プロレスリングノアの拳王に1年前ドハマりした男がこの1年の進化に腰を抜かしている話
拳王選手にハマった記事を書いてから早1年
あれからもう1年経つのか。
私がNoteを書き始めたころに、相撲ライターという立場を離れて好きなことを好きなように書こうと思い立ち、当時ドハマりしていたプロレスリングノア所属の拳王選手について書いたことがあった。
あの時は確か、拳王選手がYoutubeを始めたことによって、反骨ユニット(平たく言うとヒールレスラーに近い)でモノ申すタイプのレスラーから脱却し、本来の人の良さ、真面目さに加えて小島聡選手と振り切ったコントをすることで新たな境地を開拓し、ブレイクの兆しが見え始めたところだったと思う。
あの時の私は拳王選手の面白さにノックアウトされ、大ファン(拳王選手の言葉を借りると「クソヤロー」)になり、AbemaTVで無料放送がある度にノアのプロレスを観るようにはなっていたのだが、正直なところ世間的には全く届いていないのが実情だった。だからこそ何とも言えないもどかしさしかなかったのである。
恐らくそれは、プロレスリングノアのファンの方も同じだったのではないかと思う。故に当時の記事はこちらの想像をはるかに超える勢いで拡散されていった。熱量の高いファンの方の想いをある程度は代弁できる記事だったということなのだろう。
拳王選手はとにかく面白い。
だが、まだ世間がついてきていない。
それが昨年の7月の段階だった。
さて。
あれから1年が経過した。
拳王選手とプロレスリングノアは果たしてどうなったのか。
拳王選手のYoutubeが1年前よりけた違いに面白くなっている
まず拳王選手だが、驚くべきスピードで進化を遂げている。
一つ断っておくと、拳王選手は現在38歳と、スポーツ選手で言えば大ベテラン、プロレスラーとしても中堅からベテランに差し掛かってくるあたりの年齢である。
普通ここまで来ると社会人だってレスラーだってそう変わることはない。30までに変わらなければ諦められるのが社会人あるあるだ。そうやって窓際に追いやられ、転職していった元同僚を私は何人も見てきている。
だが拳王選手はその限りではなかった。
賞賛したいことは色々あるが第一にYoutubeが驚くほど面白くなったということが挙げられる。
昨年まではまだYoutubeの見せ方が定まっていなかったということはインタビューからも明らかになっているが、レスラーとしての作られたキャラクターという基軸がある中で本来の人格を見せることを全く厭わなくなったことは大英断と言って良いと思う。
昨年の7月くらいまでの段階ではプロレスラーとしての拳王がキャラクターに基づいて人生相談やリング上の抗争を映し出すという方針だった。小島選手と腕立てやらスクワットをするしないで口論になり、結果毎回乱闘に発展する様式美は当時の世界観で言えば一つの到達点だったと思う。2023年7月現在、拳王選手がリング上で見せている抗争も基本的にはこのやり方である。
ただ、拳王選手が今現在Youtubeで見せている基本的な人格はほぼ素の、中栄大輔さん(本名)と言って差し支えないのではないかと思う。ここに舵を切ったことが大成功だった。
正直なところ、プロレスラー拳王というキャラクターはYoutube上では少しばかり観ていてしんどい部分があったことは事実だ。いい人なのは既に駄々洩れなのだ。こっちとしてはいい人である中栄大輔さんに親しみを感じていて、その上でリング上の拳王選手と付き合うくらいのバランスが丁度いいと考えていた。
そうした観方に見事にアジャストしてしまうのが拳王選手のスマートなところだ。
武術系ユーチューバーの先生方に毎度のようにボコボコにされ、
竹下通りで気づかれるまで帰れないという企画では手に装着した綿あめがシナシナになるまで駆けずり回り、
地元の徳島でソウルフードを紹介する。
どれも名作揃いだと思う。
拳王選手がプロレスマニアであることを隠さなくなった
そして、プロレスマニアであることを一切隠さなくなったことも大きい。
きっかけは今年の1月に新日本プロレスの内藤哲也選手との試合が組まれた時のことだ。
内藤選手を戦う前に丸裸にするという目的で内藤選手のこれまでの経緯を模造紙に手書きで年表にしたのだが、このリサーチ力が生半可なものではなかったのである。
内藤選手の起伏に富んだキャリアは有田哲平さんが既にAmazon Videoの番組内でも大きく取り上げているのだが、これとは趣が異なるばかりかここでは触れていない情報も多数あった。
そればかりではない。
何より観る者の琴線に触れたのは内藤選手に対するリスペクトと愛に満ち溢れていたことだった。公の場では拳王選手が内藤選手に例の如く反骨心をむき出しにしながら罵声を浴びせる一方で、中栄大輔さんとしての本音を包み隠さず伝えたことは観る者の心を大いに揺さぶったのだ。
ちなみに個人的には模造紙に書かれた字が汚いことも含めてこの企画は大好きだ。
内藤選手との抗争、そして武藤敬司選手引退のおよそ2か月程度でYoutubeのフォロワーはほぼ倍増したことがそのことを如実に語っていると思う。ノアファンというよりは新日本プロレスファンからの反応が極めて大きなものだった。
これまでは「喋りがわざとらしい」「蹴りばかりでフットスタンプが決め技のしょっぱいレスラー」「ヘビー級にしては174センチは小さすぎる」などと他団体のファンからは辛辣な言葉で評価されがちだったのだが、痛快なまでに多くの人が掌を返したのである。
拳王選手が見事なのはこの「年表芸」を十八番としてビッグマッチの前に披露するのを恒例としたのを始めとして、プロレス愛に満ちた企画を幾つも展開していることだ。
