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ルッキズムと広告

またTwitterの話か? はい。世間的にはツイ廃と呼ばれるくらいの時間費やしてるから、どうしても目にする話が偏る。でも思うところがあるので、やっぱりメモをここに残したい。


70kg以上の女はブタ

少し前、ある人(in米国)が「70kg以上の女はブタ」とSNSに書いたことで大炎上し、Michelle Guidoというフェミニストのアカウントの元に様々な人から「私は80kgです」「自分は100kgです」と写真が集まり、それに対して「体重と美しさは関係ない!」とムーブメントが起こっていた。ルッキズムについては「LGBTQ当事者同士のすれ違い、など」や『「可愛い」の実態』で触れているが、日本国内ではあまりメジャーな言葉ではないように思う。

ジェンダーに関係なく外見に対してコメントしたり、本人の関与せぬところでジャッジしたりすることはハラスメントに当たる。もはや米国ではルッキズムに基づいたハラスメントは訴訟の対象だ。にもかかわらずこうしてSNSで女性の体型について言及して、炎上してしまう人がいる。差別的な発言に敏感な米国ですらこの現状。性差別大国ヘルジャパンでの惨状は、想像に難くない。


古代ルッキズムを助長する広告業界

日本の電車は、海外の公共交通機関と違いものすごい量の広告で埋め尽くされている。スペインのバスにはかろうじてモニターが2つ付いていて、次に停まるバス停を知らせてくれる合間に、ローカルビジネスの広告動画がチョロっと流れたりしていたが、電車内には見られなかった。米国も車内広告は非常に少ない。そしてふと気づくと日本では、電車に乗っているだけで、やれ「痩せろ」「筋トレしろ」「英会話をやれ」「整形しろ」「脱毛しろ」「育毛しろ」と、体毛も「生やすの? 駆逐するの?」と大混乱を起こしかねない、まるで360度から指示されているようなメッセージに囲まれている。

太っていようが痩せていようが、体毛が毛深かろうが頭髪が薄かろうが、そんなことで他人をジャッジしてあーだこーだ指図するのって、罪の領域だと思う。なんてことを考えていたら、昔美容系クリニックで働いていた友人が、ぽろっとこぼした言葉を思い出した。

「私たちの業界って、人のコンプレックスを刺激してお金にしているんだよね。」

友人のクリニックに通っていた人が私に向かって「林檎ちゃんて腕毛の処理してないの!? 女としてありえな〜い笑」というようなことを言っていたのを見て、ゲンナリしてしまったようだ。言われた当の本人(豆林檎)は「え? する必要なくない? 毛とか誰でも生えるじゃん笑」とあまり気にも留めていなかったのだが、もしかしたらルッキズムに対して、この時はじめて違和感を覚えたかもしれない。私も昔は、顔のウブ毛を剃れだの手足の毛を剃れだの言う人(ふたりとも女性)と付き合ったこともあったが、素直に言うことを聞いたことはない。そんなめんどくさいことやってられるか! なんなら、私の鼻毛を切ってくれるくらいの人とお付き合いをしたい。余談だが、顔のウブ毛剃れの人はなぜか、脇毛の処理はやってくれた。趣味だったらしい。


Youtube広告に対する署名運動

広告といえば、ウェブ上にも醜悪な広告がたくさん転がっている。『YouTube「外見蔑視」広告に抗議の署名運動 体形・体毛など漫画で...発起人「人を傷つけることにもなるとわかって」』私はこの記事を目にした時「そうだよね!!!!!」とヘドバンの如くうなづいた。

大学生の村田葵さん(20)は署名サイトChange.orgで『【Youtube広告】YouTubeでよく見る体毛や体型などに関する卑下の広告、やめませんか?』というキャンペーンを発足し、2020年6月28日現在では30,000人以上の老若男女からの署名が集まっている。このキャンペーンは「太っているからフラれた、浮気された」とか「好意をもっている女性から童貞デブと罵られた」(童貞関係ない上にシンプルにセクハラ暴言!)というような表現を使うコンプレックス商材の広告は、商品を売るために誰かを傷つけるとして、ダイエットサプリやバストアップサプリ、筋肉増強サプリなどの販売元である3社(ヘルスアップ、エムアンドエム、Kanael)に広告表現の見直しを求める活動だ。

