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【ヘルスケア】行動経済学の枠組み④:我々は合理的な判断ができているのか?

前回に引き続き,今回の記事はこちらの書籍を基に書いています。

過去のヘルスケア関連の記事はこちら↓

④ 限定合理性

1)サンクコスト・バイアス

『つらい治療を続けてきたからその成果が出るまで続けたい』という患者さんの意思決定は,サンクコスト・バイアスと呼ばれています。
# すでに支払ってしまって回収できない費用のことを,経済学ではサンクコスト(埋没費用)と呼びます。

回収できない費用・取り戻すことができない過去なので,合理的な意思決定においては,サンクコストになったものは考慮する必要がありません

ところが多くの人は,回収できないサンクコストを回収しようとする意思決定をしてしまう傾向にあります。

2)意志力

精神的あるいは肉体的に疲労しているときには,私たちの意思決定能力そのものが低下するということが知られています。

特定の時間には限られた意思決定能力しかもっていないため,定期的に補給する必要があります。

患者さんの多くは,肉体的・精神的に疲労しているので,意思決定の際には,この点を考慮する必要があります

3)選択過剰負荷

医療機関や治療法の選択肢が多い場合,どれを選ぶかが困難になり,結局,治療そのものを受けなくなるということがあります。

つまり,多すぎる選択肢があると選択することが難しくなるため,選択肢を減らした方が選択行動そのものを促進する傾向があります。

4)情報過剰負荷

情報が多すぎると,情報を正しく評価して良い意思決定ができなくなります

医療者は,正確な情報を患者に与えるために,多くの情報を与えて,患者に意思決定をさせようとしますが,あまりに情報が多いと患者さんは,良い意思決定ができなくなることがあります。

このような場合には,医療者は重要な情報をわかりやすく提示することを心がける必要がありますし,患者さんもわからなくなった場合には,重要な情報をわかりやすく説明するよう要求する必要があります。

5)平均への回帰

ランダムな要因で数字が変動している場合,極端に平均から乖離した数字が出た場合,次に現れる数字の平均値はその前の試行と変わらないですが,数字自体は極端な数字よりも平均値に近くなる確率が高いという統計的な性質があります。

しかし,平均値よりも高い数字が出ると次は低くなるという因果関係があるように理解されてしまいがちです。

例えば,健康状態が確率的な変動をしているとすると,極端に悪化した後は平均的な状況に戻る可能性がもともと高いのですが,しかし悪化したときに民間療法によって治療した場合,その治療には効果がなかったとしても,(平均への回帰により)健康状態が回復する可能性が高くなるので,民間療法が効果的であったと勘違いしてしまうこともあるのです。

6)メンタル・アカウンティング(心理会計)

本来考えるべき範囲よりも狭い範囲で意思決定してしまう特徴のことをメンタル・アカウンティングと呼びます。

例 1)働いて得たお金も宝くじにあたって得たお金も,お金としては同じであるにもかかわらず,手に入れた方法によってお金の使い方を変える傾向のこと。
# コロナ下で支給された給付金の使い道にもメンタル・アカウンティングが働いた人が多いのでないでしょうか

医療における治療の選択の場合,治療方法に関する同意書が細分化されていると,その一つ一つについての意思決定を行ってしまい,(本来はパッケージとしてより良い効果をもたらすものであっても)パッケージとして治療方法についての意思決定が行われにくくなるというのもメンタル・アカウンティングの影響です。

今回はここまで。次回に続きます。

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