夜のおでかけにお声がかかった。


そこは、いつもオサムが遊ぶ場所とは違い、山の手にあった。高級住宅街の中、ひっそりと隠されたようなBAR。

余計な装飾がなく、すっきりとした空間だった。間接照明の中、浮かび上がる大きなグレーのソファに、すらりとした美脚の、白髪でとてもお洒落なマダムが座っていた。


あ!


某有名ブランドのオーナーであった。

私は、一気に緊張してしまい、挨拶以外、とうとう一言も発することはなかった。

普段、こっぱずかしい話全開のオサムもきちんとわきまえている。おちゃらけを封印し、なぜかクールな低音イケボ。

私はただ、ただ、しゃちこばってマダムとオサムの話に聞き入っていた。

その中でとりわけ二つ、忘れられない会話があった。

若隠居して、パリに住みたいわー、と冗談めかしたオサムに、マダムはやんわりと返した。

「早くに引退した人を見かけたけど、

 つまらない人になってたわ~」


ふむ、という顔付きになったオサムに、突然マダムはこんな話を始めた。

裏切られちゃったのよね、私。

あとを任せようと思ってた子がいたんだけど、、、〇〇が裏にいたの。

気づいた時には後の祭りね。ノウハウを持っていかれたのよ。

※○○は個人なのか会社なのかは不明。

「ただ者でないマダム」
も、一瞬、寂しそうな表情を見せた。

オサムは、そんなことでマダムのブランドが揺るぐはずはない、と「意外にいい奴」風のキャラで断言した。

実際、マダムのブランドはその後も長く愛され、勇退と同時に惜しまれつつ廃業した。


マダムは決して顧客というわけではなく、あくまでプライベートでの交流のようだった。

以降も夜、ご婦人と会食などをする際、

どうみても密会に見えないのに


便宜上、私は同席を求められた。

役得として、実にさまざまな素敵なマダムとお目にかかったのだが、宝石を光らせるだけという人はいなかった。むしろ、ピリッとスパイスの効いた話をいたずらっ子のように話しては、私にもウインクするなんて小粋な方ばかり。

才能豊かで、魅力的な人たちに囲まれるオサム。

私は、営業のホープたち『チームびっくり人間』のことを思い出した。

まったく人の話を聞かないのだが、

仕事に誇りと信念を持つ奴らではある。



そして、どんなにイケメン、もしくはナイスバデーでも、

「自らの基準に適う者」


でなければ、オサムは戯れの対象どころか、声すらかけることはなかった。





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