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旧友に声を掛けずに再会する、「時間旅行」のススメ。

noteを始めてから今までしなかったような頻度で昔話をしています。


私にとって昔話というのは自分を構成するかなり大切なものですし、誰もが予測出来ない何かが起きていて、しかも私というちょっと感覚がズレた人物が語るから格好のネタになる。


そんなことを繰り返していて思ったのが、過去に関わった人物に会ってみたいということでした。


しかも、この数十年関わっていない方が面白い。SNSなどで繫がりがあるとお互い知っているので、空白がもはや空白ではないですからね。


恐らくこれは、時間旅行です。
お互いの行間を埋める、数十年を辿る旅。

昨日は有給休暇を取ったので、そんな旅に出ることにしました。


以前も話しましたが、私の高校は男女別学で、男子クラスと女子クラスが別れており、体を壊して部活を辞めた私にとってはほぼ2年半男性としか関わりのない、正に少年院でした。

近い友人は陸上部には居て彼らとの繋がりはありますが、SNSの無い時代でしたから、卒業後に関わりのある友人はほぼ居ません。


私には当時、入学直後に出席番号がイチ違いの友人が居ました。槇原敬之と谷村有美と映画とシャイダーが好きで、家にレーザーディスクがある変わった少年でした。

槇原敬之は自身が、そして谷村有美は夫が逮捕されていて、なぜ彼は逮捕に関わりのある人を好きになるのかはよくわかりませんが、ちょっと変わった彼の感性が面白く見ていたように思います。


ふとしたことから私は彼が最近東京近郊にラーメン屋を出店したことを知ります。


それくらいしか今の彼の情報はありませんが、逆にこれは面白い。初の時間旅行にはピッタリです。互いに何をしているかまるでわからないのですから。


そして、ラーメンという彼の今を知ることが出来る媒体すら存在する。これを食べることが彼の今を、そして空白の23年を旅することになる。


いいじゃん、こういうの。


そんな訳で、私は東京近郊の某所を目指しました。ちなみに本八幡からはまぁまぁ遠かったです。


こういうのは到着するまでは心踊るものです。どんな23年が彼の丼には詰まっているのか。そもそもこの店はオープン間もないのに既に人気がかなりあります。単に美味い飯を食いたいというモードに入っているので楽しみは一層深まります。


ただ。
ふと考えました。


私は彼に声を掛けるべきなのだろうか?
と。


私は基本的にシャイな人間です。
傷つきたくないところがあります。


仮に「おお!久しぶり!」とやって、向こうが覚えていなかったらどうでしょうか?私もそうですが、彼もかなり気まずい想いをすることでしょう。


そして、追い打ちを掛けるようにほら、日大桜丘高校で一緒だった西尾だよ!と言って、彼が更に首をかしげたら、これはもう大事故です。



私はたちどころに新手の特殊詐欺を周囲に疑われることになります。そうしたら警察にマークされるリスクが浮上します。時間旅行などというニヒリズムに浸ることもその時点で終了です。


となると、私は23年ぶりの再会という一大イベントでどのように彼に私の存在を伝えるか?そして思い出してもらうかをひたすら西に移動しながら考えましたが、結局のところ彼の中で私がどの程度の存在か?ということでしかないことに気づきました。


つまり、彼の中で私の存在が小さければ、どんなに思い出させる手段が精巧でも無意味なのです。


そう考えると、彼の中で私がどの程度の存在か?といった出口調査のミニマムマックスのようなデータは存在しないので、ゼロ以上100未満としか回答が出せません。


基本的に私は悲観的な予測をすることでダメージを軽減したいという思考に走りがちなのですが、今回もそうすることにしました。


再会はするけど、ラーメンを食って、おしまい。

そんなのでいいかなと。


そうだ。時間旅行に言葉など要らないんだ。ラーメンの中にだけ集中すればいい。それが何より時間を雄弁に語る行為です。


自らの悲観的な予測をそんな形で封殺し、某所に到着する西尾。42年間降りたこともない駅には今どき珍しくブックオフが駅前の一等地に鎮座しています。


そんな小さな発見を重ねながら気分を高めていきたいところだったが、割とすぐに到着してしまいました。


いかにもな居抜き物件。


新規オープンではあるが、外観はかなり年季が入っている。店としての年輪は重ねているのですが、彼の店になってからは日が浅いというアンバランスさが妙な感じです。


油そばととんこつラーメンが選べるらしい。ラーメンと聞いて油そばを頼むようなイメージは出来ていなかったので、ノーマルラーメンを選択。券を買い、中に入ろうとすると、アシスタントの方から店外で待つように促される。