実は私も、この手の広告をなんとなく目にしてはいたものの、鬱陶しいので全てスキップしていてきちんと見たことがなかった。このニュースをきっかけに、実際どのくらいひどいのか見てみた。いやあ、聞くに耐えないdisりのオンパレード。こんなこと言われたら誰でも傷つくわ!!! しかも、薬事法に引っかかりそう感がすごい。と思ったら実際に消費庁からお叱りを受けた商品もあるようだ。(※エムアンドエム社をめぐっては、同社が販売するサプリメント「ファイラマッスルサプリHMB」で、筋肉増強や痩身効果をうたっていたものの合理的な根拠がないとして、消費者庁が20年3月、景品表示法違反(優良誤認表示)で措置命令を出している。 J-cast newsから引用)


「見なきゃいい」で防げる? セルフイメージを破壊する広告たち

摂食障害患者の90%は女性だ。しかも、摂食障害になるきっかけのほとんどがダイエット。フランスでは2017年に、極端に痩せすぎたモデルの活動を禁止する法律が制定され、パリコレでも最低BMI値が設けられている。体のサイズで外野から美醜を決めつけられて値踏みされる風潮は、どこから来ているのか。

上記の署名問題を検索していたとき、こんなnoteに遭遇した。

「YouTube広告について~「外見蔑視」広告への抗議署名について思うこと~」(現在記事が削除されており、閲覧できません。何があったんだ…)

要約すると「そんな広告見なきゃいいじゃん」「太ってるのもワキガでくさいのも自分のせいでしょ」という意見である。Youtubeの広告なんて課金すれば見えなくなるんだから、そのオプションがあるのに使わない(自衛しない)方が悪い。そんでもって太ってる=醜い。バカみたいに食べて怠惰な生活してる人が悪い。太ってたり臭かったりしたらモテないのは事実じゃん? てか自己責任じゃん? 

読んでいる途中でパソコンの画面をかち割りそうになった。長男じゃなかったら我慢できなかったマジで(長女だしなんなら一人っ子)。目の前に生ゴミをぶら下げておいて「嫌なら見るな」と言っているのだ。しかもこの人「広告によってコンプレックスを解決できるかもしれない人の立場」とか抜かしている。村田さんは、この広告によって影響を受けた友人たちの傷ついた様子を見て、署名運動をはじめた。そのことが何も伝わっていないし、なんならこの人はニュース記事も、署名運動の背景も読んでいないのではないか。

社会通念として「痩せてなきゃモテない」とか「男は筋肉ムキムキじゃなきゃモテない」とかいう縄文人もドビックリの古めかしい押し付けがまるで脅迫のように、毎日毎日目に耳に飛び込んでくるのだ。自衛のしようがない。だからまず、その社会通念を破壊するために若者の目に触れる頻度が高いところから潰していくしかない。だいたい痴漢被害もそうだけど、なんで被害を受ける側が自衛しなきゃいけないのか? 被害者はいつもこうして二次被害にさらされる。

外見蔑視の広告は、外見を理由に他人を卑下していい、と触れて回っているのと同義だと思う。

しかし私は、高校生や大学生の若者たちが矢面に立って「伝統的(笑)」な概念のアップデートを啓蒙してくれていることに、大きな希望を見出している。どこに行っても「外見をどうにかしろ」というメッセージが目に飛び込んでくる中で「そんな古い感覚を私たちに押し付けないで!」と主張するなんて、主張していいなんて昔の私は思ってもいなかったから、本当に素晴らしいし純粋に嬉しい。自分が10代、20代の頃なんて、その発想にいたる前にまずその手の情報に踊らされてアイプチを使ってみたり、蕁麻疹を我慢しながら一生懸命手足を剃っていた。

この感覚の若人たちが、少しづつでも世界を変えてくれている。ひとりでも、ルッキズムによって傷つく人が減るように、私がこうして様々な人からエンパワメントされているように、私もそのお手伝いができれば幸いだ。

(豆林檎)

<参考・引用文献>

【Youtube広告】YouTubeでよく見る体毛や体型などに関する卑下の広告、やめませんか? | Change.org

YouTube「外見蔑視」広告に抗議の署名運動 体形・体毛など漫画で...発起人「人を傷つけることにもなるとわかって」 | J-cast news

YouTube広告について~「外見蔑視」広告への抗議署名について思うこと~ | note (現在では削除されているようです)

摂食障害:神経性食欲不振症と神経性過食症 | 厚生労働省 e-ヘルスネット 

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