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物価高にめげずに本を買うということ

物価の値上がりが止まらない。本も高くなってきたのをひしひしと感じる。かつて文庫で1000円を超えるのは,よほど厚い本や。ちくま学芸文庫のような海外の学術翻訳本、講談社文芸文庫など、一部に限られていたものだ。今ではすこし厚い新書や、海外文学の翻訳文庫だとあたりまえのように1000円を突破する。2000円に近い文庫本もある。消費税も10%上乗せされるので、値段はさらに上がることになる。青土社の『ユリイカ』や文芸誌、専門分野の雑誌も軒並み値上がりした。新書を700円台で買えた頃が懐かしい。

さらに、コンビニで雑誌棚の完全撤廃検討というショッキングなニュースが飛び込んできた。

ウクライナ戦争によって、紙の値上がりも著しい。これも時代の流れと言えばそれまでだが、それを言い訳にしたくはない。電子書籍がいくら普及しようが、やはり紙で本を読む読みやすさは、別格だからだ。

時代のせいにして、知を吸収することを怠ると、考える力が後退し、複雑な社会状況で判断するための基準となる知識が欠落してしまう。そうなると、暗愚な権力者の言葉を真に受けてしまって、またたく間に暗黒の時代に突入する。これは単なる空想ではない。焚書坑儒、言論弾圧など、歴史が証明しているのだ。

『街と不確かな壁』は高いか?

ベストセラーになったが村上春樹の新作『街と不確かな壁』は2970円なので、いわゆる「にわか」で読んでみようと思っても、躊躇する人もいるだろう。文庫になるのを待つ読者も多いに違いない。『街と不確かな壁』の発売日に近所の書店に、開店と同時に駆けつけたところ、予想に反して、行列はできていたなかった。私より先に店にたどり着いたおばさんに一位の座を奪われたものの、二番目であっさりと購入することができた。これは拍子抜けであった。私の後ろ、三番目の客は、開店と同時にはいなかった。

だが数日後に同じ書店に行ったら、『街と不確かな壁』完売していたので、それなりに売れたのだろう。とはいえ、賃金が上がらず、物価が青天井に上昇する今のご時世に、2970円の書物を買うのは、決して容易なことではない。どうしても「本よりもパン」の方に優先順位がいきがちだ。

ブックオフで本を安く大量に買うことができるが、その未来は?

一方で、ブックオフは、アプリ会員になってお気に入りの店を登録すると、クーポンを利用することができるので、汚れを気にしなければ、1000円払えば、100円コーナーで10冊近く購入することができる。中には、よく探すと、ほとんど新品に近い状態の本が厚さに関係なく100円で購入することができる。これはかなり大きい。私もよく掘り出し物を見受けたり、買い逃した本をよく購入させてもらっている。

以前、実家近くのブックオフに足を運んだとき、女子中学生くらいの子たちが、15,6冊くらい抱えきれないほど本を手に挟んで店から出てきた。若い子達が本を大量に買っているのを見ると、日本もまんざら捨てたものではないと思う。

とはいえ、こうなってくると、新品の本を買うのは大変な贅沢な行為のような時代になっているといわざるを得ない。新品の本が売れなくなると、中古市場も停滞していくのは時間の問題であろう。今はまだその過渡期かもしれないが、1,2年もすると、中古市場がどうなるのか?引き続き、リサーチしていきたいと思う。

こんな時代だからこそ、雑誌の凄さを再認識したい

書店で雑誌コーナーをつぶさに見ていくと、恐ろしく細分化されたジャンル毎に、おびただしい種類の雑誌が並べられ、密度の濃い情報や知識がぎっしりと詰まっていることに、驚嘆の念を禁じ得ない。雑誌を一冊作るのにどれほどの労力が必要なのか、それを考えると、雑誌とは、出版編集者の途方もない血と涙の結晶なのだ。書店は「知」が凝縮した空間なのだ。

本が売れないといわれて久しい。本が売れない,読者が減る時代だからこそ、本や雑誌で専門知を吸収することが、どれほど他者と差を付けることになるのか、その意義と効果をもっと考えたほうがいい。こんな時代だからこそ、むしろ雑誌の良さにもっと目を向けるべきなのだ。

本とのタッチポイントを増やすのはリアル書店だ

先日、ある書店で、20代くらいの若い金髪のお兄ちゃんが「こんなの全然興味ねーよ」と言いながらも、ウクライナ戦争やプーチンの研究書をめくっていた。本当に興味がないのであれば、手に取ることもないし、視界に入ることもないはずだ。むしろ、「こんな本があったのか!」という新鮮な驚きを感じていたに違いない。大事なのは、潜在的読者のタッチポイントを増やすことだ。それに一番有効なのが、実際に書店に足を運ぶことだ。

書店に行かなければ決して知ることはできない。amazonのレコメンドだけで,思いもがけない本に出会うことは不可能だ。

コロナ禍が明けたとされる2023年5月くらいから、地下鉄で本を読んでいる人をよく見かけるようになった(単なる「カラーバス効果」かもしれないが)。地下鉄も電車も、どこもかしこも、スマホをいじっている乗客がほとんどだが、一車両に一人でも文庫本を読んでいる人を見かけると、なんともホッとするというか、心強い気持ちを感じる。決して本が読まれないわけではない。読者はいるのだ。

だが、これだけ出版数が多いと、何を読んだらいいのかわからないのも確かであろう。ブックファシリテーターのような、本の専門家みたいな存在が求められる時代と言える。

言いたいことことはただ一つ!

本の価値は、読んだ人にしかわからない。
本は買わないより、断然買った方がいいに決まっている。
本を読まないより、読んだ方が、生活も心も、物の見方も、何もかも豊かになる。

私が言いたいのは、ただ一つ。
物価高にめげず、本を買って読もうではないか!

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