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丸藤飯伏の凡戦の衝撃を、今後に結び付けられるか。選手・会社共に胆力が問われる

何度かお話ししているように、最近プロレスに戻ってきました。

きっかけがプロレスリングノアの拳王選手で「拳王チャンネル」の発信があらゆるYoutubeチャンネルの中でも恐らく有数のものであるレベルなんです。

そして去年ふとしたきっかけでカルッツかわさきでのプロレスリングノアの興行に足を運んだらこれもまた腰が抜けるほど凄くて。こんな試合間近で見ちゃうとこれからも期待しますし、絶対観たいと思えるわけです。

そんな中で1月2日に有明アリーナという1万人以上収容可能な大箱で年明け最初の興行が行われる。

しかも、本来メインを行うはずだった拳王征矢という対戦から、丸藤飯伏というプロレスファンなら誰もが知っていて、期待値が高く、そして下手するとプロレスから今は離れている人にまで届くカードを組んできました。

それが大いに物議を醸していた(大半の意見が拳王征矢をメインに据えるべきというもの)ので、最近戻ってきた立場から記事を書いたら16000PVというnoteでは過去最大を大幅に上回る反響がありました。

正月に妻が旅行に行くという偶然も重なり、直前で有明アリーナに足を運べることになり、喜び勇んで駆けつけました。

ただ。
プロレスファンの方ならご存じだと思いますが、事件が起きてしまいました。

この興行のポイントは、個人的には「飯伏丸藤に引き寄せられた従来のノアを観ていない方に、今のノアの選手が魅力を届けられるか?」という点に集約されると感じていました。

序盤に出てきたマサ北宮は新日本プロレスの人気レスラー:石井智宏との肉弾戦で、泥臭い試合のクオリティでも劣っていないことを見せられましたし、

新日本プロレスが誇るヒールユニット:HOUSE OF TORTUREとの対戦では一糸乱れぬ極悪三昧を受け切る形で清宮海斗選手を始めとするノア軍が勝利したことも素晴らしかった(HOUSE OF TORTUREがまた素晴らしかった)し、

(これ本当にくだらなくて大好き)

セミに変更になった拳王征矢戦はメインを食うという気概が見られ、互いが互いを高める現時点でのノア最高峰とも言える内容だったと思います。

メインさえあんなことにならなければ。
それだけが本当に残念でした。

前回の記事を多くの方が読んでいることを考えると、私はもうこれを飯伏幸太選手と丸藤正道選手が読んでる前提で書く必要があると思っています。

そのため、本当に言葉には気を付けなければいけないし、誤解を生んでもいけないと感じています。

ですから言葉を選びながら、でも感じたことは伝えるという、非常に難しいことをこれからしていきたいと思います。

さて、ここからが大変難しいところで、本当にもう逃げ出したいという想いもありますが、覚悟を決めて書きます。

一言で表すと、飯伏丸藤の対戦は期待していたレベルからは程遠いものでした。

後の報道では飯伏選手が試合中に両足首を負傷したということで、救急車で搬送されたという情報が出てきましたが、有明アリーナに居た者としてはただ困惑するばかりでした。

飯伏選手の試合を知っている身としては、別人にしか見えなかったからです。

ゆったりとした序盤はシングルマッチに対する期待を高めようとするものだったのかな?とも感じましたが、時間が経過しても一向に飯伏選手がらしさを見せない。

スピードも無いし、体も緩いし、コーナーポストに上ろうとしても足を踏み外すというミスも何度か出ました。

段々と「これは飯伏選手が以前のようなプロレスを見せられないのでは?」という疑念が場内でも共有されてきたところでXを観ると既に誰もが事態に気づいていて、異様な空気が充満していました。

「飯伏がんばれ」という歓声が増えだしたのもこの頃からでした。

飯伏選手が技を仕掛ける度に何か起きないかが不安になりました。プロレスリングノアでは15年前に社長である三沢選手を試合中のアクシデントで亡くすという事故が起きています。ですから、このような状況になると心配が先に立つのかもしれません。

試合が組まれた経緯を考えると、凡戦の色合いが深まってきたところでブーイングや罵声が起きても仕方がない状況だったと思います。

しかし、単につまらないものを観ているのではなく、歴史的背景がある中で組まれたドリームマッチでこの事態になっているということが、怒りではなく不安や心配という感情に動かす結果となったように感じました。

どんな試合が行われるのか?という期待で始まったドリームマッチは、二人がリング上で倒れる結果にならなかったことに安堵することによって終わりました。(その後飯伏選手が搬送されるわけですが…)

この試合をメインに据えた意味について私の解釈は戦前に記事にした時のものと変わらないですし、丸藤飯伏に誘われる形で有明アリーナに足を運んだ人やAbema生中継を観た人にもセミ前までのノアの素晴らしさは伝えられたとも思います。

ただ、このメインを観てしまった人がこの後もノアを観たいか?と言われると答えに窮してしまう結果になったということは事実です。

このような試合をメインに据えてしまう決断をする、しかもそれが拳王征矢という誰もが見たいカードを押しのけてする団体に対してまた来ようと思えるのかは疑問だからです。

そして怒りや落胆ではなく心配や当惑という感情をメインに感じさせてしまうこともまた、プロ失格と言わざるを得ないかなとも思います。

しかしそれでも、今日の出来事をなかったことには出来ません。むしろこのような事件をどう次に繋げるかで団体の力量が問われるのです。

一番簡単でついしてしまいがちなのが、別の話題で今回の出来事を風化させようとすることです。

別の話題が魅力的で、盛り上がるのであればそれでも良いです。そういうものが提示できるのもまた団体の強さではありますが、ここまでインパクトの大きな出来事を忘れさせるというのは相当な力量が必要です。