おや。
満席でしたか。


少し待つと一人の客が食べ終わって出てきました。待てと言われた手前店外で待つも、5分位してもなかなか呼ばれません。


一人分空いているのに入らず待っているとそれはそれで後から来た人が訝しがるのでは?と思い、再度入りました。


そうすると、アシスタントではない誰かが店外でお待ち下さいと再度促してきた。


お、同級生の彼だ。


こちらは一目で分かったのですが、私はサングラスにマスク姿なので客ではなく西尾だという反応は皆無でした。


彼からするとアシスタントに一度外で待つように促したのに再度入ってきたふてぇ野郎というレッテルを貼っている可能性もありますが、一人出たあとでまぁまぁ待った以上そこは仕方ない。仕方ないことにさせてくれ。頼む。


ようやく友人なのか知人なのか知人以下なのかわからない彼から店内に入るように促され、入店。


ノーマルラーメンの食券を出し、しばし待つ。


友人か知人か知人以下の彼は麺を作っている。太めの麺をぎゅうと押し付けて、塊にしている。そしてひとしきり押したところで鍋に投入する。


見たことのないような麺を、見たことのないような過程を経て茹でる。意味はよくわかりませんが、こだわりだけは伝わるのです。なるほど。


そして数分後。
「ニンニク入れますか?」
と順に聞かれました。


私はラーメンにニンニクは入れないので、無しでと答えました。ガッツリ目は見られましたが、特に反応はありません。


そして、
ラーメンが出てきました。


豚骨ラーメンではありますが、白濁スープではありません。どちらかというと茶色。家系ラーメンのような佇まいです。

豚骨ラーメン


この茶色が何から来るものなのかは分かりません。醤油なのか、スープ固有のものなのか、またそれを味わって判別するような食通のようなことは出来ませんが、とりあえず博多ラーメン的な豚骨でないことは分かりました。


いただきます。


舌にザラリと残るようなスープ。
そして醤油と思しき塩気。

もしこれが醤油が一滴たりとも入っていなければこの馬鹿舌を蔑んでほしいところですが、かなりのパンチが込められたスープであることはすぐに分かりました。


そして、麺。


少しヒラヒラ、ピロピロとした感覚の麺。太くてこのパンチの効いたスープにとにかく乗ります。


家系のようではありますが、家系のようなハードさとは別のパンチです。腹は下すかもしれませんが、もたれない感じとでも言うのでしょうか。これは味わいというよりも体へのダメージという観点の感想です。何だこの食レポは。


これが彼の23年か。


ちょっと、料理人が羨ましくなりました。食えばその人が何をしてきたのか、そして今の腕や理念が全て分かるからです。


こんなハードな食い物を出すところに、彼は23年でたどり着いたのか。


このラーメンは美味いのですが、それ以上に残ったのは私の知らない23年がここにあるということでした。


高校の頃は声が細くて体育教師に詰められていた記憶のある彼が、アシスタントが霞むようなデカい声で接客をしている。ひ弱な印象で、目だけは力のあった彼が、意志のあるラーメンを出している。


これは、確かに時間旅行だ。


確かに42歳の彼がここにいる。私がフィリピン似行き、福島で塾講師になり、府中でパワハラを受け、飯田橋で立ち直り、ライターとしての肩書も持った中で、彼はこれをしていた。


ラーメンを通じて、それぞれの時間を感じる。


もう私はサングラスもマスクも無く、髪の長い西尾が前髪を時折かき上げながら麺を食う。


それを見ながら全く無反応な彼。
もう私のことを覚えているとか覚えていないとか、声を掛けて久しぶりセレモニーとかその辺りはもう要りません。


私にとって彼は最初の高校の友人であり、思い出もあり、このラーメンから感じるものがある。それでいいじゃないか。


汁物を食べると鼻水が出るので、感極まっている変な人に見られるかもしれない。単に顔の濃い客が泣きながら食べているという勘違いならまだ良いですが、一応ここまで来て点と点が線で結ばれる可能性もあるので、少し顔を隠しながら鼻をかむ私。


食べ終えて丼を上げるとやはり腹の底からの野太いありがとうございますでお見送り。


当時は似合わないのに背伸びして付けていたサングラスを、今の自分は単に西日がキツくて目が痛いという極めて実務的な理由で掛ける。


声を掛けて旧交を深めるだけが、再会じゃない。飯を食うだけで感じる再会もあるのです。


ああ、今日はこれから何度かトイレ行くんだろうなぁ。なかなかのパンチだった。


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今日は趣味で友達を作ることを激烈におススメするという内容です。アプリをダウンロードしなくても、再生ボタンを押せば大丈夫です。


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