全日本プロレスとの抗争の時には当時コンビニで発売していた「全日本プロレスくじ」の中から対戦相手の3人のアクリルスタンドが全て出るまで自腹で買い続けたり、
本来拳王選手は全く関係のないジュニアの祭典のカードを勝手に予想したり(またこれが実に面白いのだが)、
新日本プロレスのBUSHI選手の唐揚げ屋の前でノアファンが来るまでインタビューを続けたりと、
全てが振りきれているレベルでどうかしているのである。
拳王選手のマイクが格段に良くなっている
そしてもう一つ。
マイクが昨年の1年からは比べ物にならない程上達しているのだ。
個人的にはこれが一番の驚きと言っていいと思う。
拳王選手独特の悪態を付くリング内外の喋りは、再現しようとすると相当難しい。というのも、キャラクターがあるので言いたいことを一度プロレスラー:拳王選手の喋りに置き換える必要があるからだ。
このキャラクターがあるからこそ拳王選手はオリジナリティが存在しており、今更全てなかったことにしてYoutubeでの喋り方に置き換えるという選択は取りづらいところだと思う。ただ、キャラクターが足かせになっているように感じていたことは事実である。
Youtubeでの素顔の中栄大輔さんが魅力的に映れば映るほどに、無理をしているプロレスラー:拳王というキャラクターにファンとしても譲歩しながら見続けなければいけないという何とも辛い状況を招きつつあった。
ただ、構造的にどうにも解決しづらいこの問題を拳王選手は解決してみせた。ここ数か月のマイクは実に見事なのだ。
新日本プロレスのリーグ戦:G-1クライマックスに出場する清宮海斗選手を激励するマイクも、
8月に始まるノアのリーグ戦に呼び込むためのマイクも、
自身のユニットである金剛が解散した時のマイクも、
脳から何かがドバドバ出てくるような熱さがある。
あまりに引き込むので少々の誤りなど全く気にならないし、それを指摘するのも野暮だと感じさせるほどなのだから本当に恐れ入る。
ノアの公式Youtubeで「カリスマ爆発」などと最近は拳王選手のマイクに関してはタイトルで煽るのだが、全く書き過ぎている感覚は無いし、普通じゃない次元にまで行っていることは観客の反応を見れば一目瞭然だろう。
とにかく、この1年の拳王選手の変化と進化が止まらず、本当に驚く。40前のおじさんがこんなに変われるのだ。まだこの船に乗りかけて大した月日も経っていないが、感慨深い。
プロレスリングノアの動員が上がってきている
そして、拳王選手の進化は個人の人気の獲得に留まらない。
そう。
彼の所属するプロレスリングノアの動員にも大きく結びついているのである。
コロナの影響もさることながら、コロナ前の数字を見てもプロレスリングノアの観客動員は少し寂しいものがあった。武藤敬司選手の入団と引退という言わばブーストによって回復傾向にはあったのだが、今年2月の引退でかなり不安なところがあった。
が、ここのところは東京近郊の規模が小さめのホールでは満員もちらほら記録しており、満員にならない日でもかなりの席数を観客が占めていることが分かる。
特に面白いのは、観客の熱量が非常に高いところだ。
面白いものが世に出ると、良いお客さんが最初に飛びつくことが多い。良さが肌に合っているということもあるし、当事者意識が芽生えるので拡散にも協力的だ。ある程度人気を得てからファンになる方とは少し人種が異なると言っていいだろう。
今のノアでは質の高い新規ファンと、長い間苦楽を共にしてきた古参ファンが上手くミックスされているように感じる。大相撲人気がV字回復してきた2013年ごろの国技館を思い出すような、そんな感じだ。
ツイッターのノアのハッシュタグで追いかけるとファンのつぶやきを見ているだけで面白いし、拳王チャンネルの生配信時のコメントも実に質が高い。試合を観た後でそちらを追いかける楽しさもある。団体として今、成長曲線を描きつつあるということがよく分かる。
何よりも、今のノアの試合が面白いということについても言及せねばいけないだろう。
プロレスの世界では選手の質、試合の質が高くても、観客動員に繋がらないということもあるらしい。それはあくまでも選手側の言い訳と捉える人も居るが、個人的にはなるほどと思うところもある。
たとえ質が高くても、楽しい空気が出来ていなければ没頭することは出来ない。例えば素晴らしい取組が続いても客席がガラガラなのと満員で歓声が絶えない環境を比較すると、どちらがより楽しめるかは一目瞭然である。
楽しむための雰囲気、空気が出来上がってきていて、その上に質の高い試合が展開される。興行として良いサイクルが出来つつあると言っていいのではないだろうか。
地方の動員はまだ改善の余地があるし、新人の人数が少ないという課題もある。拳王選手以外の発信が少なく、ノアという団体が人目に付きにくいという見解もある。ただ、それらの次なる課題が見えてくるようになったということは、目下の課題としてきた部分がある程度解決されてきたとも言えるのではないかと思う。
拳王選手の成長と、拳王チャンネルの上昇によってノアという団体までがこの短期間に上昇カーブを描き始めたというのは驚異的なことだと思うし、少しずつ観客を巻き込んで熱量が高まっている様子をリアルタイムで体感するのは本当に楽しいことだと感じている。
相撲という軸足がある状態で、ノアにまで手を出してしまうと果たしてどうなってしまうか。まだ引き返せると思いながらも、今の熱量を感じることこそが大切なのだと思う自分も居る。
今私が大いに悩んでいるのは、現場に足を運ぶか?ということなのだ。
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