ですから勇気は要りますが、この出来事から次の物語を紡いでいってほしいと思います。

個人的にすごいなと思ったのは、飯伏丸藤戦のあとで既にその展望が観られるかもしれないという種まきが行われたことです。

ジェイクリー選手と清宮海斗選手がジャージ姿でリングに戻ってきて、ジェイク選手は「最後メインに拍手を、なんて言う訳ないだろ!」と発言しました。

恐らくこのマイクは元々予定されていなかったものです。流石にこの試合内容でなければフィットしない発言ですから。

試合後に出てくることは可能性としてあり得たとしても、試合内容を踏まえたうえで観客の想いを的確に代弁したジェイク選手の存在に観客としても興行としても、そして今後のことを考えても本当に救われました。

この後の締めを清宮選手に託されたのは無茶だとは思いましたが、人気選手がこの状況で矢面に立ち、場の空気と自身のキャラクターに合わせたポジティブなマイクをするというのは大事でした。

この地獄のような場で、しかも準備が無いのか内容を大きく変えなければならなかったのかは分かりませんが、ジェイク選手についてはあの場を目撃したファンからするとベビーフェイスとしての地位を確立したように思います。

そして丸藤選手もまた、このようなコメントを試合後に残しています。

丸藤選手に関しては大変な立場だったと思いますし、これからも恐らくは大変なことになることが予想されます。拳王征矢の一戦をメインからセミに変えたばかりか、そのメインを凡戦にしてしまったという立場だからです。

飯伏選手にアクシデントがあり試合後に搬送されたと言っても、それなら仕方なかったでは済まされないものが出来てしまった。

自身に観客と選手のヘイトの目が向けられることを踏まえたうえで、壁になるという筋書きを試合後の時点で残したことは本当に大事です。

何故ならノアには明確なヒールという立場のレスラーは存在しませんが、あの試合の戦犯(敢えてこの言葉を使います)になった丸藤という軸でストーリーが出来てしまう訳ですから。

私個人としては、丸藤選手は本当に損な立場になってしまったと思います。

メインを奪ったという立場になってしまったばかりか、飯伏選手があのようなコンディションで、しかも怪我までしてしまって、その上で試合を勤め上げたのですから。

昨日の試合、誰しも受け身や技のミスによって怪我しないかを心配しましたが、素人目には丸藤選手の力量で回避できた危機もありましたし、厳しい中でプロレスの体裁を作って、しかもそれが飯伏丸藤というキャラクターを踏まえたものに出来たことは特筆すべきことだと思います。

だから、私は丸藤選手は凄かったと思うんです。
共感する人は多くないかもしれませんが。

しかし。
それでも。

誰しも丸藤選手に同情的にはなれない。その敵意を試合で果たせてしまえば、溜飲が下がる人も出てくる。

今からでも遅くはないので、ジェイク選手以外にもメインに対して噛みつく選手が現れてくれたらいいと思っています。早ければ早いほどいいです。

会社に噛みついてもいいし、丸藤選手に噛みついてもいい。当然飯伏選手に行ってもいい。

一番ファンとしてキツイのは、誰も何もしないこと。
この出来事がスルーされることです。

そして恐らくこれには賛否あると思いますが、飯伏選手だって今回の出来事を次の物語に結び付けられる立場だと思っています。

何しろ飯伏選手は、年明け最大のノアのイベントを壊してしまいました。ノアからフェードアウトするだけでは戦犯という立場を返上できません。

今後ほかの団体も、飯伏選手を大事な場面で使おうとは思えない筈です。現時点では昨日の試合をやってしまった時点で飯伏選手の集客力はゼロに等しくなってしまったばかりか、従来のファンが動けない飯伏に頼る自団体に嫌悪感を示す結果になるからです。

飯伏選手はノアに大きな借りが出来てしまっただけでなく、地に落ちた自身の商品価値を復活させる必要がある状況と言えるでしょう。

あくまでも飯伏選手がパフォーマンスを戻すことが前提ではありますし、凡戦を経て飯伏選手へのヘイトが向けられることがストーリーになるということをファンが望むかは分かりません。

ただ、ノアファンの中に飯伏選手の凡戦は強烈に刻み込まれました。ノアとしてはそれを利用できる立場にあるということです。

昨日の有明アリーナでの興行は、会場に居た5000人+Abemaの視聴者が延べ10万人単位で居るという、とてつもなく大規模なものでした。セミまでの素晴らしさとメインの凡戦は、多くの方に刻み込まれる結果となりました。

しかし、凡戦ですら認知されなければ刻み込まれません。曙ボブ・サップ戦が今もなお語り継がれているのはあの場を目撃した人が紅白歌合戦よりも多かったからです。

私はノアの選手の素晴らしさと、丸藤選手の損な役回りの難しさと、飯伏選手の再起と、会社の立て直しを思うと、全員が等しく良い方向に向かってほしいと心から願っています。

そして、この出来事があったからこそノアが更に繫栄してほしいとも感じました。

全てはこれからに懸かっています。

いや、しかし。
とんでもないものを観てしまいました。
正月早々。

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