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特定の性別における人間関係への支援方法―養育者との関わりによる愛着スタイルから―【要約版】

2023年度 学部卒業論文より
キーワード:愛着障害,愛着スタイル,人間関係

 論文内で行われた調査に関しては,対象者に事前に説明を行い,私自身が通う大学内の「学則」及び「研究倫理規定」に定められている規定に則るもの,及び個人情報等取り扱いの配慮を要するものについては,(学内の)「研究倫理審査会」による倫理審査を2023年11月24日に受理された後,行いました。
 つきましては,(このサイト内では)対象者の個人情報保護のため,大学名や学科名等を伏せた状態で,発表させていただきます。


要旨

 近年,児童虐待は増加傾向にある。こども家庭庁が2022年に発表した「児童相談所における児童虐待相談対応件数(速報値)」によると,2022年度中に全国232か所の児童相談所が児童虐待として対応した件数は219,170件で,この数値は過去最多という。また,心理的虐待が全体の半数以上を占める結果となった。
 児童虐待が増加する主な要因として,核家族化の進行やシングル世帯となること,母親の養育能力の低さ等様々なケースが挙げられており,不適切な養育を受けることによって,心身や生活に影響を及ぼす恐れも示されている。特に近年,女性の社会進出の割合が大きくなりつつあり,健康面のみならず,幼い頃に児童虐待等の不適切な養育を受けることによって,母子関係や情緒的な問題も懸念されている。この点を踏まえ,本研究では幼い頃の養育者との関わりが,人間関係における困り感及び世代間連鎖を軽減することや,子ども時代の早期かつ適切な介入について検討した。
 調査は,本論文の作成者が通う大学(女子大)内の,心理学を学ぶことができる二学科の2年生45名を対象に行われた。Googleフォームを用いた回答必須の選択式2問と,記述式2問の計4問から構成される。調査の結果,回答者が幼少期に獲得したスタイルはAの「とらわれ型」が最多であり,全体の71.1%が,学童期(12歳)までに人間関係のトラブルが「あった」と回答されていた。また,トラブルがあった際の感情や解決までの過程においては各々の愛着スタイルより,影響が推測されるものも発見されている。
 この結果より,幼少期に養育者から安定しないアタッチメントを受けることは,人間関係のあり方やライフイベントにおいても,影響を及ぼす傾向にあることが見られた。今後も女性の社会進出に伴い,愛着スタイルを踏まえた支援が手厚いものとなるよう,更なる検討を進める。

本サイトでは,所々に発表資料や補足を入れています。

Ⅰ 問題と目的

 近年,児童虐待は増加傾向にある。こども家庭庁が2022年に発表した「児童相談所における児童虐待相談対応件数(速報値)」によると,2022年度中に全国232か所の児童相談所が児童虐待相談として対応した件数は219,170件で,この数値は過去最多という(こども家庭庁,2022)。児童虐待が増加する要因として,核家族化の進行により周囲から子育てへの理解が得難くなったことや,離婚などによる,シングル世帯の増加が挙げられる。
 また,母親の養育能力の低さや子どもが障害を抱えているケースも存在する。一方で,子育てへの多様性や,SNSの普及といった現代的背景から,養育者自身の努力が目に見えにくくなったことにより,自己評価が低下して摂食障害等の精神疾患を発症することも一因とされている(生野,2015)。幼い頃に虐待や養育者との離別,養育者から不適切な養育を受け,成長するにつれて愛着障害を抱えるリスクも,本人にとって課題となる場合がある。
 友田が2020年に発表した結果によると,愛着障害や感情制御機能に問題を抱えていることや,うつ病,パーソナリティ障害等の精神疾患へ推移されることによる,社会適応困難の深刻化を示していることが明らかになった。

過去5年間の児童相談所における,虐待相談対応件数とその推移(子ども家庭庁,2022)

友田明美さん … 脳科学者で,医師。福井大の先生もされている方です。
私自身,とても尊敬しています(*^-^*)

不適切な養育を受けた女性は,働く上での健康面のみならず,(自分が親としてでも,子としてでも)母子関係や,情緒的な問題も起こることが,挙げられています。
なぜ女性に限定したかに関しては…
年々の,女性の社会進出が,今回の卒論執筆のきっかけとして
とても大きかったです。
母子間での関わりが困り感に影響されているケースや,世代間連鎖,ヤングケアラーが起きていることを考えると,必ずしも男女平等が重要とは言えず,女性に特化した関わり(支援)も重要ではないでしょうか?

Ⅱ 方法

【調査対象】
 上記の目的のもと,Googleフォームを用いてアンケート調査を実施した。本論文の作成者が通う大学(女子大)内の,心理学を学ぶことができる二学科の学生(2年生)45名が対象となり,調査はチェックリスト2問と記述式2問の,計4問から構成される。
【使用尺度】
 質問事項は回答者の愛着スタイルや,学童期(12歳頃)までの,人間関係のトラブルの有無,またトラブルがあった際は,起こった心情や解決までの過程について問う。
 愛着スタイルを測る尺度として,2018年に文春オンラインにて掲載された,林による「あなたの人間関係の「型」はどれ? 人間関係をこじらせてしまう5つの傾向 立教大学現代心理学部・林もも子教授インタビュー#1」を使用する。はじめにこの尺度を使用し,次に12歳ごろまでの,人間関係のトラブルの有無について問う。トラブルがあった場合には更に自由記述にて,起こった心情や解決までの過程について調査する。
【分析方法】
 Googleフォームの調査は,フォーム内の回答機能を用いて図式化し,個人による回答の違いを分析する。自由記述に関してはカテゴリー化し,各々の回答内容について確認を行う。

林もも子 (2018) 「あなたの人間関係の「型」はどれ? 人間関係をこじらせ
 てしまう5つの傾向 立教大学現代心理学部・林もも子教授インタビュー
#1 」 (文春オンライン掲載) 

なぜ調査対象を2年生に限定したのか?…
2年生という学年 = 多くの人が,年齢として20歳を迎えます。
日本では,2022年4月1日から民法改正により,成人年齢が18歳に引き下げになりました。とはいえ,やはり現在も,20歳が大きな節目の一つと考える方の割合が大きいのではないでしょうか。
拙意ではありますが,20歳という年齢を機に,今までの自分自身を振り返るきっかけとして貰えたら…。と思い、調査対象を2年生に限定しました。

愛着スタイルを測る尺度として,オンラインに載っていたテストとはいえ,
林もも子さんは,愛着について専門に扱っている方であり,
本尺度も,専門性に基づいた上で発表されたものであるため,使用させていただきました。

Ⅲ 結果と考察

 本調査を行った結果から,回答者の女性は愛着スタイルのうち,Aタイプ「とらわれ型」とDタイプ「恐れ型」を選択する割合が多い結果となった。
 この2つのタイプに関して,Aタイプは幼少期に養育者から,そのときによって可愛がられることや突き放されることがあり,安定しなかった経験を持つケースとなる。関わり方が安定していないため,まず養育者の近くにいようとする態度や,注意を引こうと考えて,他者に対する甘えが強くなってしまいやすい。また,Dタイプは他者に対し,傷つけられるのではないかという不信感や,恐怖心を持っている場合がある。この不信感や恐怖心ゆえに,自らが困ったときに助けを求めることができないケースが多い。このタイプは人間関係に傷ついた経験が多く,養育者との関わりのみならず,学校等でのいじめに遭ったことがある場合にも見られる。カウンセリングを受診するクライエントに多いのも,このタイプと言われている。
 次に,全体の7割を超える回答者が,学童期までに人間関係のトラブルが「あった」と回答し,その際の感情と解決までの過程は,他愛着スタイル同士で共通しているものと,その愛着スタイルのみに見られたものが混在していた。
 この結果は,回答者が幼少期に,養育者との関わりが安定しなかった経験や,人間関係において傷ついた経験が多く,困ったときに助けを求めることができない傾向にあることや,愛着スタイルが人間関係のトラブルやその際に起きた感情,解決までの過程にも影響があることを示しており,更に,人間関係のトラブルのみならず就職等,今後のライフイベントにおいても,困難が連鎖されるのではないだろうか。


各愛着スタイルについて(各タイプの内容と、今回の回答者の割合)


Ⅳ 本研究の意義と見込まれる成果

 本研究では,不適切な養育を受けた女性は様々な場面で困難を抱える恐れがあることを提示した。また,幼い頃の養育者との関わりにおいて,人間関係における困り感や世代間連鎖を軽減し,子ども時代に適切な介入を行うことができるように,本研究を検討するものとした。
 今後は更なる女性の社会進出に伴い,愛着スタイルを踏まえた支援が益々手厚いものとなるよう,その一端を担う支援者として,今後も本研究を検討する。

倫理的配慮

 本調査は事前に説明を行い,本論文の作成者が通う大学(女子大)内の「学則」及び「研究倫理規定」に定められている規定に則るもの,及び個人情報等取り扱いの配慮を要するものについては,(学内の)「研究倫理審査会」による倫理審査を2023年11月24日に受理された後,行った。

引用文献

こども家庭庁 (2022) 「児童相談所における児童虐待相談対応件数(速報値)」
田中理恵 (2011) 「社会問題としての児童虐待-子ども家族への監視・管理の
 強化-」 日本教育社会学会編教育社会学研究,第88集,119-138
笹川宏樹 (2019) 「児童虐待の現状とリスク要因」 心理臨床科学9(1),31-
 38,心理臨床科学編集委員会
八木孝憲 (2019) 「家族的無意識と世代間伝達-個人と家族を支える臨床のい
 ち視点-Family's unconsciousness and transgenerational transmission 
佐藤晴彦 (2022) 「研究ノート:複数の子どもを持つとき居住空間はどのよう
 に必要になるのか」 中央大学経済研究所年報,第54号,pp.281-294
生野照子 (2015) 「講義録:摂食障害と母娘関係」 女性学評論第29号
新・プリマーズ 発達心理学 (武藤,中坪,西山 編著) ミネルヴァ書房p.38
森誌媛・高尾堅司・武井祐子 (2023) 「主たる養育者との対人的信頼感と自己
 肯定意識が居場所感に与える影響」 岡山心理学会 大会発表論文集70(0),
 45-46,岡山心理学会事務局
友田明美 (2020) 「総説:不適切な生育環境に関する脳科学研究」 日本ペイ
 ンクリニック学会誌27(1),1-7,一般社団法人 日本ペインクリニック学会
目黒茜 (2021) 「総説:女性をめぐる歴史社会学的な研究動向と課題-女性の
 社会進出に関する研究に向けて-」 社会学ジャーナル46 33-34,筑波大学
 社会学研究室
町島庸介・森地茂・日比野直彦 (2022) 「女性の社会進出と新型コロナウイル
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岩本美江子 (2004) 「ストレスと予防-女性の社会参加と健康-」 山口医学
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柴田玲子・高橋惠子 (2015) 「小学生の人間関係についての母子の報告のズ
 レ」 教育心理学研究63(1),37-47,一般社団法人 日本教育心理学会
寺沢英理子 (2021) 「ヤングケアラーだった女生徒の心理療法-絵画表現を導
 入した事例を提示して-」 田園調布大学紀要(16),71-84,田園調布学園
 大学
林もも子 (2018) 「あなたの人間関係の「型」はどれ? 人間関係をこじらせ
 てしまう5つの傾向 立教大学現代心理学部・林もも子教授インタビュー
#1 」 (文春オンライン掲載) https://bunshun.jp/articles/-/9576 (最終閲覧日
 2023年12月31日)


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